第159話


異世界1ヵ月と22日目。この世界の暦では11月14日で日曜日。


この世界では、定休日を設ける店は少ない。


何処のブラック会社?と聞きたくなるような労働条件が一般的と言うか、労働条件って何?ってぐらいの認識。


なので、海渡自身が、うちの商会って、ブラックだよなぁ・・・と反省しているが、従業員達は、逆に

「なんて条件の良い所なんだろう?」

と言う認識である。


そんな中で、今週から火曜日を定休日とする事に決定している。これは王都支店も同様。

なので、従業員としては、本当に嬉しいらしい。


今日は10時からカフェのオープン。

準備は万端!!(しかし、内心はドキドキだが・・・)


日の出前に目覚め、朝の鍛錬の後、昨日作ったリバーシをフェリンシアに教えて、やってみる。

ルールは簡単なので、すぐに覚え、

「海渡、これ面白いですね!!!」

と大絶賛。


3ゲーム程で朝食の時間となる。

「おはようございます。 ちょっと昨夜こんな物を作ってみたんだけど、どう思う?」

と副店長や各部門のチーフ、ヨーコさん達にも見て貰う。


1つ目は、子供用の文字の教材(カードの表に絵、裏に文字)


2つ目は、リバーシ


すると、全員が教材は値段次第ですが、リバーシは爆発的に売れると思うと太鼓判を押してくれた。


裁縫部隊は、

「もしかして、このリバーシって物を入れてる巾着袋は・・・私達が作るんですかね?」


と不安気。

だよなぁ・・・売れると判っている物を入れる袋だもんねw


「まあ、袋に入れて売るかはまだ保留かな。最低限箱か袋にする必要があるけどね。」

と答えると、少しホッとした顔をされた。


今でさえ、フル稼働だもんね・・・


袋の自動生産ってライン作れるかな?と思案する。


「これ、売るとしたら、幾らぐらいで売れると思う? 一応、一般用と貴族王族用の豪華版と分けるつもりだけど。」

と聞いてみた。


すると、

「一般に普及させるなら、大銅貨70枚がリミット、貴族王族用は素材と装飾次第ですかね。まあ、豪華であれば、金貨2枚でも売れますよ。」と。


ふむ。

「判った。じゃあ、その線で行けるように考えるよ。」

と答えた。(つまり人件費が掛からない様なラインにしろよ!と言う事だな)

