第17話彼には彼女が分からない

「ふー……」


 ようやくすべてのテストが終わり、一息ひといきつける。

 テストも終わったことだし、部室へ向かうが……。


「いない……」


 いつも俺より先にきて、本を読んでいる矢木澤の姿が見当たらない。

 やっぱり俺のせいで、テストの出来が良くなかったんだな。

 思えば俺につきっきりで勉強を教えていて、矢木澤が自分の勉強をしている姿を一度も見ていない。

 俺のせいで、矢木澤に迷惑をかけてしまった……。

 明日謝ろう。

 そうして俺は、無人の教室を後にした。

 そして次の日。

 

「じゃあこれで帰りのホームルームを終わりにする。解散!」


(終わっちゃったよー!)


 結局矢木澤に話しかける勇気が出ずに、一日が終わってしまった。

 くそ! 

 俺に後少しのコミュ力があれば……。

 今から先生相手に会話をしてもらって、コミュ力アップのトレーニングをするか?

 そんなくだらないことを考えて入るうちに、矢木澤が教室を出ていってしまった……。

 俺はすぐさま後を追いかけるが、矢木澤が向かった先は……。


「国語研究室?」


「あら? 今日は早かったじゃない」


 矢木澤が部室へ来ていた。


「お前、何でここにいるんだ!?」


「何でって、ここは私の部室よ? 来るのは当り前じゃない」


 あなたのじゃなくて、コミュ部のですけどね……。


「あと昨日は勝手に帰ってしまってごめんなさい……。用事があったの」


 何だ用事か。

 

「体調は大丈夫か?」


「体調? 別に何ともないけど……」


「ならよかった。このところ、矢木澤元気がないようにみえたから……。てっきりテストの点が低くて、落ち込んでいるから昨日も帰ったのだと思ったよ」


「私のテストの点が低いわけないじゃない」


 そういって矢木澤は、カバンからテストの解答用紙を机の上にバサァァと出した。


「英語95点、化学92点、数学100点!?」


 矢木澤の解答用紙は、ほとんどが90点越えのものばかりだった。

 どうやらテストの点が悪いから、落ち込んでいるわけではないようだった。

 じゃあ何で最近の矢木澤の元気がなかったんだ?


「矢木澤、何かあったのか?」


「急に何よ? 別に何もないわよ……」


「本当か? でも最近元気なかったじゃないか? 俺でよければ相談相手になるけど……」


「何もないわよ。だいたいあなたに人の気持ちが分かるわけないじゃない。友達いないのに……」


「確かに他の奴は分からない。でも矢木澤のは分かる……」


 何年コイツと一緒にいたと思ってんだ。

 俺の青春のページのほとんどに、コイツがいるぞ。

 俺が心配すると、矢木澤の顔はどんどん赤くなっていった。


「おい、どうしたんだ? 顔すごく赤いぞ?」


 矢木澤の顔は、どんどん赤くなっていった……。


「ちょっと熱があるかもしれないわね。今日はもう帰るわ……」


 そうして走って教室を出ていってしまった……。 

 やっぱ何かあるな。

 でも俺がなにかできるわけでもないので、俺は何もしないことに決めた。


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