CHAPTER 15


 古来より白兵戦において、相手より高い位置に立つことは絶対の優位であると言われている。


『ジィィイッ! ギュゥウイイィッ!』

「あんたの電撃、見切ったわ。そろそろカタを付けさせてもらうわよ! 行っけぇ、ソードファミリアッ!」


 ならば。あの10本の剣を翼のように広げ、自在に空を舞うKOYOKUKIコウヨクキの能力は――地上から電撃を放つしかないVOLTボルト-SHOCKERショッカーに対し、非常に有効であると言えるのではないか。

 両肩の放電装置から青白く稲光が迸り、鉄人の指先から絶えず電撃が飛ぶ。しかし彼女は緩急自在に飛び回り、その全てを巧みに回避していた。


 そして、彼女がソードファミリアと呼ぶ10本のうちの幾つかが、矢の如く襲い掛かり――鉄人の両肩を貫く。その切っ先が捉えていたのは、対空電撃の要となっていた放電装置だった。


「ざまぁないわねッ! その装置を潰されたら、もう電撃は――!?」

『ジギュィイィッ!』


 黒煙を上げ、崩壊する球状の装着。その様子を前に、彼女も私も勝利を確信していたのだが――状況が一変したのは、それから間もなくのことであった。

 突如、放電装置を自ら切り離したVOLT-SHOCKERは――その内側に隠していたもう一つの「機能」を作動させたのである。さらに先ほどまで、鉄人の電撃をかわせる間合いを維持していたはずのKOYOKUKIが、何らかの「力」によって引き寄せられ始めていた。


「なっ!? まさか、これッ――!」

『ギュイイィインッ!』


 その「力」とは、即ち――電磁力。


 身体そのものに多くの金属を含む戦闘改人の類は、生身の兵士以上にその影響を受けてしまうのだ。

 剣の翼による浮力を帳消しにするほどの、強力な電磁力に引き付けられ――意図せぬ急接近を強いられた彼女の首に、下から突き上げるようなラリアットが炸裂する。


「がッ……!」


 圧倒的な体格差と、電磁力による加速にものを言わせるその一撃で、彼女の身体は紙切れのように吹き飛び――建物を破壊し木々を薙ぎ倒し、ようやく停止した。

 従来の戦闘改人なら、間違いなく即死している。……はずなのだが。


 再び剣の翼をはためかせ、口元から地を滴らせながら。KOYOKUKIは、立ち上がっていた。


「ソード、ファミリアッ……守護の、陣……!」


 その足元には、へし折られた4本の剣が落ちている。どうやら衝撃から身を守るために、4本の翼を後方に展開し、クッションにしていたらしい。


『ジギュイイッ!』

「……やってくれるじゃない。混聖改人ハイブリッドボーグになった今のあたしじゃなかったら、骨どころか首ごと持って行かれてたわ」


 不可視の力場を展開し、剣の翼が彼女の身体を再び宙に舞い上げていく。が、先ほどの一撃で、半数近くの剣を失ったせいなのか――6本しかない翼による飛行は、優雅とは言い難い挙動となっていた。


「いいわ……もう一度やってごらんなさい。そんなにお近付きになりたくて仕方ないっていうのなら……この寛大なあたしが、許してあげる」

『ジュギュィィィッ!』


 それでも彼女は、全く窮地を感じさせない佇まいでVOLT-SHOCKERを挑発し、電磁力の発動を誘う。それに乗った鉄人は、再び両肩の装置を作動させ――彼女の身体を引き寄せ始めた。


『ジギュッ……!?』

「さぁ、行くわよ……ソードファミリアッ!」


 それこそが、狙いだったのである。残された6本の翼の全てを、前方への急加速に利用した彼女は――VOLT-SHOCKERの計算以上の速度で、間合いを一気に詰めていた。

 浮力で抵抗しようとすれば、ラリアットに捉われてしまう。なら、逆にその間合いを作る電磁力を利用し、相手の反応よりもはやく勝負を決めるしかない。


 その狙い通り、VOLT-SHOCKERが再びラリアットの体勢に入るよりも先に――KOYOKUKIの背に展開された6本の剣が、全ての切っ先を鉄人の頭脳部を捉えていた。


「ソードファミリア――滅の陣ッ!」


 身体の芯から絞り出すような、叫びと共に。彼女を「守護」する剣の翼が、全て「攻撃」に向けられ――防御などかなぐり捨てた、最後の一撃が炸裂する。


BLADEブレイド-THRUSTスラストッ!」


 VOLT-SHOCKERの頭部目掛けて、矢継ぎ早に突き刺さっていく6本の剣。何が何でもここで潰す、という絶対の殺意を纏う、その苛烈な刺突の嵐が――鉄人の戦闘機能を、完全に停止させていた。


 翼を失い、ただの女となったKOYOKUKIと。頭脳を失い、ただの鉄塊となったVOLT-SHOCKER。両者が同時に倒れたのは、その直後である。


「……皆の者、ごらんなさい! この醜悪な鉄の人形は煌翼姫コウヨクキこと、レグティエイラ・グランガルド・カネシロが討ち取ったわ!」


 だが、KOYOKUKIの方は、ただ翼を失っただけに過ぎない。すぐさま身を起こした彼女は、VOLT-SHOCKERを見下ろすと――高らかに拳を掲げ、自らの勝利を宣言していた。

 女性という膂力で劣るハンデを覆す、圧倒的な完勝。同性である私には、その勇姿が一際眩しく輝いているように見える。


「って、ちょっと、ねぇ! なんで誰も聞いてないのよ!? せめてもう終わってる奴らだけでも聞きなさいよ! あ、ちょっ、無視しないでよ、ねぇってばっ!」


 ――尤も。まだ戦いが続いている周囲の状況を思えば、そんなことをしている場合ではないというのも、当然なのだが。

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