取説も魔道具で印刷だな。


朝食後に、地下工房へ降り、棟梁達に挨拶し、新しい王都用の4階建ての従業員宿舎を先にお願いした。


あと、銭湯の出来栄えを、ガッツリ褒めておいた。

「ガハハ、どうよ!良いできだっただろ! と言うか、早く温泉とやらに入らせろよ?」

と言われたw


「店もですが、従業員が決定的に足りないのですよ。

まあ誰でも良いって訳じゃないから、増員が難しくて・・・」

と答えると、


「そうか・・・俺らの知り合いとかも当たってみるから、面接して気に入ったら雇ってやってくれ!」

と嬉しいお言葉。


「それは心強い。もし王都にも知り合いいたら、是非声を掛けてみて下さい!」

とお願いしておいた。



さて、リバーシのラインだが・・・取り合えず、取説の製造ラインを作る前に、紙の製造ラインを作る事とした。


理由は簡単で、この世界では、紙はかなり貴重で、しかも全然質が宜しくない。

小学校の頃に使った様な、藁半紙の様な物を、もっとザラザラにした感じなのが普通と言うか、それしか無い。


しかも、それが高い。


前にノートの切れ端で紙飛行機を作って見せた時、アルマーさんが紙に食いついた理由は、それである。


木を細かく砕いて煮込んで繊維を取り出すが、漂白も選別もしてないので、白い紙なんて作れない。


そこで、以前にトレントの繊維を取り出す時に作った、繊維抽出の魔法陣をベースに改造する事にした。

これが出来れば、紙だけでも売れる。


純白の紙になるように、一度クリーンと漂白で色素を抜く様にイメージを追加た。


その繊維(ランダムな方向)のマットを更にそれを均一な厚さになる様にして湿気を与えて光シールドの上に置いて熱を加えながら1トンの圧力でプレスしてみた。


試作が出来た。良いじゃん、真っ白で。文字を書いてみたが、滲みも無く、滑らかで良い。


更に圧力を2トンにしてみた。前より1枚の厚みが薄くなり(鑑定で計測)、1トンより、上質な物が出来た。


と言う事で、これをローラーで巻き取る様な長い1m幅の長い紙のロールになる様にして、ラインを作成。


カットして任意のサイズの束にする魔道具のラインも作成した。


これらを連結すると、自動的に100枚単位指定サイズの紙の束はマジック木箱へと入って行く。


10時前5分となったので、出来上がった、紙の束を持って、カフェの裏手へと回った。



心配していた客足だが、オープンと同時にお客さんが入って来る。


冷蔵型ディスプレイの前は人垣が出来ている。


イートインの店内スペースも、オープンテラス側も満席。


テイクアウトのお客さんの居る横で、一足先に食べているお客さんの

「おいしーーー!」とか

「何これーー!」とか

「この上品な甘さにメロメロですぅ~」等の絶叫が、彼方此方で上がり、それが更なる購入待ちのお客さんの好奇心と購買意欲を掻き立て、もの凄い勢いで売れている。


海渡自身は、値段にノータッチなので、任せっきりだったが、結構良い値段らしい。


トリスターに新たな名所が誕生した・・・と後に言われていた。


この日の為に、訓練を重ねた店員部隊の接客もバッチリで、不安無く見てられる。

スイーツ部隊は、現在10名まで増えており、販売に関係なく、日々ストック分を作っている。


カフェが順調なのを見て安心し、ヨーコさんを見つけて、

「お疲れ様。カフェ、大丈夫そうだねw」

と労を労う。


「はい、今の所問題なさそうで、ホッとしました。」

と安堵していた。


「ところで、ちょっと見て貰いたいのだけど、これ、売れる?」

と純白の紙の束を見せる。


すると、滅茶滅茶食いついた。書庫にあった本より比較にならない程の真っ白で上質な紙。

その滑らかな手触り・・・どれを取っても最高級。


「これを御作りになったんですか!!!!」

と大絶賛。


「いや、これ売れるなんてもんじゃないですよ。

値段にもよりますけど、絶対に売れますよ!」と。


「じゃあ、これ100枚単位で幾らぐらいで売れるかね?

もう製造ラインは作っちゃったからw」

と言うと、


「100枚で金貨2枚?いや3枚? うーん・・・オスカーさんにも相談した方が良いですね・・・」

とヨーコさん。


「ちなみに、原価は幾らぐらいなんですか?」

と言われ、


「幾らだろうか? 木を突っ込んだら、自動的に出来るからなぁ・・・ 木を1本取って来ると、大体1~2万枚くらいは余裕で出来るよ。」

と答えると、


「え?そんなに簡単に・・・流石海渡様です!!!」

と褒めてくれた。


「だから100枚で金貨1枚だとボッタクリの様な感じになるかも。普通の紙って幾らなんだっけ?」

と藁半紙の事を聞くと、


「あんな紙でも高くて1枚大銅貨10枚とかするんですよね・・・ つまり、金貨1枚ですね。」


「うわっ、高っ!! そりゃあ高過ぎだよ!

俺の感覚だと、この100枚で銀貨1枚なんだけど、どう思う?

この紙で値段下げちゃったら、紙を仕事にしてる人に恨まれると思う?」

と聞くと、


「まあ、使う側としては嬉しいですが、確実に潰れる所が増えますよね。」

との事。


ふむ・・・。

「じゃあ、取り合えず、一度倉庫に入れて、オスカーさんに連絡して、見て貰おう。

あ、この紙あげるよw 自由に使ってね!」

と100枚の束をヨーコさんに渡す。


すると、凄く喜んでくれた。


「そういえば、この紙を使って、こういうメモ帳とかにしたら、使い勝手良くない?」

とメモ帳を見せると、


「ああ、これ、前からチョクチョク拝見してて、欲しかったんですよね・・・」

と言うので、


「じゃあ、これ商品化しようか! 売値は銀貨1枚。どう?ヨーコさんだったら買う?」


すると、

「勿論買いますよ! あ、この中の線みたいなのも入りますか?」

と罫線を指さした。


「うん、入れられると思うよ? あった方が良い? 無い方が良い?」

と聞くと、


「勿論あった方が良いですね。判りやすいし。」

との事。


「了解!」と地下工房に戻る前に、倉庫に入れて、オスカーさんに連絡をする。

店の様子を聞き、倉庫に入れた紙の確認を頼んだ。


オスカーさん曰く、

「店は昨日と同じペースですね。問題は特に無いです。

え?新製品でですか? ちょっと見て見ます。

なんですかーーー!この紙は!!!!! 絶対売れます!!! え?値段?」


「100枚で金貨2枚以下だと問題でそうですよね・・・この紙、今どれくらいあるんですか? 早速売り出したいんですが? ああ2000束あるんですか!! じゃあ売ります!金貨2枚で!」

と一方的に切れた・・・。


残りの紙の在庫を入れ、ラインを製造部のダスティンへ引き渡し、これも製造して倉庫に入れてね! とお願いしておいた。


オスカーさんの指示で、トリスター支店でも、紙100枚の束が金貨2枚で発売開始となる。


海渡にしてみると、バカ高いと思うのだが、これがまた、売り出した傍から売れたwww

どうなってるねん!この世界の金銭感覚!!! と1人心の中で突っ込んだ。

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