第98話 回廊

 ほどけはじめる魔法銃。

 白い糸のようになったそれが、まるで引かれるようにして俺の手のコアへと移動してくる。


 くるくる。

 くるくる、とコアへ巻き付き始める魔法銃だった白い糸。

 まるで繭に戻ろうとするかのように。


「な、何が?!」


「朽木、それっ! 止まらないの?」


「やってみるっ」と俺は自身のイドを通して魔法銃が制御できないか試みる。

 自らの意識の片隅に、確かに存在するそれ。

 ガンスリンガーの修練の中で獲得したイドの知覚。

 この漆黒の瞳と化す中で獲得した視界。


 それでは魔法銃と自分自身を繋ぐパスが確かに見える。

 そのパスを通じて、支配を確立しようと魔法銃へイドを注ぎ込む。

 手応え。

 魔法銃が俺のイドに応え、繭化が止まる。


 ほっと息を吐いた時だった。

 コアが魔法銃を引っ張っている。

 そうとしか表現出来ないような感覚。


 再び始まる魔法銃とコアの繭化。

 俺は今度はコアにまで届くように、さらにイドを注ぐ。

 違和感。

 コアに、自分以外の存在を感じる。


「アクアっ、こんなところに!」


 それは、アクアの存在の残滓。

 コアに隠れ潜むように、アクアの元のしか考えられないイドの存在を知覚する。


「くっ、駄目だ」


 俺は力の限りイドでコアに隠れたアクアの残滓を追い出そうと試みる。

 しかし、うまく捉えることが出来ない。

 手間取っているうちに、俺の腰にあった魔法銃は全て糸となり、手の中でコアの繭が完成する。


 手の中で繭が、変質を開始する。

 空中に浮かび上がる無数の魔法陣。


「朽木、早くそれを捨ててっ」と江奈の叫び。払い除けようとした江奈の腕。しかしまるで繭は実体が無くなったかのように、貫通してしまう。


「駄目だっ、離れない。江奈さんは逃げて!」


 巨大化し始める繭。非実体となったそれは俺も江奈も飲み込み、さらに拡大していく。


「とらえたっ」俺はその中で、アクアの残滓を捕捉すると、力の限りを尽くし、追い出す。

 スライムの形で飛び出してきた、それ。

 しかし時すでに遅く。

 繭の変質が完成してしまう。

 今度は急速に縮み始める繭。繭に取り込まれていた俺と江奈を巻き込み、縮み続ける。一層激しく輝く、周りを取り囲む魔法陣。

 魔法陣が扉のような形を作ったかと思うと、縮んだ繭がそこへ吸い込まれていく。俺と江奈を連れて。


 次の瞬間、ダンジョンマスターの部屋には誰も居なくなっていた。

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