第100話 たどり着いたのは

 扉の先にあったのは、アスファルトで舗装された道路。

 そっと顔を出し、左右を伺う。

 モンスターの気配はない。

 俺は数歩、ネカフェから踏み出す。

 ぐるりと振りかえる。


「郊外型店舗のネカフェ、か」


 道路に視線を戻す。

 路肩に止められた無数の自動車。

 自家用車からトラックまで様々な車種。


 モンスターだけではなく、人の気配もない。

 軽く近くの車を調べる。


「事故があって、車から離れたような雰囲気はないな。目立ったキズもないし。路肩に停めて離れただけ、みたいに見える」


 まっすぐに続く道。幹線道路やバイパスのような作りだ。道にそって、ガソリンスタンドやファミレスのような飲食店が点々と見える。しかし、どこにも人の気配はない。


「地方都市っぽいな……」


 その時だった、微かに声が聞こえる。


「──っ、江奈さん?!」


 どうやら道沿い、ネカフェからみて左手の方から声がした。

 俺は自分に重力軽減操作をかけ、歩道を走りはじめる。

 ──スキルが、普通に使える。ダンジョンの中にいるのと全く同じ感覚だ。


 それはいくら移動しても変わらない。普通であればダンジョンの因子を持つモンスターなり、ダンジョンの領域なりは場所によって濃さのような物が出来る。この眼になってから、それは一層如実に感じられるようになっていた。

 だからこそ感じる、違和感。


 ──まるで、ダンジョンの中にまだいるみたいだ。


 そんなことを考えながらも走る動きは止めない。

 声が再び聞こえる。

 先程より、はっきりと。


 ──江奈さんじゃないっ!?


 俺は足音を殺すようにして、急制動をかける。身を低くし、ゆっくりと進みはじめる。

 風にのって、声はどうやら前方のガソリンスタンドから聞こえてくる。


 ──声は複数。会話しているのか? 日本語じゃなさそうだ。


 俺は歩道を外れ、車道に出る。放置されたままの自動車の隙間を縫うようにして、ガソリンスタンドに近づいていく。

 ガソリンスタンドの中が見える位置に到着。

 隠れている自動車の陰で、低くしていた姿勢を少し伸ばす。

 自動車のガラス越しに、ガソリンスタンドの様子を伺う。


 ──あれは、人じゃない、な。っ、そんな。あのモンスターはまだ存在が確認されてないことで有名なのに……


 俺の視線の先。

 そこにはガソリンスタンドの中央で焚き火を囲む、ゴブリンにしか見えないモンスター達の姿があった。



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