第9話 出立(改稿済)
あの後ルードゥ達と村に帰ってきた俺は、村長の家へと直行し依頼達成の報告をしていた。
ルードゥとゴブ吉は、ゴブ蔵さんの家に向かわせたが……。
果たしてどうなることやら。
「まさか、本当に暴走を殺さず抑えて見せるとはの……。それでその呪いの短剣とやら、見せてくれんか?」
「ん? 分かった。でも俺が人間だから持っていても効果がないのか、それとも刺さってなければ効果がないのか分からないから、見せるだけだぞ?」
「分かっておる、わざわざ要らぬ危険を冒す程アホではない」
そういう奴程危険なんだよなぁ……。
分かった分かった言っといて全く話聞いてないやつとかさ。
いや、爺さんに限ってそれは無いと思うけど。
こんなよぼよぼの爺さんの割には、村長としての役割しっかり果たしてるらしいし。
「ふむ……成程、確かに呪装の類に間違い無いようじゃな」
「む、何故そんなコトが分かるんだ?」
「ほれ、ここをよく見てみぃ……文字が彫ってあるじゃろ?」
……ホントだ、全然気づかなかった。
「うん」
「これは『ルーン文字』と言ってな、
「へぇ~成程なぁ、でも……なんでそんなコト知ってんだ? 爺さんって唯の老いぼれゴブリンじゃないのか?」
「ホッホッホ……何、ちと
「ふーん。それはそうと爺さん、お孫さんには話通しといてくれた?」
「クッ……覚えておったのか、まぁ話だけはしておいたわい」
「そっか、ありがとよ。んで……爺さん、これから顔合わせに行きたいんだが今何処にいるんだ? いざ旅へ出発ってとこでやっぱ無理は嫌なんだが」
「む……それもそうじゃ。ゴブ美! 昼間話した人間がお前に会いたいと言っておるから下りて来なさい」
「お爺ちゃん? 分かった。今行くね!」
お、他の魔物達より断然声が聞きやすいな。
やっぱり人間の血が濃いからかな?
村長と二人で茶を飲みながら暫く待っていると、部屋の扉からひょっこりと縁肌で黒髪ショートの可愛い女の子が顔を出した。
あれ……小さく、ない?
あぁ、そうか。
これが他のゴブリン達との違いか。
「えーっと、私がゴブ美……です」
その娘は、頬を赤く染め上目づかいで自己紹介してきた。
「可愛い……あ、そうじゃなくて! えっと俺がウィリアム。それで、どうかな? 俺と一緒に冒険しない? 不幸にはしないと約束するよ。君を傷つけようとする敵は皆倒すし、俺の友達もマンティスだけど良い奴さ!」
「……ホントに変わってるんですね、私のコト可愛いなんて。人間って、肌の色が違うだけで酷い差別をするのに……。それに、私皆と違って大きいから……」
暗い顔をするゴブ美ちゃん。
腹が立つ、とても腹が立つ。
肌の色が緑ってだけで虐めるなんて。
こんな可愛いのに!
ってか、ゴブリンの雄共も雄共だッ! 全くもってセンスがない……いや、俺が会ったゴブリンの平均身長、成人した雄でも135センチぐらいだったからなぁ。
確かに雌で150センチはデカいのかもなぁ。
でも、それにしたって虐める必要はない筈だ。
「俺様はそんな奴らとは違うぞ! ゴブ美ちゃんは本当に可愛い。
これで可愛くないなんて思う奴こそセンスがないのさ、自分に自信を持つのだゴブ美ちゃん! この俺様が自信を持って言おうじゃないかッ!」
「あはは、なんか……そこまで言われると照れちゃいますね。分かりました!
