第47話 ドリームランド(3)
一日の終わりには安らぎが訪れる。眠り。それは人に与えられた休息の時。夜、一般的な人々が眠りにつく頃、朧木も眠りについていた。
朧木は夢を見る。それはいつもの光景。いつもの探偵事務所。そして忙しそうなさくらがいた。
「やぁ、丼副君、ポスターの設置効果はいかほどかね?」
朧木はぼんやりとした思考でさくらに尋ねる。
「絶好調ですよ! 電話がひっきりなし! 所長もきりきり働いてくださいね!」
たかたかとパソコンに打ち込みながらさくらが答えた。
「いやぁ、良い方法だったね。君は顧客層の我が探偵事務所の認知度が低いのではないかと分析したわけだ。その狙いはずばり当たっていたね。まさかそんなに世に困っている人がいたとは」
「現実なんて、そんなものですよ。解決策を知らないがゆえに行き詰まる。そんな人達だってたくさんいるんですから」
さくらは朧木をも見ずに応える。
「しかし困ったな。一件依頼が来ていたんだよ。そちらも難航しそうなんで専念したかったんだが、そうも言っていられないな」
朧木は悩むような表情を浮かべている。
「へぇ、所長にお悩みですか。贅沢な悩みですね! で、それはどんな依頼なんです?」
「うむ。眠ったきり目覚めなくなった人についての相談を受けていた。妖怪の仕業なのか難なのかすら見当もついていない。困った事に邪気払いや御札で結界を張っても効果がなさそうな手ごたえなんだ」
朧木は顎に指をあて、どうしたものかと悩んでいる。
「その人はきっと、現実より幸せな夢を見つけたんでしょうね」
さくらが妖艶に笑った。
「現実より幸せな夢、か。そんなものがあるものか。夢は夢。夢を現実と認知していればその間は幸せかもしれないが、結局夢は醒めるものだ」
朧木の見解にさくらがまたしても妖しく笑った。
「ふふふっ、この世に目覚める必要のない夢があったらどうします?」
「はっはは! 一度くらいはそんな夢も見てみたいかもね! まさかそんな夢に目覚めぬ人は囚われているとでも言うのかね?」
「えぇ、彼らは現実より楽しい夢の世界で幸せにしていますよ。どうしようもない現実なんかよりも、幸せな夢の方が価値はあると思いませんか? クソみたいな現実を過ごすよりは遥かにいいですよ」
「ふむ、現実についての認知についてはさておき、という事はその夢の世界に行けば、彼らと会う事ができるとでも言うのかね?」
朧木はそんな話があるものかと内心思っていたが、とりあえずさくらに尋ねてみた。
「えぇ、会えますよ。今から会いに行きますか?」
「ここが夢の中なら会いにいけるかもしれないが、行き方がわからないではないか」
朧木はここでようやく今見ているものが夢だと気づく。
「私、ドリームランドの行き方知っていますよ。案内しますよ。私と、永遠に醒めない夢の桃源郷に行きましょう?」
さくらが朧木を淫らな感じに誘う。
そこで朧木は目覚めた。普段とは雰囲気の違うさくらの様子に、これは明確に夢だと認識した結果として目覚めてしまったのだ。
「いやはや、夢とはいえなんともいえない内容だった。仕事の解決策が見出せずにいるからノイローゼにでもなっているのか・・・・・・」
朧木が時計を見ると、まだ深夜二時過ぎだった。もう一眠りしようにも、変に目覚めて寝付けない夜となってしまった。
翌日。現実の探偵事務所にて。朧木は濃い目のコーヒー三杯目を飲んでいた。
「所長。コーヒーの飲みすぎですよ」
さくらがそんな様子の朧木を気にかける。
「おかしな夢を見てしまったものでね。結局目覚めてから寝付けなくなってしまった」
朧木が深くため息をついた。
「どんな夢なんです?」
さくらは興味深々に尋ねる。
「それが立て続けに同じような内容の夢を見ているんだよ。夢の中の君は現実を憎んでいるかのような言いぶりでね。現実には苦しかないとでも言いたげなんだよ」
