第1話 「恵子、それ遊びの誘いと違う。脅しや」

 きっかけは、友人である玲門れいもん恵子けいこのおバカな提案に乗ってしまったことだった。いわゆる高校生によくありがちのイベント……その名も「肝試し」。


「雪ー!ㅤちょっと今週末予定ある?ㅤないよね?ㅤあたしと遊んでも無問題だよね。OK遊ぼう。え?ㅤ嫌?ㅤバカモンがぁッ!ㅤもちろん拒否権などないッ」


 ちなみに誘い文句はこんな感じ。訴えたら勝てないかなこれ。

 もちろん最初は断った。だって誘ってる態度じゃないし……交通費とかも気になるし……。


「すみません調子に乗りました。で、でも……!ㅤあたしは雪と行きたいんだ……ッ!ㅤこれは遊びじゃあない……本気の遊びなんだッ!!」

「落ち着こう恵子、それ結局遊びだから!」


 ……で、半ば無理やり聞かされた話によると、近所の観光名所……異人館街には秘密の地下墓地カタコンベがあるらしい。そこには国内外問わず多くの屍が埋葬されているが、秘密というだけあって「いわく付き」の死体だけがそこにわんさかあるのだとか、なんとか。


「大丈夫大丈夫!ㅤいざとなったら土下座したらどうにかなるッ」

「日本式土下座って向こうの幽霊は知ってるの……?」

「……じ、じゃあジャパニーズ・ハラキリで……」

「死んじゃうよ!?」


 あれよあれよという間に週末になって、待ち合わせの夕刻になって、気付いたら恵子とはぐれていて……。

 日もとっくに傾いた時間に、異人館の裏手で立ちぼうけ。流されやすい自分の悪い癖を心底悔やんだ。……え?ㅤ本当は内心楽しんでるだろって?ㅤそ、ソンナコトナイヨー。キノセイダヨー。

 自己啓発セミナーとか、輝く女になるための講座とか行くべきかな……なんて考えていたからか、足元にぽっかり空いてる穴に気づかなかった。


 まあ、はい、お察しの通り、落ちました。

 不思議の国のアリスみたいにメルヘンな落ち方なら可愛かったのだろうけど、


「ぎゃあぁぁぁぁあぁああ」


 こんな悲鳴をあげて落ちました。こんな声、体育祭でも出したことないのに……いや、やる気がなかったからとかでは断じてなくね?ㅤ確かにやる気はなかったけどもね?


 ともかく、このまま落ちたら尾てい骨がただじゃ済まない……!ㅤと、思っていたら、


「おやおや、何事かと思ったら……。怪我はなかったかい、お嬢さん」


 ロマンスグレーの髪をきちんと撫でつけた紳士が、片腕で受け止めてくれました。


 正直に言いましょう。

 惚れてまうやろ。

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