では、これから宜しく御願いします! お爺ちゃん、いい?」
「寂しいが……ゴブ美がこの村でやっていけるか不安だったのは事実。
仕方ない。許そう……ただし、ウィリアム! ゴブ美を少しでも泣かせてみろ? 世界の果てまで逃げても殺すからな! いや、例え死んでも殺す」
「あぁ、任せろ! 俺も幸せな涙は好きだけど不幸な涙は嫌いだからね」
「ふん! まぁ、お主なら戦いにおいては心配要らんじゃろう。しかし……お主、何か無茶して心配させて精神的に傷付けそうじゃからの」
む、無茶か。
否定できない……友達や家族の前では、無敵のヒーローで居たいからな。
何より、弱い自分なんて、見せたくない……。
……だが、まぁ今回の謝罪の一件で、俺が助けるだけでは決してグレートでクールなヒーローとは言えないってことが分かったからな。
「あぁ、出来るだけ頑張るよ」
うん、出来るだけ頑張る。
だって友達や家族を傷付けられたら、とても我慢できそうにない。
自分でも分かる。
そんな事態が起きれば俺は、自分の身体なんか二の次にして守る為に戦うだろうって。
世界が笑顔で満ちて欲しいとは常に思ってるけど、俺は知っている。
どうしようもない"悪"って奴が存在することを。
だから俺は、家族や友達にとってのグレートでクールなヒーローを目指すのだ。
出来る限り誰も殺したくはない、だけど第一優先は家族と友達だ。
家族や友達などの知ってる人か、知らない人……どちらかを見殺しにしなければどちらも死んでしまうような事態に陥れば、俺は知らない人を切り捨てるだろう。
まぁでも、そんな事態に陥る前に解決するのがグレートでクールなヒーローだよな!
そして、俺は……いや
いや、そうでなくちゃいけないんだ。
グレートでクールなヒーローでいる為に。
「いや、やはり違うな!
何故ならこのグレートでクールなヒーローである偉大なるウィリアム様が、そんな事態に陥る筈がないからだ! ぬあーはっはっは!!!」
「ウィリアムさんって……情緒不安定?」
「ほっといてやりなさい、とりあえず悪い奴ではないから」
「うん、それは分かってる。でもヒーローか、カッコイイな! そういうの。魔物にも優しい皆のヒーローか……凄いなぁ、ウィリアムさんって」
「いやいや、まぁ確かに行動はヒーローそのものだと思うが……中身が残念過ぎる気がするんじゃが? 絶対此奴内心で『俺様カッコイイ!』とか考えてるタイプじゃぞ」
「別にいいじゃん、なんか子供みたいで可愛いし」
「……うむ。そうじゃな、見た目と実力に反して精神が未熟で幼稚過ぎる」
「えー、お爺ちゃんそういうタイプ? 私そういうの好きなんだけどな~。ひたむきに夢を追いかける事の出来る人って素敵だと思うんだ!」
「まぁ……これから一緒に旅をすることになるのじゃから、その間に見定めなさい。すぐに判断してはいけないよ? 長い時間一緒に暮らせば、必ず素の性格というものが出る。それでも気に入ったと言うのなら……任せよう」
「うん! あの人のコトしっかり見て決める。だって、パパママやお爺ちゃん以外では私とまともに話してくれる初めての人だもん。もしかしたら私の生涯のパートナーになるかもしれないんだよ? 軽く見る訳ないよ……奥の奥まで、深層心理まで見切ってやるんだから」
ん? 今、ちょっと寒気が……。
それにしても、さっきから爺さんとゴブ美ちゃんは何を話してるんだ? 勝手に高笑いし始めたのは悪かったけど、仲間外れは嫌だぞ!
「爺さん、ゴブ美ちゃん! 一体何を話しているんだ? 俺も仲間に入れてくれ、一人だけ
「だってウィリアムさん、高笑いしてて気付かないんですもん」
「それは悪かったから、一体何の話をしていたのか教えてくれ!」
「秘密です! ね、お爺ちゃん」
「ホッホッホ。そうじゃな、ワシとゴブ美の秘密じゃ」
「そんなぁ……教えてくれよゴブ美ちゃん!」
「しつこいですっ! 知ってます? しつこい人って嫌われるんですよ」
な、なに!? そ、そうだったのか……なんてコトだ。
いやしかし、ここでしょぼくれてはいけない!
「……ご、ゴホン! 俺様もう何も聞かないぞ」
そう、しつこいと嫌われるってんならしつこくしなければ好かれるのだ。
俺って……実は天才だったのか!? いや、天才だったな。
何せ俺様はグレートでクールなヒーロー、偉大なるウィリアム様だからな! 俺様に出来ぬことは無いのだッ!
「ぬあーはっはっは!」
ホント俺って、調子乗りやすいよなぁ……。
「チョロいな~ウィリアムさん。子供だ、凄い子供だ。かわいい」
「ん? なにか言ったかゴブ美ちゃん」
「いえ、何も言ってません。幻聴じゃないですか? もう夜ですし、お疲れなのでしょう。お部屋まで案内しますね」
「む? そうか、悪いな! ではまた明日な爺さん!」
「うむ」
こうして、俺の一日は終わった。
明日からの日々が楽しみだ。
何せ、もう二人も友達が出来たからな!