「なんですかそれ。私は現実にはつらい事もたくさんあるけれど、良い事だってたくさんあるって信じていますよ。私達は永遠には生きられないですから、この世には一時的にお客さんとしてきた身のようなもの。ならば苦楽も楽しまなきゃ損ですって!」
「ふむ。丼副君は伊達正宗の五常訓の話をしているのかね?」
朧木が意外そうな表情でポツリと語る。
「えっ、それなんですか?」
「おや、違ったか。『この世に客に来たと思えば何の苦もなし。朝夕の食事はうまからずとも褒めて食うべし、元来客の身なれば好き嫌いは申されまい』と伊達政宗が語った記述が残されている。この話かなと思ってね」
「そんな感じですね。大変な事だってこの世のアトラクションなんですから、お化け屋敷やジェットコースターにでも乗っているものと思って生きるのがいいですよ」
「当事者となった時に、そこまで達観できる余裕はあるかなぁ」
「簡単には解決できないからこそ悩んでいるのならいざしらず、解決できないような事に悩んでいるのなら、悩むのが損ってものですって! 人生開き直りです」
さくらが拳を握り締めて力いっぱいに語る。
「ふぅむ、君の年齢でそんなに達観した人生観を持つものなのかね。過去に何かあったのではないかと勘繰ってしまうよ!」
朧木は感心したら良いのか何なのか戸惑っている。
「何かはありましたけれど、それだけじゃないですよ。」
「僕の夢の中に出てくる丼副君はそうじゃないようで。ニヒリズムとでも言うのかな。まるで厭世主義者のような事を言っているんだよ」
「それってどんな感じなんですか?」
「全ての物事には意味も意義もない。どうでも良いものだと言わんばかりだったね」
「私はそこまで悲観的でもないですよー」
「僕もそう思う。とにかく夢の中の丼副君はとてつもなく現実に対して虚無感を抱いているかのようだった。悲観的なニヒリズムは少々問題があると思うが、今の君に言っても仕方のない話だな」
朧木が現実のさくらをみて笑った。
「なら楽観的なニヒリズムならいいとでも言うんですか?」
「ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェは楽観的なニヒリズムを説いているね。人生は無意味であるが、ならばその無意味な人生は壮大なる暇つぶしとして大いに楽しんでしまおうというのさ」
「ニーチェ! 『神は死んだ』の人ですね!」
さくらが目を輝かせた。
「ツァラトゥストラはかく語りきの言葉かね? 科学の進歩と共に神の神秘性と言うものが損なわれていた時代に書かれた著書だね。科学の力で神を観測できていなかった時代の話だから仕方がないが」
「今は科学では説明がつかない現象もたくさんあることがわかっていますから、神性の批判とは間逆の立場をとっていますよね。著名な科学者ほど信仰に厚くなっていくというか」
「この世の原理を知るほどに、大いなる存在を感じてしまうらしいね。世界はそのように作られた、と。無理らしからぬ話だ」
「それにしても所長から見た私って、そんなネガティブな人間に映っていたんですね・・・・・・」
さくらが残念そうに呟いた。
「い、いや、違う違う! 僕は君が楽観的な人間の側だと思っている! 夢の中の君がなんかおかしいんだよ! 永遠に醒めない夢の桃源郷に行きましょう、とかわけのわからない事ばかり言っているんだから!」
朧木の話を聞いて、さくらが噴き出した。
「なんですか、その怪しい宗教勧誘みたいなの! どこへ行こうって言うんですか!」
「そうなんだよねぇ。夢としては昨夜も一昨日の夢の続きだったし、なんか変なんだよねぇ。夢の中の丼副君が僕をどこかへ誘おうとしている。もしかして、眠ったまま目覚めない人の手がかりを教えてくれようとしている上位存在かなにかかな?」
朧木が前向きに自分の夢を解釈し始めた。
「なんですか? その上位存在って」
さくらは鋭く朧木の台詞に突っ込みを入れる。
