京都医科大剣道部 vs 冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル

第1話 タノモー

12月も下旬に入り、クリスマス、そして、新年を迎える準備に世間が勤しむ中、剣道部改め剣道サークルの面々は、脇目もふらず稽古に励んでいた。


本人曰く、「視覚的な稽古」のために一時期稽古に姿を見せなくなったダンディー霧島も復帰した。


さぼりがちのトモッチも、2日に1度は必ず道場に現れ、他のメンバーたちと汗を流した。


そして、運命の12月24日がやって来た。


京都医科大学との団体戦は京都医科大学のキャンパスで行われることが決定していた。所謂アウェーである。


私たちは午後6時に鴨川沿いにキャンパスを構える京都医科大学の正門前で、今回の団体戦の担当者と会うことになっていた。


正門に着く頃、ちらちらと雪が舞い始めた。


京都医科大学の学生たちは、

「ホワイトクリスマスになるかも」

「なんか雪ってテンション上がるよね」

等と言いながら、下校していった。


京都医科大学の学生と思われる一組のカップルが歩いている。憎らしいくらいの美男美女のカップルだ。男が少し後ろで歩いていた女子学生を見ながら、後ろ向きに歩いていると、突然、壁のようなものに当たり、前につんのめって転んでしまった。男は女子学生の手前、格好つけようと思ったのか、立ち上がりながら振り返り、

「この野郎。どこ見て歩いてやがるんだ!」

と「壁」に怒鳴った。


「壁」は面以外の防具を全て身につけ、腕を組んで仁王立ちするルーカスであった。男は再びその場に倒れると、森の中で巨大なグリズリーに出会ったかのように、ピクリと動かなくなった。死んだふりをしたらしい。その横をルーカスを筆頭に、片手に竹刀を持ち、もう片方の手に防具の面を抱えた一団が通り過ぎていく。クリスマスイヴの雰囲気を完全に無視した、この異様な集団の登場に学生たちは戸惑っていた。


正門を入ったところで、冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルの面々は横並びになった。そして、同じく防具を身に着け、竹刀を携えた松尾女史が自慢の大声で近代的な校舎に向かって叫んだ。

「たのもー!」

寒さを吹き飛ばすほどの大声がキャンパス中に響く。

「我らは冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルである!尋常な勝負をしに参った!」

20秒ほど過ぎると、騒ぎを聞きつけた大学の関係者が小走りでやってきた。


40代半ばのオシャレな男だ。タイトな紺のスーツの上に白いドクターコートを羽織り、濃紺色のローファーはピカピカに磨き上げられている。


勝負に飢えているルーカスが、一歩前に出た。


「我らは冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルである。貴校との団体戦に馳せ参じた」


今にも竹刀を振り回しそうなルーカスの雰囲気に圧倒されたドクターコートの男は、

「わ、わかりました。体育館で試合を行いますので、どうぞ」

と言い、校舎に向かって歩き始めた。

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