Log-130【IMITATION THE HUMAN RACE-弐】
「……勇者の命と祈りと歴史によって鍛えられて完成したこの
勇者と鍵の関係性、そしてそれがもたらす結末。彼女の語るその推理は
「……半分正解じゃな」
「え? 嘘、まだそれだけ?」
メルランの言葉に、ウルリカは驚愕した。彼やゴドフリーから匂わされるも未だ不足している情報は全て省き、彼女の知り得た情報だけで妥当な論を構築したつもりだった。にも関わらず、半分しか当っていないとはどういうことか。ああなるほど、知識そのものが間違っていたということか。
「接続者の末路くらい知らぬお主ではなかろう」
「……知ってるわよ、そのくらい」
「もしや、告げておらぬのか? その者はもはや定まったじゃろうに」
「……言うわよ、この戦いを切り抜けたらね。なんなら、あんたが変えてくれるんでしょ? この絶体絶命の状況を」
途端、
「お、おい、ウルリカ! ありゃ何だ!? あの爺さんは何しでかそうってんだ!?」
その場にいる誰もが恐怖を感じるほどの威迫を湛えた大砲に、血相を変えて迫るアレクシア。それもそのはず、現状で攻撃対象となるものなど、今や再び目覚めんとしている
「ここを標的にする気かよ!? 間違いなく余波が来るじゃねえか!」
「その通りよ、アレクシア。だから急いで下がるんじゃないの!」
自らに向かってくるアレクシアの手を引いて、ウルリカが全力疾走する。
「全軍後退よ! 門前まで下がりなさい!」
拡声魔術の
その直後だった。全速で後退する彼らの背後から聞こえてきたのは、小雪舞う遙かな雪原に響き渡る、憎悪に塗れた唸り声。不快感を隠さぬ離床は、受けた仕打ちへの返礼に向けた足慣らし。弾け飛んだ血肉の修復を完了した
「クソッ! 早え、何て修復力だ! さっきまでポッカリ腹が抉れてたってのによお!」
「チッ! あたしが時間を稼ぐわ! アレクシアは可能な限りみんなを下がらせて!」
「お、おい! 時間稼ぎはいい、だがその後はどうすんだ! 爆撃から逃げられんのか!」
「いいから行きなさいッ!!」
西門前に向かって併走するアレクシアの背中を突き飛ばし、ウルリカはその場で踵を返した。眼前にそそり立つは、まるで光を吸い込む闇そのものを身に纏った
「こいつ、自分を制御できてない……?」
ウルリカの目には、そう映っていた。事実、彼女の脳裏に訴えかけてくる荒々しい憎悪とは裏腹に、大狼はまるで苦悶しているかのようだった。身体中に刻まれた傷口など、とうに塞がっている。魔力はもはや毛先三寸まで満ち満ちている。にもかかわらず、奴の息の上がりようは、瀕死のそれを
「あんたは本来、あたし如きにビクビクするほど生半可な矜持なんて持ち合わせてないわ。なら何が? 傷が疼く? 魔力の暴走? 教授の魔砲に怯えてる? 違う、どれも違うわ。全く、あのクソジジイにはとことん舐められたものね。こうなるって予想してたんだもの」
ウルリカはこれまでの出来事を
「そういうこと。あんたの頭ん中で、飽和魔石が宿した人類の膨大な想念が渦巻いてるってことね。教授があたしに勇者の霊薬を渡したのは、あんたの飽和魔石に触れて気が狂ってしまうのを防ぐため。そして、あんたを無力化するには感情のタガを外すしかなかった。あんたの無限とも思える再生能力の弱点は、排斥能力を失ったこと。そういうことね?」
「あたしたちは端っからクソジジイの掌の上で転がされてただけ。癪も癪だけど、伊達に千年もの間に百の勇者を導いてきちゃいないわね」
無数の想念が紡ぎ出す終わりのない迷宮に縛り付けられた大狼には、もはや敵を識別する能力も、殺戮に乗り出す余裕も残ってはいない。奴の無力化を認めると、ウルリカは再び踵を返し、西門へと歩を進める――その時、
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