最後の騎士 ~第六聖女遠征の冬~
寸陳ハウスのオカア・ハン
序章
戦いの果ての雪道
雪が降っている。
静かに舞い落ちる雪が果てなき北の大地を冬の色に染める。どこまでも広がる暗い雲は、遠く北限の峰の稜線をも滲ませている。
雪の中を男が独り歩いている。
力ない足取りが雪原に揺らめくたび、目深に被るフードの隙間から白い息が漏れる。くすんだ青い瞳、萎びた金色の長髪、あどけない薄ひげの頬……。まだ少年の面影残るその横顔は、雪に蝕まれている。
ボロ切れ同然の外套と雑兵の背負う
〈教会五大家〉筆頭貴族、ロートリンゲン家の家紋であり、その私設騎士団たる
月盾の騎士が雪原を落ちていく。
点々と転がる亡骸が、落ちる月盾の騎士を導くように南へと続く。
凍てついた鉄兜と甲冑が道となり、散乱する武器が墓標となる。折れた直剣、埋もれた
時折、風が吹き、冬が哭く。
戦場となった北の〈帝国〉の地を
この地には誰もいなかった。〈教会〉から派兵された第六聖女遠征軍の生き残りも、それに従軍した
かつて月盾の騎士たちは唱えた──『高貴なる道、高貴なる勝利者』と。
その成れの果てがこれだった。〈神の依り代たる十字架〉への祈りはついに届かず、そして神は誰も救いはしなかった。吟遊詩人や劇作家が語る都合のいい魔法、古き伝承に語られる〈
銃火が支配する戦場はもはや騎士を必要としてはいなかった。かつて確かに騎士だった男、故郷に帰ろうとその命を燃やす最後の月盾の騎士の生死も、落ちる月盾の軍旗の行方も、今となっては大した問題ではない。
最後の月盾の騎士が落ちていく。
大地は死で満たされている。その先に広がるのはただ遥かなる地平線のみ。騎士の前に広がる冬の色は、どこまでも白く、どこまでも静かである。
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