第5話 家に帰る日


 レイリアはうきうきしていた。今日は三カ月ぶりにランバダが帰って来る日だ。

レイリアだってお年頃だ。気が付いたら、ランバダの事を異性としてみていた。いつ頃からランバダの事が好きだと気が付いたかは分からない。いつの間にかそうだった。

(きっと、生まれてすぐの頃からだわ。)

 レイリアはそう結論付けた。だから、ランバダがいじめられていて、必死になって助けて守っていたのだと思う。

 ただ、ランバダの方は分からない。もてるのにそういう事には、鈍感である。女の子にとってランバダは完ぺきな存在だ。武術ができて、頭が良くて優しくて親切。何より、顔が良かった。

 ランバダはかなりの美少年である。街を歩けば知らない人は必ず、一度は振り返る。だから、ランバダが帰って来る日、花通り中の女の子達はみんな、身なりに気を遣い、おしゃれして待っている。彼の気を引こうと色目を使い、激しい戦いを繰り広げる。

 しかし、当の本人は少女たちに囲まれるのが苦手だ。だから、スルー家の人々もレイリアの家族も、決して言わないように気をつけている。

 レイリアはうきうきしているとばれないように、気を付けて外出した。以前、レイリアがうきうきしているというので、ランバダが帰って来るのを見破られた事がある。

 レイリアは本が入った車をゴトゴトと押して歩いた。父のイオニが花車を改造して作った。少し離れた所まで車に本を積んで、貸し出しに行ったらどうかと、レイリアが提案したのだ。

 イオニはレイリアに店番をさせて、すぐにやってみたのだが、ほとんど借りに来なかった。骨折り損のくたびれもうけだと、ぶうぶう文句を言うので、レイリアが貸し出しに行った所、少年少女の借り手が多くついて、大盛況となった。それ以来、レイリアが木材通りまで本を貸し出しに行っている。

 今日はランバダが帰って来るので、午前中までだ。いつもは途中でお昼を食べ、他の通りにも足を延ばしていた。

 レイリアは慎重に辺りを見回した。花売りをしている少女達も多い。気をつけないと見破られてしまうかも。レイリアは裏通りを行くことにした。暗くなってくると危ないが、今は日も高い。

 レイリアは急いで裏通りを行こうと少し小走りで進んだ。両側は建物の壁が並び、所々に更なる小路がある。昼間から仕事もしないでたむろしている男達が、レイリアに視線を注ぐのを感じた。

(やっぱり来るんじゃなかった。)

 レイリアは道の半ばまで来た時、後悔した。ここは木材通りである。力仕事をする労働者が多い。土木関係の仕事がなければ、こうしてたむろしているしかないのだった。同じ木材通りでも妻帯者が多く住む通りは、女性も子供もいて安全なのだが、一人身の労働者が多く住む裏通りは物騒な雰囲気が漂っていた。

 恐かったが、戻ればかえって危険かもしれない。前に進んだ方がいい。レイリアは必死で前に進んだ。

 その時、後ろから誰かが走って来る足音がした。この通りの住人なのか、レイリアを追ってきたのかは分からない。

 ゴトと嫌な音がした。車の車輪が石畳の穴にはまったのだ。

(やめてよ、もう!)

 裏通りに入った自分の責任なのだが、泣き出したい気分だ。

(もう、こうなったのもランバダのせいなんだから!)

 心の中でランバダのせいにしながら、急いで車を持ち上げるが、本が入っている車は容易には動かない。そうしている間にも、足音はどんどん近づいてくる。最悪、売上金だけ持って逃げようかと考えた時だった。

