第75話 物資準備
俺がレポートを読んでいる間に、ミズ・ウルティカと江奈で最終的な物資の選定が終わったらしい。
俺はレポートを江奈に渡し、変わりにパンパンに膨らんだリュックを受けとる。
「お、おもっ」
強化されたオドのおかげでよろけることは無かったが、それでも思わず眉をしかめるほどの重さ。
「五日分の水と食糧よ。二日進み、二日で撤退する。一日分は予備よ」と江奈。
「ダンジョンの中の様子がわからないからしょうがないの。そのレポートにあるように、一層はルートが変わっていないようなのだけど、二層以降は何とも言えないわ。もしルートが変わっていなければ、私は道がわかるし、途中で、水場があるから水の補給も出来るわ。その時は、既存のセーフティゾーンを使えるのか確認するのが主任務になります。」とミズ・ウルティカ。
「でも、過去の文献では、ダンジョンマスターが新しく立つと、ダンジョンが作り替えられる事が多いらしい。その場合は一からルートの開拓をするのが、私たちの仕事よ」
江奈がそれに被せるように話す。
「でも、その時は階層が浅くなっているはず。少なくとも過去の事例通りならね」とミズ・ウルティカ。
未踏破層に行ったのが、例の扉に引きずり込まれたイレギュラーだけ。しかも、脱出の時は裏道を使った俺にとっては、これが初めての本格的なダンジョンアタックになる。
頼りになるお二方の説明に、異論があるわけもなく、黙々と自身の準備をする。
もちろん、耳は二人の話を聞き流さないようそばだてておく。
圧倒的に経験が足りていない領域の話。一つ一つが今後の冒険者としての活動の糧になる。
(今後、か。どうやら俺は一応未来を考えているんだな。自分でも意外だ。もし、アクアの討伐に失敗、もしくは時間切れになったら。どうなるか何てわからないけど、きっとろくでもない事しか想像出来ない。生きていられるかも怪しいってのが、素直な感想なんだが……。いやいや、弱気になっても仕方ない。今はただ、師匠の敵をとり、魔法銃を取り返す。それだけを考えよう)
俺は渡された荷物の確認が終わる。
「これって、三人の五日分の水が入っている?」
思わず漏れる呟き。
「三十キログラム分あります。江奈・キングスマンが、貴方のスキルならそれがベストの分配だと言っていました。」とミズ・ウルティカ。
「……わかりました」
俺はため息を圧し殺し、重力軽減操作のスキルを使って軽くしながら水をリュックにつめ直していく。
最初に持ったときの重さはほとんどが水だったようだ。
(通りで重いわけだ。江奈さんはスキルの詳細迄は伝えてないようだけど……。仕方ないか、最長五日も行動を共にするんだ。ある程度の手の内はバレるのは仕方ないか。)
荷物を全てつめ直し重力軽減操作をかけたまま背負ってみる。
スキルのお陰で、移動に支障が出ることは無さそうだ。
テントの前に出る。辺りには数名のガンスリンガーが忙しげに立ち働いている。邪魔にならない所で、俺は軽く回避行動の練習がてら動いてみる。
「うぉっ」
思わず体の軸がずれる。
(そうだった重力は軽減されても、質量自体は変わらないから、慣性が凄い。これ、無闇やたらに動けないぞ)
俺はしばし荷物を背負った状態での機動を練習する。
その間に、江奈もレポートを読み終わった様子。難しい顔をしている江奈。
何か、ミズ・ウルティカと二言三言話すと、二人もテントから出てくる。
「さあ、今出来る準備は全て終わりました。未踏破領域のダンジョンアタックは冒険者の誉れです。惜しむらくはこのような状況下であることです。しかし、ベストを尽くし、必ず生きて帰ってきましょう。出発です」
と言って銃剣を取り出すミズ・ウルティカ。
それに合わせ、辺りにいたガンスリンガー達が集まってくる。思った以上に大人数が集まってくると、それぞれが魔法銃を抜く。
「緊急時です、イドの節約をしましょう。」
俺が横を見ると江奈も自分の魔法銃を抜いている。俺もあわてて見よう見まねでホッパーソードを構える。
「集いしガンスリンガー達よ。後衛任務、感謝致します。この状況下での皆の奮迅、それは価千金の価値があります。ナインマズルが五位、『不発弾』ウルティカ。『七色王国』江奈・キングスマン。『蒼き螺旋の踏破者』朽木竜胆。必ずや任務をまっとうしてきましょう」
そういうと銃剣を高く掲げるミズ・ウルティカと江奈。俺もすぐに追随する。
「「御武運をっ!」」それに呼応するように、魔法銃を掲げたガンスリンガー達の答える声が重なった。
俺達はガンスリンガー達に見送られ、ダンジョンアタックを開始した。
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