第160話 いざ出発
「それで、まずは名前を教えてくれ」と、俺は江奈さんをネカフェのブースに運んだ後、戻って猫に問いかけていた。
ぷにっと達とおとなしく待っていた様子。瓦礫にちょこんと腰かけた猫。俺は最初、猫が意識を取り戻していたので、思わずホッパーソードを構えてしまった。しかし、それでも腰かけたままの猫に、よくよく観察してみる。すると、俺の漆黒に染まった瞳には猫の中で二つのイドが渦巻いているのが見えた。どうやら襲ってこなそうな雰囲気に、俺は改めて質問をしてみることにしたのだ。
「
それよりも気になるのはそのしゃべり方。語尾は元のままだが、そこはかとなくアクアのような印象を受ける話し方。
──江奈さんは一体、何をしたんだろう……。
「銀斑猫、お前の主とやらの事を教えてくれ」
こてんと首をかしげる銀斑猫。
「銀斑猫ちゃんには、今は主はいないにゃ」
「お、おう。そうか。……じゃあ、前の主の事を」
「わかったにゃ。名前は
ヒャクシウ? と音だけ聞いてもさっぱりと言った顔の俺に、銀斑猫がよいしょっと腰かけていた瓦礫から降りる。
ぷにっと達がその一挙一動を注視している。
そんなことを気にもとめず、銀斑猫は繋がったばかりの手で、土が露出している地面に何か書き出す。
「字はこうにゃ」
と、わざわざ地面に書いた文字を見せてくる。
──見覚えありそうな……。いや、思い出せないな。
「それでその百紫芋はどこにいる? そこに冬蜻蛉もいるのか?」
「百紫芋は動物がいっぱい住んでる所にいるにゃ。銀斑猫が見たときはその名前の少女もいたにゃ」
──よしっ! 完璧な手がかり!
「そこはどこにある?」と勢い込んで聞く俺。
しかし、返ってきた答えはよくわからない物だった。右いって左いってという曖昧な説明が続くのだ。聞いていてすっかり混乱してしまった俺は理解するのを諦める。
「ストップストップ!」二度目の説明に入りそうな銀斑猫を制止する。
「それじゃあ俺をそこに案内できるか?」
「できるにゃ」と簡単に答える銀斑猫。
俺は、その返事にすぐさま向かうことを決断する。
──時間が経てば警戒されるだろうし、冬蜻蛉の安全も心配だ。
「よしっ。少し待っててくれ」と俺は急ぎ準備を整え、猫林檎に事情を伝えると、銀斑猫と共にネカフェを出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます