すれ違っても優しい街

またたび

人形とメガネ

 ススは空を見ていた。


 夏だ。


 暑さは夏である(正確にはまだ七月にもなってない)


「しぃぬう、暑すぎてしぃぬう」


「うるさい」


 ススに一喝。マキである。


「だって暑いんだもん仕方ないじゃん! もう空も夏みたいな青空だ!」


「まあね」


「ねえマキえもん〜涼しくなる道具出してよ〜」


「電気代は節約」


「エアコンは人類の叡智だ。そして人類の叡智は使わないとおかしい。つまりエアコンは使うべき!」


「ダメ」


「頼むよ〜マキえもん〜」


「……なら別の道具を試してみる?」


「えっ」


 マキはその場を立ち上がり、トコトコと何処かへ歩いて行った。しばらくするとマキは何かを抱えながら戻ってきた。


「これを使う」


「これって。人形と二つのメガネ?」


「うん」


「どうして? どうやって?」


「このメガネはとある偉大な私の友達の博士に作ってもらった発明品なの。ただのメガネじゃない」


「はぁ」


 イマイチ信じられない話にススは呆れ顔。対してマキは一切表情を変えず真面目な面持ち。


「このメガネをかけるとね、モノと魂を入れ替えることができるの」


「……つまりどういうこと?」


「まあ物は試し」


 マキはススに赤いメガネを。人形に青いメガネをかけた。すると


「えっ」


 ススは驚いたような声を出す。


「わ、私、喋ってる……!」


「初めまして、人形さん。私の名前はマキ。で、今あなたの体に入ってるのはススよ」


「……」


 人形は一切喋らない。正確には喋れない。


「そこで用意したのは謎のバッチ」


 マキはポケットから謎のバッチを取り出しその人形の胸に取り付ける。


「……って。はっ! ようやくしゃべれた」


「あなたは人形になったの。そしてそれは人形でも喋ることができる不思議なバッチよ」


「そんなバナナ!?」


「でも事実ススは人形になってるし、人形でも喋れてるじゃない」


「まあそうだけど。それより私の体には一体誰が入ってるの?」


「それは人形ちゃんでしょ」


「は、初めまして! 人形です!」


 スス(中身は人形)が満面の笑みを見せる。ぐっ、眩しい……!


「人形にも魂があるの!?」


「そりゃあるでしょう。さっきのあなたみたいに喋れなかっただけで、モノにも魂が宿ることはあるわ。人形などの思念が強いものは特にね」


「ふーん。で、マキ? なぜ私を人形と入れ替えたわけ? ちゃんとした理由があるんでしょうね?」


「人形って涼しいイメージない?」


「まあ確かにあるけど。ホラー系とかに多いし」


「だから涼しいかな、と思って」


「ふざけるなよ!?」


「それに体の素材が違うから若干変わるとは思うし」


「だからって他に何かあっただろ!? よりによって人形と体を入れ替えるなんて。ホラー映画だったらこのまま体を乗っ取られてバッドエンドなんてことに……!」


「それはないと思うわ。この人形ちゃん、優しそうじゃない」


「優しそうなんて照れます///」


「お前は照れなくていいから私に体を返せ!」


 思わず声をあげてしまった人形(中身はスス)を見て、急に悲しそうな表情をスス(中身は人形)は見せる。


「す、すいません、私ったら……! 初めて動いたり喋ったりできたからつい舞い上がっちゃって……。でもこの体はススさんのだし返すのが当たり前ですよね。そっかあ、また私人形に戻っちゃうのかあ。でも仕方ないよね、グス、うん、グス、仕方ないもの……ダメ、泣かないで私……」


「ススったら酷い。人形ちゃん、泣いちゃうじゃない」


「えっ!? あっ、うん、その」


「ススさん、ごめんなさい……所詮人形に過ぎない私が、人間に憧れた時点で間違っていたんです……」


 人形(中身はスス)は耐えきれないと言うような表情をした後、叫んだ。


「ああぁぁ、ごめんっ!!」


「えっ?」


「私が悪かった、悪かったよ!! 人形ちゃん、そりゃあその体は私のだからさ、頻繁には貸せないけどさ、それでも度々は使っていいよ。ただし変な悪さをしないならね!」


「本当ですか……! 良いんですか!」


「人形ちゃん、良い子そうだからさ。良い子の泣き顔なんて見たくないんだ」


「……ススさん、優しいんですね」


「よしてよ///」


「わっ、スス照れてる」


「マキ、お前は黙れ」


 こうして、スス、マキ、人形ちゃん(ちゃっかりナレーションも、ちゃん付けしちゃったりする)の不思議な共同生活が始まったのであった。


 続く!

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