第16話 美少女・ヴィアンテちゃん

 一週間が過ぎた。


 あの日から新たな『炎』は出現しておらず、俺たちは『御鎮法おちんぽう』訓練にいそしんだ。


 けど、あの日以来、俺とラマニアはそれぞれ個人で想像訓練イメージトレーニングをするのみで、聖交渉セクルスは一切していなかった。


 これはヴィアンテ様の指示で、聖交渉セクルスはあまり毎日頻繁にしないほうが良いとのことだった。


 そして射聖しゃせいも毎日し過ぎると、いくら俺が若いとは言え聖力せいりょくの回復が追いつかないからと言い、『炎』が頻発して出現しない限りは「三日に一回」と管理されていた。


 そんなある日の朝。



「ラマニア、ちょっといいかな?」


「はい。リン様、どうされました?」


「実は今日さ、街に出てみたいと思っているんだけど」


「は、はぁ。それは構わないかと思いますが………」


「それで良かったら街を案内してもらえたら嬉しいんだけど」



 以前から考えていたんだけど、俺はまだこの世界シェインヒール、そしてこの国サンブルクの事をよくわかっていない。


 せっかく使えるスペルマップを見ても、どこがどこなのか全くわからないのだ。


 今日はヴィアンテ様から『御鎮法おちんぽう』訓練は休みと言われたので、前から考えていた街の見学をしようと思ったのだった。


 ラマニアも快諾してくれると思っていたのだが、



「申し訳ありません、私はご一緒致しかねます」


「えっ」


「本当はお役に立ちたいのですが、私もこの国の王女という立場上、自由に外出した事は無いのです。そして今も、鎮火活動ちんかつの時に限り外出は許されていますが、それ以外では許されていないのです」


「そ、そうか。言われてみればそうだよな」



 あまりに自然に接してくれるのでうっかりしていたが、ラマニアはお姫様なのだ。


 自分の世界に置き換えて考えてみれば当然かもしれない。



「うん、わかった。じゃあ今日は軽く近場だけぶらっと見学してくるよ」


「はい、お気をつけて行ってらしてください」



 残念そうに見送るラマニアをその場に残し、俺は一人で王城の外に出た。






 城の外、サンブルク王国の首都である『キースト』の街は予想以上に発展していた。


 いや、実際に街に出るのは今日が初めてでは無いし、鎮火活動ちんかつの時に少しは見ていたので知ってはいたが、あらためてじっくりと見てみると、俺の世界の東京の街並みとそんなに違わない。


 異世界というと無条件でRPGゲームの中世ヨーロッパ風の古風なものをイメージしていたので、軽く肩透かしを食らったような気分だ。



「…前にも言ったと思うが、こちらの世界とてお主の世界と同様、歴史と共に発展しておる」



 俺の思考を読み取ったらしいミニサイズ・ヴィアンテ様が俺の左肩に現れてささやいた。



「世界は違えど、人間の思考に大差は無い。より生活を便利にしようと考えるのは同じだ。その結果、発展していく先の文明が似通にかよってくるのも当然と言えよう」


「なるほど……納得です」



 俺の世界が主に電気を主力エネルギーにしているのと同様に、この世界は聖力せいりょくをエネルギーにしているって前に言われたっけ。



「あれ、そう言えば聖力せいりょくって、人間だけの力じゃないんですか?」


「うむ。聖力せいりょくは植物や動物、大気、森羅万象、全てのものに宿っておる。無論、それを鎮火活動ちんかつに使えるのは勇者であるお主だけだがな」



 あらためてこの世界の仕組みを知る事ができた。


 詳しくはわからないが、要するに風力発電とか原子力発電みたいな方法で、この世界では聖力せいりょくをエネルギーとして精製して活用しているという意味なんだろう。


 なんとなくこの世界の事が理解できたところで目の前にカフェらしき店舗が見えたので、入って少し休む事にした。



「む、カフェか。よし、少し待っておれ」


「え?」



 するとミニサイズ・ヴィアンテ様は姿を消し、どこかへ行ってしまった。


 数秒後、建物の陰から普通の街の女性のような服装で、人間サイズのヴィアンテ様が現れた。


 いや、元々のヴィアンテ様は二十代半にじゅうだいなかばくらいの若くて美しい、いわゆる『絶世の美女』といった容姿だったが、今はもう少し若い、俺と同じくらいの年齢の『美少女』という外見になっていた。



「ヴィ、ヴィアンテ様、そんな変身もできるんですね」


「まぁな。いや、まぁね。これくらいの容姿じゃないと、浮いちゃうじゃない?」



 おおう………口調まで。


 確かにいつもの姿じゃ目立っちゃうのは事実だ。


 そんなわけで美少女化したヴィアンテ様と一緒にカフェの中に入り、席に着いた。




 注文した二人分のコーヒーっぽい飲み物が運ばれてきて、自分の世界のコーヒーとの違いを比べて味わっていた時、ふいにヴィアンテ様がたずねてきた。



「……ところでリン。少し気になっていたんだけど……」


「はい?」


「お主、じゃなかった、キミってさ、童貞どうていじゃないよね?」


「ぶふぅっ!?」


「わっ!汚い!!」


「げほっ!げほっ!い、いきなり何を言い出すんですかっ!?」


「いやぁ~、だってさぁ。ラマニアとの聖交渉セクルスの時も堂々としてたし、初めての鎮火活動ちんかつの時も容赦なく突っ込んでたじゃん」


「それとこれとどんな関係が!?」


「え?」


「え?」



 ラマニアとの聖交渉セクルスを堂々としてたら何で俺が、その、ど、ど、ど、童貞どうていじゃないという話になるんだ?


 と俺の非童貞ひどうてい疑惑とどう繋がるっていうんだ!?



「え………もしかして……童貞どうていなの?」


「ど、童貞どうていで悪かったですね……」


「いや、別に悪くは無いけど……え?本当に?」


「生まれてこのかた、彼女もできた事ないですよ!」


「それじゃあ何であんなに堂々と……」


聖交渉セクルスの事ですか?いや、何でと言われても………それとこの話って、何か関係あるんですか?」


「え?い、いや、わからないなら別にいいけど………」



 まったく、いきなり何を言い出すんだ、この女神様は!!



「それからヴィアンテ様!」


「は、はい!」


「俺、下品な話題は苦手なんで勘弁してください」


「そ、そう。ごめん……」



 ふう。


 ヴィアンテ様がいきなり変な事を言い出すから焦った。


 本当にこういう下品な話は苦手なんだよ、俺は。


 俺はこの世界を『炎』の脅威から救うためにばれたっていうのに、何でこんな話になってるんだ。


 気を取り直して話題を変えよう。



「そうだ、せっかく聖交渉セクルスの話が出たんで質問なんですけど……」


「う、うん?何?」


「ラマニアが成長していくと、それはつまり聖交渉セクルスに対して耐久力がついていくって事ですよね?という事は、なかなか聖天昇イキにくくなるんじゃないですかね?」


「ま、まぁ、その通り……だな」


「という事は……俺の挿入ももっと工夫しないといけませんよね?例えば、『聖塔ミティック』の挿入角度に変化をつけるとか……ピストン運動のテンポに緩急をつけるとか……。何か効果的な対策はありますか?」


「……………」


「ヴィアンテ様?」



 何故かヴィアンテ様は何も答えてくれず、大きなため息をつくのみだった。

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