「レイリア、大丈夫?」

 肩で息をしているランバダだった。

「ランバダ…!あんただったの、もう。」

「だって、何度も呼んだのに気が付かないから。ずっと走って来たんだよ。それより、どうしたんだよ、こんな所で。」

「穴にはまったの!」

 レイリアは本当は凄く嬉しくてほっとしたのだが、照れ隠しに怒って言ってみせた。

「ああ、そういう事か。ちょっと、貸して。」

 ランバダは言うなり、車を持ち上げ、すっと押した。それだけだった。見た目は細いがやっぱり、イゴン将軍に弟子入りしているだけあるんだなと、こんな時に思ってしまう。

 車はいとも簡単に動き出した。

「僕が押していくよ。」

「いい、わたしが…。」

 レイリアが最後まで言わないうちに、ランバダは車を押して走り出した。

「ああ、ちょっと、何やってるのよ!あんまり走って、車輪の軸を折らないでよ!ちょっと、待ちなさいってば。」

 レイリアは慌ててランバダを追いかけた。さっきまで感じていた恐怖をもはや、忘れていた。

 ランバダは裏通りを出て、安全な通りまで出てきてやっと走るのをやめた。

「ちょっと、どういうつもり。」

 レイリアはランバダに追いつき、息を整えてから文句を言った。

 ランバダは足を止め、レイリアを見下ろした。彼の方がレイリアの掌一つ分背が高い。

「レイリアの方こそ、どういうつもりだよ。あんな所を歩くなんて危ないじゃないか。」

 ランバダにしては珍しく、少し怒っている。

「だって…。」

 レイリアはうつむいた。

「早く帰ろうと思って、近道しようと思ったのよ。昼間だから、大丈夫だと思ったんだもん。」

「ぜんぜん、近道じゃないよ。距離としては短いけど、気分としてはかなり長いよ。」

 ランバダは言いながら車を押して歩き出した。家まで押してくれるつもりらしい。

「もう、呼び止めたのに、どんどん行って、裏通りにずんずん入っていくから、焦ったじゃないか。」

 口調から少し機嫌を直したのが分かった。

「ごめん。わたしも実は後悔したの。ランバダが来る前に橋の所まで行きたかったから。」

 そこで、待ち合わせる事になっていたのだ。

「早く行きたいからって危ない所に行ったらだめだ。」

「うん。もう行かないよ。今日でこりごり。良かった、ランバダが来てくれて。それにしても、予定より早く来たのね。」

「うん。国王軍の入隊試験の手続きが予想より早く終わったんだ。だから、一本早い乗合馬車に乗れたから。」

「国王軍の入隊試験?十五歳になってから受けるんじゃないの?」

 レイリアは少しおどろきながら聞き返した。

「入隊するのは十五歳になってからだけど、誕生日が来てすぐに入隊できるように、早めに受験していいんだよ。」

「ふうん。だからって十四歳になって、まだそんなにたっていないのに、もう申し込んできたの。」

 ランバダと離れ離れになる時間がますます長くなるかと思うと、レイリアは気分が落ち込んだ。

「試験は半年後だよ。先に申し込んでおかないと、いきなり行っても受験できないから。」

 ランバダは嬉しそうに言った。

「でも、国王軍に入らなくてもいいでしょ。公警や民警でもマウダを捕まえられるわ。」

 もう何回目かになる反論をレイリアはまたしてみた。

「公警に入るにしろ、民警に入るにしろ、国王軍に入った方が後で色々と便利なんだ。はくが着くんだよ。」

 これまた、何回目かの説明をランバダは繰り返した。

「レイリアは僕が国王軍に入って欲しくないんだな、あいかわらず。」

 駄々をこねる妹のような扱い方をされ、レイリアは唇をとがらせた。

「だって、今でもしょっちゅう会えないのに、ますます会えなくなっちゃうじゃない。」

 レイリアはこれでもかというほどに、ランバダに好きだという気持ちを伝えているはずなのに、ちっとも気がつかない。

「別に僕じゃなくても、友達はたくさんいるだろう。それにオリやブランとも遊べばいいじゃないか。」

「そういう意味じゃないわよ…!このにぶちん!ふんだ、わたし、先に行くから。」

レイリアは怒って先に歩き出した。

「おい、待てよ、どうしたんだよ。」

 ランバダは慌てて後を追う。レイリアは時々、こんな風に急に怒り出すのだが、ランバダにはなぜなのか分からなかった。家族の女性陣に尋ねても、母のセリナをはじめ、姉のパーナや妹のリーヤにいたるまで、

