第69話 一つの思い

リュナまでの村はすべて村人による制圧で沈黙し、決起に賛同する村人も兵士もリュナの街中になだれ込んでいた。街は戦場と化していて、魔術が飛び交い、争いが勃発している。


軍の支部に到着した俺たちの目にはサミラルが司令塔となり、数十人の人間がコミラートに向けて指示を繰り出している。ちょっとした司令室だ。


「サミラル、状況は?」

「現状は小さな衝突で『全て沈黙』させています」

「す、すべて?」

「ええ。ウチのオペレション・コマンダー司令官たちは優秀ですから」


俺が呆気に取られているとサミラルは俺を出口の方に追い出した。


「こちらは大丈夫です。部隊の配置も出来ています。すぐに出撃してください。西の砦が食い破られたらそれでしまいなのですから!!」

「わ、分かった! 行くぞ!」


俺はミレットとマレルに手でジェスチャーをしつつ、再び馬に乗り、フィーリスに向けて動き出した。途中、途中で兵力が合流してくる。


その合流した兵達によればフィーリスは既に厳戒態勢へと移行していて、門も閉じられているという。中にいる兵士はほとんどがエプリス兵であり、現状の打開は難しいらしい。


俺達はフィーリスの手前でどうするか悩んでいた。


「城壁が閉まっているとなると馬で突っ込んでも無理ですね」

「ああ、クソ……! ここまで来て足止めを食らってられるか! 門をぶち破るぞ!」

「それは出来ねーよ! そんなことしたら間違いなく城壁上から集中砲火を食らっちまう。そしたらあたし等は間違いなく全滅だ!」

「じゃあ、どうしろって――」


その時、コミラートがカチン、カチンと音を立てた。

相手は意外な事にミルドだった。


「達也様、お困りのようですね? では私が道を開いて差し上げましょう。達也様、全兵力で城門に向けて突っ込んできてください」

「はぁ? ミルド、お前、何言ってんだ!?」


華麗にミレットが突っ込むが、俺は冷静に切り返す。


「勝算はあるんだろうな?」

「ええ、もちろん。無ければそのような事を交易商――いえ、経済長官の私が言うとでも?」

「その言葉、信じるぞ……ミルド」


俺は振り返り、付いてきてくれた者たちを見渡す。

そして、意を決して叫んだ。


「エプリス軍をフィーリスから追い出すぞ! 突撃っ!」

「「おおおっ!!」」


ミレットを先頭に矢じりの陣型で一心不乱に突撃する。エプリス軍側も攻めてきたことを察知して警報を鳴らす。城門に近づくにつれて弓矢や魔術が飛んでくる。


そして、城門まで残り500メートルほどの所でドカーンと大きな音と共に城門が煙で塗れた。一瞬、ミレットは突っ込むか躊躇する。


「いいから走れ、走れ!! 城門は破壊した! 繰り返す、城門は破壊した!!」


だが、全体が繋がっているコミラートからミルドの声が響き、ミレットは我に返る。


「と、突撃!!!」


一気にフィーリスの城壁を突破し、乱戦になっている一帯を制圧しようとする。

しかし、そんな場面でもミルドの檄が飛ぶ。


「ここは近衛兵に任せてあんた等は屋敷に行け!!」

「だけど!」

「だけどじゃない! あの子はお前を待っている! 行け!!」


俺が躊躇しているとミレットが俺の首根っこを捕まえて強引に馬に乗せた。

 