「たとえば神のような、人を導くような存在さ。今回の僕は仕事で行き詰っている。そんな僕を手助けしようとしている存在なのかもしれない。どうもそんな話しぶりだったからなぁ・・・・・・どこか淫靡な感じがするのが気になるが」
「なんですか! 夢の中とはいえ、人を指して淫靡だなんて! 所長、私をそんな眼で見ていたんですかっ!」
さくらが微妙そうな表情を浮かべて後退した。
「え、ちょ、違うよ、違う! あぁ、もう話がこじれてきた! だから夢の中のなんだかやばそうな丼副君の話をするのは嫌だったんだ!」
「嫌だったって、さもおかしな光景を話するかのように生き生きとしゃべっていたのは所長ですよ」
「実際おかしな光景なんだから仕方なかろう」
「うわ、なんかやだな・・・・・・所長の夢の私」
「はいはい、夢の話は終わり! 現実の話に戻ろう。宣伝ポスターの調子はどうかね?」
朧木はすぱっと話を切り替えた。
「はい、ええとですね。駅前にも張り出し許可を得られました。飲み屋街にも何枚かお願いしたお店があります。今のところ、特に電話とかはないですが・・・・・・」
「流石にそこは夢のようにはいかないようだな。現実なんてこんなものか」
朧木は夢の中で仕事が繁盛していた事を思い出した。あれが自分の願望なんだろうかと思わずにはいられない。
「宣伝と言うのは今すぐ効果があるというわけでもないですよ。お客になりそうな人々に認知されておく、という事が大事なんですから。事件がなくとも将来的に役に立つ日がきます」
さくらが余ったポスターをデスクの上でトントンと揃えながら言った。
「ふむ、はやり繁盛している夢の中より、現実の君の方がとても現実的と言うか理想的だな。事務員として雇っては見たが、実に優秀。将来いろんなお仕事をこなせそうな気がするよ」
朧木が満足そうに頷いた。彼にとっては現実のさくらの方が、遥かに好感が持てた。
「おだてたって何も出ませんよ?」
「そんなつもりはなかったが」
二人がそんなやり取りをしていた最中に、コンコンとドアがノックされた。慌てて来客を出迎えに行くさくら。
さくらが客人を伴って応接室へと向かった。客は二十代と思われる女性一人だった。さくらがささっとお茶を差し出して下がる。入れ替わりに朧木が来客に当たった。
「ようこそ。朧木探偵事務所へ。本日はどのようなご用件で?」
朧木が女性に尋ねる。女性はきょろきょろと辺りを見回していた。
「探偵の事務所って、案外普通なんですね。わたし、瀬良いつみといいます。今日はご相談したい事があってきました」
「ふむ、うちはお困りとあらばいかなる形でもご助力できるかと存じます。さて、いかがな内容で?」
朧木は慎重に女性の様子を伺った。特に焦燥した様子等はない。悪霊に憑かれているような様子もない。
「あの、わたし。つい最近なんですが、大手ネット通販サイトの密林で、買った覚えがないものが届いたんですぅ!」
女性の言葉に朧木はおや? と思った。
「ふむ、買った覚えがないもの、ですか。それはどのようなものです?」
「それがぁ、BL雑誌だったり仏像だったりするんですよぉ! こんなの誰にも相談できないじゃないですかぁ! しかも、勝手に届いたのにクレジットカードの請求は来たんです! 酷くないですかぁ?」
間延びした女性の声に切羽詰ったような雰囲気は感じない。しかし、困っている事は確かなのだろう。
「随分と極端な物が届きましたね・・・・・・して、通販サイトの密林には通報したんですか?」
「しましたよぉ! そうしたら、わたしのアカウントにきっちりと購入履歴が残っていたんですぅ! なんだかわたし怖くって・・・・・・」
「ふぅむ、サイバー犯罪ですかねぇ。不思議ですねぇ。アカウントに不正アクセスされたとしても、届け先の住所は保存されていますがクレジットカード情報は毎回入力されるはず。だからクレジットカード情報が抜かれる事は考えにくいのですが」
朧木は考え込んだ。彼も通販大手サイトの密林を使うことはある。
