どうしてこうなった?
「赫騎兵(かくきへい)隊は二手に分かれ進軍する。一隊は俺、もう一隊は副官であるアレンに任せる。魔導兵は探索(サーチ)と欺瞞(デコイ)を怠るな。各員はそれぞれ偽装(カモフラージュ)を心掛けよ」
「かしこまりました。連絡は念話(テレパシー)でよろしいですか?」
「大規模な魔法部隊も感知されていない。秘匿(サイファー)を使えば問題なかろう」
カインが自身の部下たちに手際よく指示を出す。普段は少し口の悪い青年に見えるが、こと争いに関してはプロフェッショナルの姿を見せる。
カインが指示する魔法は戦場の霧を晴らし、相手には更に濃霧をぶち当てる効果を持つ。
また、
準備を整えたカインたちがシャナンに軽く手を上げ声を掛ける。
「じゃあな、シャナン。お前のところに出番はないと思うが、万が一の場合は頼むぜ!」
「うん。カインも気をつけてね!」
カインたち
ボルボックス鍛治商店でシャナンに誘われるまま自身の討伐隊に参画してしまった十三とサディであった。いや、今の名前で言うならば、“ジュウザ”と“ルディ”である。
「じゅう……ジュウザちゃん。どうしてこうなったの?」
「サ……ルディ、俺が知るかよ。なんでもかんでも分かる訳ねぇんだ……」
─
──
───
ボルボックス鍛冶商店で出会ったシャナンに連れられ、向かった先には眼帯を掛けたスキンヘッドの組合長がいた。冒険者組合に登録した際は対して気にも止めてなかっただろうが、何故か気に入られてしまい、アレよアレよと二人は討伐隊の一員になってしまった。
目の前に冒険者がいるため、ステータスプレートの能力を
ステータスプレートの効果が低いため、自身の正体が明かされる程度の情報はなかったが、二人は心中肝が冷えた。
組合に登録した名前も“ジュウザ”や“ルディ”でなく微妙に違っていたが、ただの誤記とアッサリ無視された。幸運なのか不幸なのか理解が追いつかない。
いや、不幸なのだろう。まさか自分で自分を倒しに行こうとしているとは、どこの誰でも分かるまい。
「お前らの様な冒険者がここにいるなんてな。いや、俺の目が節穴だったぜ」
「全くだ。お前ら二人いれば、もしシャナンの方に魔族が来ても大丈夫だな」
組合長のジェガンと討伐隊の隊長カインに褒められ、満更でもないのだが、二人は複雑な気分となった。
今思えば断ればよかったのだが、欲をかいて討伐隊を探ろうとしたのがいけなかった。討伐隊に選ばれた即日に懇親会があり、浴びる様に酒を飲まされた。
翌日は凄まじい二日酔いで拠点のあるフォレストダンジョンに戻る気力も湧かなかった。国が確保した宿屋で
──どうしてこうなった?──
目頭を押さえ、ジュウザこと十三は苦悩する。その姿を見るルディと名乗ってしまったサディは謂れもない罪悪感に囚われる。
だが、二人が抱える悩みを無視して諸悪の根源から能天気な声を浴びせられる。
「ジュウザさん、ルディさん。本日はよろしくお願いします」
「あの節はお手数おかけしました。貴方達のような方と出会えて本当に幸運です。あ、この姿はあまり見ないでください……」
「あ、ああ。よろしく頼む」
眼前に立つ屈強な男と何故か半裸のような格好をした女……それはトーマスとカタリナであった。懇親会ではコイツらのせいで二人はトンデモナイ目に遭わされた。
少女が連れてきた自分たちを気に入ったのか、トーマスは執拗に二人に絡んできた。あの少女の魅力を語り続ける男に、最初は小児性愛者の変態かと思っていた。
だが、この男の言は全く異なり、少女を神聖視するかの様な下にも置かない尊敬の念を雄弁に語っていた。最初は生返事で応えていたが、“シャナンへの敬意が足りない”と言われて酒を飲まされたせいで二人は地獄を味わった。
もう一人のカタリナは更にタチが悪かった。
ウワバミにも程がある。
傍にいたセシルとルディは真っ先にダウンしていたが、カタリナは水を飲む以上に酒を呷った。
しかも困ったことに自分の飲むペースに相手を合わせるべく酒を強要してくる。飲めないと穏やかな口調で強引に酒を流し込まれて二人は閉口した。
酒を飲ませてはいけない奴がいる。まさに
ジュウザは苦々しい瞳でトーマスとカタリナを睨むが全く通じない。トーマスから胸に拳を当てられて“ご武運を!”と言われたならば、返す言葉は同じく“ご武運を…”しかないだろう。
本当に……
──どうしてこうなった?──
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