第167話 種明かし

 俺の左手、カニさんミトンから、酸の泡が発射された。

 ──発動成功したっ!


「ギャッ」響く悲鳴。


 その悲鳴に合わせるようにして、俺を取り巻いていた山の中の景色がまるで煙のように揺らめき始める。


 二重写しになる風景。


 しかし山の景色はすぐさま溶けるようにして無くなる。

 俺の目の前に広がるのは、元々いた動物園の景色。そして背中の甲羅が半分溶けてうずくまる兎兎亀の姿だった。どうやら兎兎亀が背中を見せてから俺は一歩も動いていなかったようだ。


「ホッ。よくぞ、幻と見破った……。け、見識の高さもみ、見事なり」と行きも絶え絶えに話しかけてくる兎兎亀。


 ──あっ、あれってやっぱり幻だったんだ。何となく直感だったんだけど。


 一応それなりには考察してみてはいた。特にヒントになったのは、ステータスが開かないってこと。もし転移系の能力を目の前の兎兎亀が持っていたとすると、送られた先は別の異世界ということになる。

 しかし、この世界は多分だが、敵の大元の親玉が世界の出入りをかなり厳しく制限しているという印象をアクアの言動から感じていた。


 アクアが必死に世界をつなぐ回廊を求めていた事から考えても、この推測はほぼ間違いないだろう。

 そもそも、世界の移動自体がそんなに簡単には行えないものだろう。普通に考えて。ということは、何らかの騙しなんだと考えるのが順当な推測というもの。


 だったスキルが使えない訳はないと、一番使い慣れている泡魔法を発動したって訳だ。知覚に頼らず、自らの体験と体感を信じて。

 そしたら、それが大当たりだった。


 ここでもガンスリンガーの修練が役に立った。ダンジョン外でオドを纏う訓練、そしてその過程で得たものは、いつになっても俺を助けてくれる。俺は思わず師匠の事を思い起こしてしまい、こんな時だが、しんみりしてしまった。


 ──いやいや、今はやめとこう!


 俺は気を取り直す。目の前には瀕死の兎兎亀。周りを動物達が遠巻きに様子を見ている。


 ──あれ、もしかしてこれって、酸の泡を当てたことが敵対行動にとられて、俺、囲まれてピンチだったりする?


 こちらを見上げる、物言いたげな兎兎亀の顔。どうやら俺が何を話すか、待っている様子。それをじっと待つように見ている周囲の目。


 ──もしかして、次の俺の発言、注目されているのっ!?


 これまでにない注目具合に、ここが元々敵地であることもどこへやら。俺は思わず緊張してきてしまった。

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