「なんだか怖いじゃないですか! そのおかしな購入内容以外は特に変わったことはないんですがぁ、なんだか薄気味悪くって・・・・・・それでポスターを見て探偵さんなら何かわかるかなぁって思って来ました」
「ははぁ、なるほど。確かに僕は正統な探偵の事業届出をしていますので、場合によっては警察とほぼ同等の捜査権を持っています。ですから、通販大手サイトに捜査権による情報開示請求をする事は可能です。さて、幾つかこちらから質問させていただいてもよろしいですかな?」
朧木は女性が落ち着くのを見計らって切り出した。
「どうそぉ」
「クレジットカードは他に不正利用された形跡はないですか? 悪用されてないと断言できますか?」
「はい、あれから変わったことは起きてません」
女性の返答に朧木は頷いた。
「そうですねぇ。サイトを利用してからメールアドレスを変更などしたことはございませんか?」
「あっ、最近しましたぁ」
女性の緊張感のない声を聞いて、朧木はふむふむと頷いた。
「クレジットカードが入った鞄や財布などは、普段から離さず持ち歩いていますか?」
「えーっとぉ、お仕事場ではクレジットカードの入った財布は鞄に入れたまま席を離れることも在りますぅ」
「そこ以外では?」
「うーん。ないですねぇ。おうちで財布をテーブルの上に置いたままにはしていますが、特に誰かが部屋に入るわけではないですし」
「なるほど、わかりました。今はまだ可能性ですが、調査次第追って連絡いたします。あぁ、お使いのスマホのキャリアを教えていただけますか?」
「はい、e-フォンです」
「なるほど、機種はっと、はいはい、メモを取らせてくださいね」
朧木はさらさらとメモに色々と情報を記述していった。
「これでよろしいですかぁ?」
「はいはい、ありがとうございます。通販サイトにはスマホから以外アクセスする事はありますか?」
「ないですぅ。それが何か関係ありますか?」
「一応参考までに。まぁ、捜査次第では重要な情報となりますね。大体は予想ですが絞り込めて来ました」
朧木の言葉を聞いて、女性の表情が軽くなった。どこか思いつめていた表情だったが、いくばくか明るい表情となったのだ。
「ほんとですかぁ! 一体どんな相手なのですぅ?」
「その前に、最も重要な質問を。通販サイトの登録メルアドは、変更後の内容ですか? おそらく違いますよね?」
「あっ、そうです。変えるのを忘れてましたぁ。でも、メルアドを変えたのはつい最近なんですよぉ」
「なるほど。やはり僕の想定どおりな可能性が高いですね。いつみさん。職場で誰かから恨みを買ったような覚えはないですか?」
「えっ、そんな事言われてもわかんないですぅ・・・・・・」
瀬良いつもは困り顔をした。いきなり言われても心当たりはないようだ。
「職場での行動には気をつけてください。どうもそこが一番怪しいです。それから密林のサイトの登録メルアドは最新に変更し、クレジットカードも停止するように掛け合ってください。念の為です」
「わかりましたぁ」
「では、こちらの用紙にサインをお願い致します。情報開示請求をする際は、瀬良さんの同意書が必要になりますので、こちらに直筆のサインとはんこをお願い致します」
朧木が幾つかの用紙を差し出す。いつみはさらさらとサインを済ませた。これで正式に契約が成されたのだ。
「ありがとうございますぅ・・・・・・後他に何か必要な事はありますかぁ?」
いつみが深々と頭を下げた。
「今日のところは大丈夫です。なにかわかり次第、追ってご連絡差し上げます」
「そうですか、ではお願い致します。今日のところは失礼しますね」
いつみは頭を下げて探偵事務所を出て行った。後に残された朧木の元にさくらがやってくる。
「所長、サイバー犯罪もいけるんですか?」
「なんだ、意外そうだね。現代ではたまにある話さ。もっとも、今回の件は不特定多数の犯人を捜すんじゃなくて、彼女の身の回りの誰かを特定するだけの話さ」