きっと旅路は楽しいモノになるぞッ!
……なんてな。
でも、たとえどんな困難があってもこいつらがいれば俺は……俺でいられるだろう。
弱かった頃の自分に戻ることは、もうない……筈だ。
いや、あってはならないのだ。
明くる日。
朝となり、村長の家でそのまま朝食を摂らせてもらった俺達は、それぞれ旅の準備を済ませ(とは言ってもほとんど何もしてないが)村の門に集まっていた。
ちなみに朝食の献立は、木の実と焼いたウサギ肉だ。
質素ではあるが、普通に美味かった。
それはそうと、ルードゥは無事ゴブ蔵さんに許してもらえたらしい。
魔石を晒してまでゴブ吉を守ろうとしたことが大きかったようだ。
「それじゃ、またいつか遊びに来るぞッ!」
「じゃあね、お爺ちゃん!」
「それでは、まタ」
「ふん、ゴブ美は何時でも来て良いが……お前らは来なくて良いわ」
「ぬあーはっはっは! そう邪険にするな爺さん。何か良い酒でも土産に持ってきてやるから、な?」
「本当か?」
「おう! 友達の親は家族も同然。それぐらいのサービス当然なのだ!」
「……仕方ないのぅ、何時でも来い。宿代わりぐらいはしてやろう」
「助かるぞ! ありがとう、爺さん」
「……何度も言うが、ゴブ美のためじゃ。勘違いするな」
「それでもさ」
「ふん、行くならさっさと行け」
「おう」
いよいよ、俺達の旅が始まる。
「準備は良いか?」
「勿論!」
「うン!」
「それじゃあ村の皆、また会おうな~!」
大きく手を振りながら、大声で別れの挨拶を告げた。
さぁいよいよ旅立とう! という所で、一つの声と高速で飛来する何かの音が聞こえ前へと進もうとする足を止めた。
「受け取れ! その袋には、この世界の地図と人間の国で使える金が少し入っている! 冒険には欠かせないものだろう? ……ゴブ美のこと、くれぐれも頼むぞ」
飛んできた割と大きめな革袋をキャッチした俺は、すかさず中身を確認した。
中に入っていたのは、一枚の丸められた羊皮紙と銀色に輝く5枚の硬貨。
それは俺も知っている通貨で、価値の分かるモノだっただけに余計感謝した。
これだけあれば、職に就けずとも出費を必要最低限に抑えれば1週間は生活できる。
それに、100年前の地理なら大体把握しているが、100年の間に変わっているかもしれないし地図に関しても普通に助かる。
これで余計謎が深まったな、何故唯の老いぼれゴブリンがこんなモノを持っているのか……。
襲ってきた人間から奪った? いや、違う。
金に関してはもしかしたらそうなのかもしれないが、地図に関しては違う筈だ。
地図ってのは、俺が知る限り国が軍略会議とかで使う為に一枚だけ持っているような超
100年の間で普及したのかもしれないが、それでも一般市民が持っているようなモノでは無い筈。
精々が貴族や大商人が持っている程度だろう。
本人曰く、『ちと変わった経験がある』だけらしいが…。
旅をしながらそれとなく情報を集めてみるか……。
バロン王国について聞いた時に見せた、あの異様な威圧感のコトも気になるしな。
もしかしたら、魔物側の王の部下的な立場だったのかもしれない。
いや、だとしたら何故こんな小さな村に……? まぁ気になるコトはあるが今は後回しだ。
とにかく感謝を告げねば!
「ありがとよ、爺さん!」
「……お主の夢、ワシも応援させてもらう。いつか、人間と魔物が手を取り合う平和な世界が作られることを期待している。魔物にも優しき人間、勇者ウィリアムよ。ここからはお主達の物語、願わくばその旅路の末に救いがあることを……」
……本当にあの爺さんは、一体何者なんだろうな。
あ、そういやこんな感じのセリフを何処かで聞いたような気が……。
んー、分からん。……ってことは、気のせいだな!
「行こう、2人とも。果て無き冒険の旅へ!」
「はい、胸が高鳴りますね!」
「うん、何処までもついていくヨ!」
世界中を見て回ろう、そしていつかセラフに会って確かめるんだ。
吸い込まれた時感じたあの懐かしさの謎を。
俺がこの100年後の世界に来てしまった理由を。
全ては、もう一度セラフに会えば分かる筈だから。
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