非凡な二人

 怪異によって破壊された校舎とグラウンドは、等価交換によって元通りになった。

「せっかく食べたのに、これでだいたい使い切っちゃった」

 美玖は残念そうに言う。教室の素材――瓦礫ではあったが――は残っていたのだから、支払う対価はもっと少なくてもよさそうなものだが、実際にはそうも燃費がよいわけではないらしい。それはやはり、人間では行えないことを行っているからなのかもしれない。

「もしかして、これでお別れ?」

 みづほの怪異は祓われた。それは同時にみづほの事情が解決したことを意味する。道宮達とどう向き合っていくのかはみづほの問題であり、もう、そこに美玖も真知も関与しない。そこまで解決を要求するなんて怠慢にも程がある。所詮、みづほの人生はみづほのもの。困ったことがあったり、悩みにぶつかったりしたところで、彼女だけで対処しなくてはならない。

 今回は特別。特例。たまたま手伝ってもらえてよかったね、くらいのこと。

 俯いたまま、今にも泣き出してしまいそうなみづほを見つめ、真知は苦笑交じりに答える。

「まだ僕の姿は見えているんだろう? 先輩は人間の部分を残しているから別として、僕は本当の本当に怪異そのものなんだ。それが見えているってことは、キミはこっち側に片足を残したままだ。店にだって来られるはずだから、来たければそうすればいい」

「また目を晴らして欲しいなら、やってあげるわよ」

 そう言って、キスをする素振り。みづほは思わず両手で目を隠して、笑った。

「また行きますね」

「そうしてもらわないと。うやむやなんてダメよ?」

「二百万。うん、ちゃんと払うから、今だけは甘えるね」


 踏切を下った先、小高い丘の麓にある細長い空き地。荒れ放題のその場所には、普通の人間には入れなくて、見ることもできない喫茶店がある。もしもその姿が見えたならば、要注意。それは普通じゃなくなってきている前兆だから。

 けれど、安心して構わない。そこには『怪異殺し』がいる。

 扉を開ければ、黒髪の青年と金髪の少女が迎えてくれる。

 第一声は平凡に「いらっしゃい」と。非凡な二人は言うだろう。

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