「あんたが悪い。」

「お兄ちゃんが悪い。」

 と口をそろえて言われてしまう。父のソリヤを見ても苦笑いして、

「まあ、そのうち分かるようになるさ。今は分からないんだからしょうがない。」

 とか言われてしまう。女心ってむずかしい。

 急いで車を押してレイリアの後を追っていると、突然声がした。

「あらあ、ランバダじゃない!」

 甲高い声に驚いて振り返ると、同じ十番通りに住んでいるボン・シュリナだった。よく、レイリアと喧嘩している、十七歳の少女だ。

「や、やあ、シュリナ。久しぶり。」

 ランバダは苦手な少女の出現に顔を引きつらせた。早く行こうとするが、シュリナが隣にぴったりくっついてきて、上手く進めない。

「もう、レイリアったら、帰って来たばっかりのランバダに車なんか押させたりして。重いでしょ。あたしが手伝ってあげる。」

 シュリナはわざと前を行くレイリアに聞こえよがしに言った。レイリアは気づいたようだが、無視している。

「い、いや、大丈夫だよ、シュリナ。かえってその方が押しにくいし。」

「いいのよ、遠慮えんりょしないで。」

「遠慮じゃないんだけど…。」

 押しの強いシュリナに、ランバダの声は尻すぼみになっていく。

「それじゃあ、せっかくだから、お言葉に甘えさせてもらうわ。うちまで押してきて。行くわよ、ランバダ。」

 戻ってきたレイリアはシュリナに言いたいことだけ言うと、ランバダの手を取って歩き出した。こんな事は幼馴染のレイリアか彼の妹しかできない。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 シュリナの抗議の声は口の中だけで終わった。周りにも人がいるし、ここで置いて帰ったら気があるランバダの信用を得られない。シュリナは仕方なく、車を十番通りまで押して帰った。


 ランバダは三カ月に一度家に帰ってきて、二週間家にいるという生活を七年間してきた。春に生まれたランバダが十四になって、初めての帰宅だった。

 オリとブランにも顔を出し、ルンナとも話をして戻ってきた。

 六番通りは今では閑散としていた。エイグも住んでいない。後で知ったことなのだが、エイグにじい、と呼ばれていた家令が、殺されたというのだ。煙のように一家は引っ越した。さんざんランバダをいじめていたエイグだが、身近な人が殺されてどんなに辛かっただろうかと、ランバダは思う。

 夕食をみんなでるために食卓を囲む。

「おばあちゃん、こっち来て。ゆっくりとね。」

 ランバダはパーナと一緒に、すっかり目が見えなくなってしまったルダを食卓に導いた。

「おばあちゃん、椅子はここだよ。」

 一番末っ子の七歳のユーダが椅子を叩いて教えた。

「うん、ここかい?」

「そうだよ。」

 得意げにユーダは言っている。ルダは椅子に座ってもなお、嬉しそうにランバダの手を握ってさすっていた。

「ランバダ、大きくなったね。また、身長が伸びたんじゃないかい?」

「おばあちゃん、すごいね。本当は見えているんじゃない?」

 ルダは嬉しそうに笑った。

「もし、そうなら、あたしゃ立派な詐欺師になれるわね。」

「詐欺師って何?」

「なにー?」

 カユリが尋ね、真似してユーダが続ける。

「人をだまして悪い事をする人達のことよ。」

 リーヤの説明にユーダがまた言った。

「おばあちゃん、さぎしなの?」

「違うわよ。せっかくお兄ちゃんとおばあちゃんが話しているんだから、邪魔じゃまをしないの。」

 リーヤはきっとして弟を叱りつけた。なおも抗議しようとするユーダをソリヤが頭をなでてなだめた。

「みんな、大きくなったねえ。リーヤはしっかり者になった。カユリは我慢強いし、ユーダは好奇心が強いね。大きくなったら、学者さんになるかね。」

 ルダは楽しそうに笑い、また言った。

「ランバダはすでに立派な一家の大黒柱さ。お前がイゴン将軍の所に行ってくれたおかげで、どれほど家計が楽になったか。みんな、誇りを持っていられるよ。本当に大きくなった。てのひらがまた大きくなって、固くなったね。毎日の訓練はきつくないかい?」

