怪異対策委員会
@pis_cco
プロローグ
むせ返るような夏の夕暮れ時。陽炎の失せたアスファルトの上を、少年とその母親が手を繋いで帰っている。二人ともお揃いのニット帽を被って、一人一つ、買い物袋を持っている。
電柱には寝床に行くにあたって休息しているカラスたちがいて、かああ、かああと、野太い声で鳴いている。
「カラスが怖い?」
「う、ううん! 怖くない!」
「あなたは強い子ね」
母にからかわれて、少年はむっとする。母は、穏やかに笑って、少年の手を引いていく。
少年はふと、来た道を振り返った。いつも通っている学校が、まるごと影になっていて、ぽっかりと口を開けているようだった。見つめていると呑み込まれる気がして、少年は母と固く手を繋いだまま、前を向く。
母は、微笑んでいる。
「今日の晩ご飯は鶏肉だけど、何がいい?」
「あ、おれは……うおっ」
かあぁ。かあぁ。燃える空に紛れ、ひときわ高く鳴くカラスに、少年は驚いてしまった。しかし、気を取り直して、満面の笑顔で母の方を見る。
「おれは、唐揚げがいいな!」
少年が笑顔を向けたところに、母はいなかった。手のぬくもりはそのままあるのに、手が離れていた。
「……母さん?」
置き去りにされた買い物袋が、横倒しになっている。後で一緒に食べようねと言って買ったプリンの器が、転がり出ている。
「母さん?」
呆けたように、少年は呼ぶ。
しかし、それっきり、母は一度も現れなかった。最初から、そんなものはいなかったかのように。
真っ赤な空と、真っ黒な影が、そこにあるだけになった。
十年前、坂奇学校で起こった『神隠し』は、確実に一人の少年の運命を変えたのだ。
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