「ほら行くぞ!!」

「ミルド、すまん……後は頼む」

「ええ。必ず彼女を救ってくだいよ、達也!」


今まで見てきたミルドと全く違う。

そんな印象を受けながら俺はミレットに掴まり、屋敷を目指した。


「おらぁ!! 退け!! アタシに斬られたいなら別だけどな!」


ミレットはブンブンと剣を振り回し、一気に敵をなぎ倒していく。

やはり、東の砦に残していたミレットが育て上げた部隊だけある。逐次、敵が多い方に兵力を集中させ、疲れが出ないように前後左右で入れ替わりながら進む。


コレはさすがに並みの訓練で出来る業ではない。それに加えて隠者も防御魔術を展開しながら適宜、攻撃を加えている。現代で言うところの戦車とほとんど変らない、


「これならいける!」


一気にリテーレ家の屋敷に踏み込んだときだった。もの凄い倦怠感が体を襲う。

この感覚には覚えがある。


「魔力収縮陣だ! 反転しろ」


ミレットの掛け声とで一気に動きを止めて後方へと退避しようとする。

だが、同時にエントランスの方からアロスの声が響く。


「そこまでだ! 全員、動くなっ! 」


その方向を見やればそこにはルカにナイフを突き付けているアロスの姿があった。


全員が一瞬のうちに動揺する。そんな最中、屋敷の至る所から兵士が現れ、魔術石をこちらに向ける。数にして100人以上だろう。


とても逃げられる状況でもない。


「大人しく投降すれば危害は加えない。すぐさま投降しろ! 投降しない場合は分かるだろう?」


兵士たちは全員、狙い澄ますかのように俺たちに狙いを定める。


「達也、どうする? 選択肢は行くか、退くかしかねぇーぞ……」

「私もミレット様に同意します。あの男は最初から私たちを殺すつもりです」

「何!?」


ミレットとマレルは俺の予想を越えていた。二人が見渡す方向に視線をそっと向ければ、エプリス軍の兵が静かに横に広がり、包囲の範囲を広げているのだ。

つまり、これは時間稼ぎだ。


「……やる事は分かってるな?」

「ふっ……そうこなくちゃな! そういうところ、アタシも嫌いじゃねーよ!」


ミレットが馬に鞭を入れ、全員が再び走り出す。そして、同時に各所に散らばっていた隠者たちが一斉に前に出る。俺も精一杯の声を張り上げた。


「突っ込め!! 集中砲火が来るぞ!! 散開しながらエントランスを目指せ!!」

「なっ……!! 全部隊、撃て撃て!!!」


俺たちが悩んでいると思い込んでいたのか、それとも配備が完了するまでに時間が掛かったのか知らないが、アロスはそう叫ぶ。一斉に魔術石による面攻撃が始まる。


「まずい! 各自、防御魔術を張れ!!」

「隠者隊、アレをやるわよ」


俺が叫んだと同時にマレルたち隠者が一番前に出て、一斉に言葉を紡ぐ。


「<守りの精霊よ・我の求めに応じて・光の加護を授け・偉大なる光の障壁を以て・我らを守れ!>」


一気に巨大な防御魔術が展開される。魔術が綺麗に弾かれていく。


「よし! 進むぞぉ!!」

「(これなら行ける!)」


隠者の部隊が先陣に立ち、一気に前へ突っ込む。とにかく、一秒でも速くエントランスにたどり着かなくてはならない。魔力収縮陣の影響下にある以上、こんな酷くマナを消耗する戦況は圧倒的に不利だ。


「いけぇぇ!!」

「おおお!!!」


アロスは有意な状況に在りながらも俺たちの唐突猛進の勢いを見て慌てたのか。ルカを強引に連れて屋敷の中に戻る。


「ルカ!」

「ルカ姉!」

「ルカ様!」


俺達は速度を緩めることなく、エントランスへと踏み込んだ。エントランスはもぬけの殻だったが、地下に繋がる扉が開いていた。


「きっと、地下から言無死の塔の方へ逃げたんだ」

「よし! なら追うしかねぇーな……! 全員、マナ補充用ポーションを呑め。呑んだ奴から――って、もう着やがった!」


屋敷内の至る所から兵士が虫のように湧いてくる。

だが、すぐに隠者が三方向に展開する。


「ここは私達、隠者と近衛が引き受けます。お二人はルカ様の下に」

「……おいおい、さっきあれだけのマナをお前等を消費しているんだぞ!?」

「行ってください!! 私が行っても邪魔になるだけです。カタが付けば私達も後を追います」

「わ、わかった。みんな、すまない……!」

「いえ、それが仕事です。さぁ、近衛兵は領主様たちの援護を――!」

「はっ!」


全員がカバーしあいながら俺とミレットを地下通路に援護する。


「クソ……!」

「みんなの意思を無駄にするわけにはいかねぇんだ。行くぞ!」


俺達は必死でルカの後を追った。

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