「大丈夫だよ、おばあちゃん。今では練習しない日があると、落ち着かないんだ。」

 ルダがずっとランバダの手を離さないので、パーナが席を入れ替わって、ようやくランバダは椅子に座った。

「本当に泣き虫だったのにねえ。どうだい、もう、国王軍の受験の申し込みはしてきたのかい?」

「うん、してきたよ。」

「そうかい。早くお前が国王軍の制服を着ている姿を見たいもんだね。」

「来年だよ、それまで、長生きしてよ。」

「そうだねえ。」

 ようやくルダは手を離し、食事が始まった。食事が始まると、パーナとランバダは席を入れ替わった。ルダが食べる手助けをパーナがするからだ。もぐもぐと咀嚼そしゃくしながら、ルダは言い出した。

「そうだ、パーナ、お前、ちゃんとランバダに言ったのかい?」

「ううん、まだよ。これから言おうと思ってたの。」

「姉さん、何かあるの?」

 ランバダが尋ねると家族みんなが顔を見合わせた。パーナは恥ずかしそうに言った。

「わたし、結婚する事が決まったの。」

 ランバダは目を丸くした。

「へえ、良かったじゃないか、姉さん、おめでとう…!相手はどんな人なの?間違っても僕が試験の日に結婚式をしたりしないでくれよ。」

「それは、分かってるわよ。相手はね、お医者さんなの。」

「お医者さん?」

 パーナはにっこりした。

「ええ。クーロ家の方なの。王宮の温泉施設の管理を担当されている、クーロ・リタスさんって知ってる?」

 ランバダはうなずいた。

「それはもちろん。誰が何の担当者か、国王軍の試験にも出るから、みんな覚えてる。」

「その方の三番目の息子さんが相手の方よ。とても、素敵な方だわ。ルーベスさんとおっしゃるの。」

 パーナはほおをうっすら紅潮させて嬉しそうに話している。

「凄いな、そんな人とどうやって知り合ったの?」

 ランバダは口では凄いなと言いつつも、内心は少し心配だった。クーロ家は温泉の効能などに詳しい、医者の古い名家だ。王家や名だたる貴族の温泉施設のほとんど全てを管理、維持している。

 そんな名家に花売り娘が嫁いでちゃんとやっていけるのか、不安がある。だから、家族のみんながなんとなく微妙びみょうな雰囲気だったのだ。

「花を売っている時よ。その日はたまたま石材通りに行ったの。そうしたら、クーロ家の方々や王宮の財務の役人だとか、いっぱい来てたの。なんでも、老朽化した離宮の補修で新しい石材が必要なんですって。

 まあ、とにかく、そんなお役人さん達に花を売りつけても無駄だと思って、帰ろうとしていたら、後ろから声をかけられたの。その花全部下さいって。いつもだったら、断るけど、お役人さん達の一軍が見てるから、仕方なく売ったの。それが、最初よ。」

「ふーん。それで、どうして、クーロ家の人って分かったのさ?」

「それが、たまたまよ。父さんが上司から頼まれて、わたしに見合い話を持って来たの。それで、仕方なく会ってみるだけって事で、会ったわ。そうしたら、その花を買った人だった。縁があるって、それから、何度もお会いして、結婚する事に決まったの。」

 ランバダは父のソリヤを見た。苦笑いしている。

「まさか、本当に結婚が決まるとはなあ。」

 ソリヤは言った。

「向こうの家はうちが普通の家庭だって分かってるの?」

 ランバダは思わず尋ねた。あまりに家格が違いすぎる。ソリヤは頭をかき、セリナはため息をついた。

「それが、お前の事があってな。一度、向こうの御両親がお見えになった。結婚前にうちの事情を知っておきたいと言われた。

 身内になるかもしれない相手の申し出だ。お前の事も隠しておくわけにもいかん。どうせ、花通りでは分かっている事だし、お前がイゴン将軍の所に行ってる話をした。

 そしたら、決まってしまった。イゴン将軍なら信用できると、いたく喜ばれてな。その上、息子がイゴン将軍の所にいると自慢する事もなく、質素に暮らしていると感激されてしまった。」

