第60話 激突、アクア
はじめて、アクアの目線がこちらを向く。
その顔面めがけ、スキルを発動しながら、俺はカニさんミトンを叩きつける。
捉えた、と思った瞬間、アクアの右手が滑り込むように持ち上がり、俺のカニさんミトンをつかむ。
ぎちぎちとカニさんミトンごと俺の左手を握りつぶそうと力を込めるアクア。
俺は気にせず強制酸化を発動させる。
カニさんミトンを掴むアクアの手のひらが、酸化熱で一気に赤熱し、蒸気が吹き出す。水分の飛んだ粘体が、ぼろぼろと二人の足元の間へ、こぼれ落ちる。
しかしアクアも次々に手のひらの肉をパージし、胴体部分から粘体を送り込んで新しい手を生み出す。そして俺の腕を握りつぶさんと、さらに力を込めてくる。
酸化と加圧の攻防。
俺はイド・エキスカベータを発動すると、一気にイドをカニさんミトンに注ぎ込む。
カニさんミトンに刻印されたピンク色のカニぱん柄が、俺のイドに反応し、どんどん濃くなり、そして輝きだす。
辺りを染めるピンクの光。
俺自身もアクアの顔も、カニさんミトンの放つ光でピンク色に染まっていく。
アクアの粘体から蒸発する湯気の勢いが増す。その湯気に、ピンクの光が乱反射し、辺り一面にピンク色のもやがかかる。
「アクア! その繭を返せ! 裏切ったのか!」
俺は、強制酸化にイドをブーストさせながら、アクアに向かって叫ぶ。
僅かに目をすがめ、顎をあげ見下すようにアクアは答える。
「裏切ってないのー。アクア様は、最初からクチキの仲間なんかじゃなかったのー。クチキは召喚して支配したつもりだったみたいだけど。ステータスに載ってたからって、そのまんま信じちゃって。クチキは馬鹿なの。」
「……じゃあ、何で俺がダンジョンから脱出するのを助けた?」
「アクア様はこれを回収するのがお仕事なの。プライムの因子を持ったこの世界の人間のイドに染まったコア。あの時はクチキを生かしておけば、いずれこうなると予想してたの。」
そういってアクアは自らの体内に取り込んだ、かつて引き金のない銃であった繭に視線をやる。
「ちょうどいいスキルをクチキが持ってたから、コアの番人を倒したときに、モンスターカードに顕現したの。お陰で近くで様子を伺えたのはいいけど、下らないことで呼び出されて、本当に勘弁してだったの。こんなことなら普通に顕現しとくべきだったの」
「コア? その繭は、もしかしてダンジョンコアなのか?」
「今さらそこからなのー。当然そうなの。クチキも、脱出してなかったら、もう少しであのダンジョンのダンジョンマスターにされてたの。クチキはアクア様に、感謝してもいいくらいなの。」
「そうか。やっぱりお前は俺の敵なんだな、アクア。そのコアをどうするつもりなんだ。」
拮抗した力。話している間にも、ひたすらに湯気が吹き出し、足元に干からびた粘体の残骸がぼとぼとと積み上がっていく。
「クチキに理解出来るとは思えないけど、コアのお礼に少し教えてあげるの。クチキのいるこの世界、そして無数の平行世界が混沌の中に浮かんでいるの。平行世界の一つ、プライムの世界がこの世界をダンジョンを使って侵略してて。クチキはそのプライムの因子を埋め込まれちゃってるのー。そのクチキのイドは二つの世界の混ざりものになってるわけ。それが込められたコアは、世界をつなぐ回廊ダンジョンになるわけ。わかった? わかんないよねー。そんじゃあ、プチっとなの。」
アクアはそう言うと、おしゃべりは終わりとばかりに、左手を振りかぶる。みるみる巨大化する左手。アクアはそれを無造作に振り下ろしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます