負け戦
第1話 消えた美女
京都医科大学との死闘を終えた翌日の十二月二十五日、クリスマス当日にもかかわらず、街は早くも年末年始を迎えるムードへと移り変わっていた。冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルをのぞいては。
無理もない。京都市大学剣道競技会が開催されるのは、翌年の二月十五日だ。つまり、競技会まで二カ月をきっている。
京都医科大学との試合同様、京都市大学剣道競技会もまた団体戦形式で試合が行われる。冷泉堂大学に加え、ライバルの京泉院大学、松ヶ崎大学、洛南大学が京都市ナンバーワンの座をかけ、平安神宮の境内に設けられる特設会場で激闘を繰り広げる。
松尾親子によると、競技会に参加する三校の大学はすべて京都医科大学よりも格段に強く、私やルーカスでさえも苦戦が予想されるという。
私は心底思う。
『まさか日本で剣道に明け暮れる日々を過ごすとは。。。なんで、こうなったんだ』
私は米ドルを日本円に換金するため、都市銀行が集まる四条通りにやって来た。四条通りは京都市街を東西に走る通りであり、デパートや洒落たお店が立ち並ぶ京都の中心地である。
『アメリカにいる時とやっていることが一緒だ』
400ドルほど日本円に換えた後、四条通りを東に進む。
京都で一二を争う人通りの多い河原町通りとの交差点が近づいてきた。さらに東に歩いていくと、鴨川にかかる四条大橋が見えてくる。そして、四条大橋から川を眺めた。寒いにも関わらず、肩を寄せ合って土手に座って鴨川を眺めながら、楽しそうに会話をかわす若いカップルたちが目につく。
『羨ましい』
テキサスで生まれ育った私には京都の冬は厳しいが、佐々木由紀マネージャーとあんな風に川沿いでイチャつくことができれば、寒さなんか忘れられそうだ。しかし、その佐々木由紀は、京都医科大学との試合の翌日から道場に姿を見せなくなった。
私は佐々木マネージャーと親しいダンディー霧島に理由を尋ねたが、ダンディーも知らなかった。佐々木由紀のことが気になって仕方がない私、そして、ダンディーはいまいち練習に身が入らず、今まで練習でも一回も負けたことがない木田氏や浦賀氏、そして、トモッチこと葛城智彦にまで次々と面を叩かれてしまった。そして、彼らは一様に快哉を叫んだ。一方のダンディー霧島は、ルーカスと松尾女史にこっぴどく痛みつけられていた。
それでも私は松竹寺道場に通い続けた。いつか、佐々木由紀マネージャーが何事もなかったように姿を現す気がしたからだ。
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