どうしてこうなった?

「赫騎兵(かくきへい)隊は二手に分かれ進軍する。一隊は俺、もう一隊は副官であるアレンに任せる。魔導兵は探索(サーチ)と欺瞞(デコイ)を怠るな。各員はそれぞれ偽装(カモフラージュ)を心掛けよ」

「かしこまりました。連絡は念話(テレパシー)でよろしいですか?」

「大規模な魔法部隊も感知されていない。秘匿(サイファー)を使えば問題なかろう」


 カインが自身の部下たちに手際よく指示を出す。普段は少し口の悪い青年に見えるが、こと争いに関してはプロフェッショナルの姿を見せる。


 カインが指示する魔法は戦場の霧を晴らし、相手には更に濃霧をぶち当てる効果を持つ。


 探索サーチは以前述べた様に広範囲での索敵魔法である。対して、欺瞞デコイは相手の探索サーチを撹乱し、効をなさなくするために使用する。

 

 また、偽装カモフラージュは己がステータスを偽装して相手に探られないために用いる。念話テレパシーは遠隔の相手への通信、秘匿サイファーはその念話テレパシーを傍受されても良い様に内容を暗号化する魔法である。


 準備を整えたカインたちがシャナンに軽く手を上げ声を掛ける。


「じゃあな、シャナン。お前のところに出番はないと思うが、万が一の場合は頼むぜ!」

「うん。カインも気をつけてね!」


 カインたち赫騎兵かくきへいが森の奥へ進む。その後ろ姿を苦々しく見つめる二人の男がいた。


 ボルボックス鍛治商店でシャナンに誘われるままの討伐隊に参画してしまった十三とサディであった。いや、今の名前で言うならば、“ジュウザ”と“ルディ”である。


「じゅう……ジュウザちゃん。どうしてこうなったの?」

「サ……ルディ、俺が知るかよ。なんでもかんでも分かる訳ねぇんだ……」


 ─

 ──

 ───

 ボルボックス鍛冶商店で出会ったシャナンに連れられ、向かった先には眼帯を掛けたスキンヘッドの組合長がいた。冒険者組合に登録した際は対して気にも止めてなかっただろうが、何故か気に入られてしまい、アレよアレよと二人は討伐隊の一員になってしまった。


 目の前に冒険者がいるため、ステータスプレートの能力を偽装カモフラージュで隠す訳にもいかず、素の状態のまま表示してしまった。

 ステータスプレートの効果が低いため、自身の正体が明かされる程度の情報はなかったが、二人は心中肝が冷えた。


 組合に登録した名前も“ジュウザ”や“ルディ”でなく微妙に違っていたが、ただの誤記とアッサリ無視された。幸運なのか不幸なのか理解が追いつかない。

 いや、不幸なのだろう。まさか自分で自分を倒しに行こうとしているとは、どこの誰でも分かるまい。


「お前らの様な冒険者がここにいるなんてな。いや、俺の目が節穴だったぜ」

「全くだ。お前ら二人いれば、もしシャナンの方に魔族が来ても大丈夫だな」


 組合長のジェガンと討伐隊の隊長カインに褒められ、満更でもないのだが、二人は複雑な気分となった。


 今思えば断ればよかったのだが、欲をかいて討伐隊を探ろうとしたのがいけなかった。討伐隊に選ばれた即日に懇親会があり、浴びる様に酒を飲まされた。


 翌日は凄まじい二日酔いで拠点のあるフォレストダンジョンに戻る気力も湧かなかった。国が確保した宿屋で微睡まどろみながら、起きた時には出発の日になっており宿屋には笑顔のジェガンとシャナンが迎えに来ていた。


 ──どうしてこうなった?──


 目頭を押さえ、ジュウザこと十三は苦悩する。その姿を見るルディと名乗ってしまったサディは謂れもない罪悪感に囚われる。


 だが、二人が抱える悩みを無視してから能天気な声を浴びせられる。


「ジュウザさん、ルディさん。本日はよろしくお願いします」

「あの節はお手数おかけしました。貴方達のような方と出会えて本当に幸運です。あ、この姿はあまり見ないでください……」

「あ、ああ。よろしく頼む」


 眼前に立つ屈強な男と何故か半裸のような格好をした女……それはトーマスとカタリナであった。懇親会ではコイツらのせいで二人はトンデモナイ目に遭わされた。


 少女が連れてきた自分たちを気に入ったのか、トーマスは執拗に二人に絡んできた。あの少女の魅力を語り続ける男に、最初は小児性愛者の変態かと思っていた。


 だが、この男の言は全く異なり、少女を神聖視するかの様な下にも置かない尊敬の念を雄弁に語っていた。最初は生返事で応えていたが、“シャナンへの敬意が足りない”と言われて酒を飲まされたせいで二人は地獄を味わった。


 もう一人のカタリナは更にタチが悪かった。


 ウワバミにも程がある。


 傍にいたセシルとルディは真っ先にダウンしていたが、カタリナは水を飲む以上に酒を呷った。


 しかも困ったことに自分の飲むペースに相手を合わせるべく酒を強要してくる。飲めないと穏やかな口調で強引に酒を流し込まれて二人は閉口した。


 酒を飲ませてはいけない奴がいる。まさにトーマスとカタリナこいつらがそうだ。


 ジュウザは苦々しい瞳でトーマスとカタリナを睨むが全く通じない。トーマスから胸に拳を当てられて“ご武運を!”と言われたならば、返す言葉は同じく“ご武運を…”しかないだろう。


本当に……


 ──どうしてこうなった?──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る