第70話分からない……

 花と阿澄が揉めてからもう四日ほどが経つ。

 もう明日には文化祭だ……。

 文化祭は二日間行われ、一日目は生徒のみで行い、二日目は一般の客も入れるようになる。

 だが俺にとってはどうでもいいことだ……。

 これは本格的にまずい……。

 今のところ、まだ花がクラスで疎外そがいされている様子はない。

 阿澄達も文化祭の出し物などで忙しいのだろう……。

 でも文化祭がおわったら?

 そんなの聞くまでもない。

 俺は……というか俺たちは今、いつものように今後どうすればいいかの話し合いをしている。


「で? どうするつもり?」


 目の前の橋川は俺にどうするか聞いてくる。


「こうなったら最初に俺が言った案で行こうと思う」


「なんだっけ?」

 

 橋川はドリンクバーを片手に、きょとんとしていた。


「あのヘイトを俺に向けるってやつだよ……。俺が阿澄から何らかの形で嫌われれば、花がいじめられることはない」


 この手はあまり使いたくなかった。

 俺は周囲からどう思われようが、今の俺にとってはどうでもよかった。

 昔は他人の視線などを気にしていたが、今はもうどうでもよくなっていた。

 好きでも嫌いでもない奴らからどう思われようが、どうでもいいことに俺は気が付いたから……。

 だが俺がいじめられうとなると、花までその被害にあう可能性があるということだ……。

 だから俺が嫌われたりいじめられたりした場合は、必然的に花から距離を取らなくてはならない……。

 それでも……花がいじめにあうよりよっぽどましだ……。

 俺の案を聞いていた橋川は、乗り気ではない様子だった。


「うーん……。私はあんまりその案には賛成できないけど、最終的に決めるのは優太だから口出しはしないよ」


 そんな優しいことを言ってくれる橋川に、少し感動していた。

 

「それで? 仮にその案をやるとして、具体的にどうするつもりなの?」


 首をかしげて聞いてくる橋川だが、俺も馬鹿じゃない。

 その辺のことはかりない。


「具体的にはお前たちがやるバンドをぶち壊そうと思っている」


 それを聞いた橋川は、ポカーンと口を開けて間抜けな表情になっていた。


「お前たちが曲を弾き始めて、ちょうどサビの一番盛り上がるところで俺が乱入して、そいつらの持っている楽器を蹴っ飛ばすって作戦なんだけど……」


 聞いていた橋川は額に手を当てて、はぁーっと大きなため息を吐いた。


「ちょっとあんた、自分がどんだけ馬鹿なこと口走ってるか分かってるの? そんなことしたらクラスどころか学校中から嫌われるよ!」


 荒い息をたてながら、橋川は持っていたコップをどんと机にたたきつけた。

 橋川の言っていることはもっともだ。

 そんなこと俺が一番分かっている。

 でも俺にはこれ以外の方法が思いつかない。

 橋川はうーんとうなりながら、腕を組んで何かを考えていた。

 

「ねぇ……。矢木澤って何か楽器弾けるの?」


 いきなりなんの脈絡みゃくらくもないことを聞いてきた。


「えーと……。ピアノは弾けるな……。あとは分からない」


「ピアノかぁ……」


 コイツは今何を考えているのか、俺にはさっぱり分からなかった……。

 何で花が楽器を弾けるかどうか聞いてきたのだろう……?

 花にバンドでもやらせるのか?

 俺が不思議そうにしていると、俯いていた橋川は顔を上げると。


「よし、矢木澤にバンドをやってもらおう!」


 っと、意味の分からないことを言ってきた。

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