 ランバダは目を丸くした。

「そ、そんな事で決まったの?」

「いやあ、父さんも驚いたさ。まさか、そんなにイゴン将軍の名前がきくとは思わなかった。」

「きくって…師匠に失礼だよ、父さん。」

 少し機嫌をそこねた息子に指摘され、ソリヤはしまったという顔をした。

「や、すまん。悪い意味はないんだ。ただ、驚いたんだ。世間では凄い名前のようだ。」

「とにかく、ランバダのおかげだわ。それで、結婚が決まったんだから。」

 パーナは嬉しそうだ。目がきらきらして、体の内側から光がしているようだ。

「ただ、御両親やルーベスさんはいい方のようだけど、身内の方が反対なさらないかしら。わたしはそこが不安だわ。」

 今まで黙り込んでいたセリナがぽつりと言った。

「大丈夫だとこの間、仰っていたじゃないか。三男だし、何も問題はないと。信頼できる家族なら、家柄は問題にしないとも言われていた。」

 ソリヤは娘の結婚に賛成でセリナは内心では反対だな、とランバダにはすぐに理解できた。

「向こうは良くても、パーナがついて行けるか心配なのよ。学べばいいって言っても、大変なのよ。」

 一度、駆け落ちをして別れさせられているセリナにとっては、娘に苦しい思いをさせたくなかった。

 もし、離婚にでもなって、いや、婚約破棄だってないとはいえない、そんな状況になって戻ってきたら、パーナが好奇の目で見られてしまう。自分と同じ思いはさせたくない。

 母としては家柄の釣り合う人と結婚して欲しかった。苦労なく、気楽に暮らせる人がいい。自分だってソリヤと結婚して良かったとつくづく思っている。

 最初は嫌々、グイニスと別れたが、今ではそれで良かったと思っている。どれだけ、気楽に暮らしている事か。グイニスといたら、毎日、生きた心地がしなかっただろう。とっくに死んでいたかもしれない。

「セリナ、心配をすればきりがないよ。」

 黙って話を聞いていた、ルダが口をはさんだ。

「母親にしてみれば、心配はきりがない。嫁がせる事も心配だし、嫁がずにずっと家にいるのも心配だ。

 わたしもそうだった。あんたが嫁いできた時、一体、どうなる事かと心配した。分かっていたと思うけど、ソリヤとの結婚に反対だったんだ。

 あんたはまだ、若かったし、ソリヤは一度結婚して最初の人と死に別れていたしね。だけど、あんたはわたしの心配をよそに立派にやってるじゃないか。

 初めて子供が結婚するから心配なんだろうけど、きっと大丈夫。パーナも嫌がっていないし、失敗したら戻ってくればいい。これで、パーナが婚期を逃したら、それこそ、大変じゃないか。そうじゃないかい?」

「お義母さん…。でも、もし、結婚して離婚して戻ってきたら、うわさされたりして大変じゃないかしら。」

 思わず、パーナが吹きだした。

「お母さん、やめてよ。先の事を心配しすぎよ。これから婚約して、それから結婚するのよ。いつもの心配性もいきすぎだわ。まだ、結婚もしていないのに、離婚の話だなんて、やめてよね。」

「そうだよ、姉さんの夢を壊したらだめだよ。」

 パーナとランバダに言われ、セリナは少し顔を赤くした。

「そうね。ちょっと、先の事を心配しすぎね。ごめんね、パーナ。反対している訳じゃなくて、なんか色々心配になるのよ。」

「母さんの悪い癖ね。本当に心配性なんだから。」

 リーヤがパーナそっくりの口調で言った。あまりにそっくりで吹き出しそうになり、ランバダは飲みかけていたすまし汁でむせた。

「何よ、兄さん、わたし、何かおかしな事を言った?むせたりして。」

 言いながら、背中をさすってくれる。

「あまりに姉さんとそっくりで、びっくりした。」

 リーヤは首を傾げた。

「ランバダは離れている時間が長いから、よく分かるんだね。」

 ルダが笑い、家族みんながつられて笑った。

「そうかなあ。」

 リーヤはまだ首をひねっている。にぎやかな楽しい家族の時間だった。

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