「所長はもう何かわかったんですか?」
「今のところは推定だがね。メルアドを変えたって言っていただろう。という事は、そのメルアドは他の誰かが使えるようになったという事さ。そのアドレスに変えて、通販サイトでパスワードを忘れた場合の選択をしたらどうなると思う?」
朧木がさくらに問いかけ、さくらはあっと言った。
「前のアドレスのところにパスワード変更のメールが来ちゃいますね! でも、その前に何か質問とかされたような・・・・・・」
「そういう時の質問内容は、ユーザーの事をよく知る人ならわかる内容である場合もあるんだ」
「じゃあ、瀬良さんに悪意を持つ誰かがログイン情報を変更しちゃう事もあるんですね」
「そういうこと。そしてクレジットカード情報は、クレジットカードそのものを盗み見るだけで十分さ。クレジットの番号、利用可能年月。セキュリティコード。全部書いてある」
さくらがあっと驚いた。
「そっか! 知り合いの犯行なら今回の件も可能なんですね!」
「そういうことさ。だから大手通販サイトの密林に、アクセスした時の情報を尋ねるのさ。ユーザーエージェント、つまりは普段瀬良さんが利用している端末情報以外の端末情報からアクセスしている記録が残っているはずなんだ。後はその端末情報をキャリア会社に情報開示請求を行えば犯人が突き止められる」
「所長は探偵の捜査権を使って、情報開示請求が行えるんですよね! なら、もう犯人もわかったようなものじゃないですか!」
さくらが深く感心している。
「ま、特定可能な見積もりだよ。問題はそれがわかるまでは瀬良さんが特定の誰かの悪意に晒され続けているってことだけれどね。こんな真似をするくらいだから相当うらまれているよ」
「酷い嫌がらせですよね、仏像を買わせるって・・・・・・」
「そこのセレクションのセンスは不思議なものだが、とにかく陰湿な嫌がらせだよ、これは。しかし立派な犯罪だ。見過ごすわけには行かない。丼副君。御手柄だよ。君のポスターのおかげで彼女がやってきた。後は僕が事件を解決するだけだ!」
朧木がきりっとした表情できめた。
「お役に立てて何よりですよ!」
さくらもどこかしら自慢げだ。
「この調子で昏睡事件のほうもスパッと解決できたらいいのになぁ」
「桃源郷とやらにでも行ってみたらどうなんですか?」
「では案内を頼むよ」
朧木が現実のさくらに頼み込んだ。
「あっちの私に言ってください!」
そういうとさくらは来客へ出したお茶を片付けて去っていくのであった。
そうしているうちに一日が終わる。何事もない一日であるが、小さな仕事の依頼も会った為、朧木にとっては充実した一日となった。
そしてその日もいつものごとく、女狐Clubに立ち寄る。
「あら、良介ちゃん。今日は随分とご機嫌ね」
ジュリアはグラスをきゅっきゅと磨きながらそう切り出した。
「わかるかい? 今日もちょっとした依頼があってね。この分なら他にも依頼が来るかもって思ってね。それもこれも丼副君のおかげなんだがね」
「あぁ、あの子ね。そんなに優秀なの?」
「実に働き者さ。丼副君は考えて動けるから強い。こうした方が良いという事を明確に理由を提示して行動に移せる。とても高校生とは思えないよ。それとも昨今の高校生はみんな優秀なのかね?」
「世代は若い人間の方が優秀だと言われているからねぇ。そうじゃないかしら」
「未来の人間ほど基礎教養、基礎学力を求められるからねぇ。ともかく、丼副君の起こしたアクションが今日の成果に繋がったよ。後は僕の仕事ぶりに掛かっているね。だからきっちりとやりきらなきゃ」
朧木はウィスキーの入ったグラスを傾ける。コロリンとロックアイスがグラス内で揺れる。
「良介ちゃんがそういうって珍しいわね。いつもはさも当然のように仕事をこなしているから」
「誰かの頑張りで得られた成果なんだ。それを重宝せずになんとしようかって奴さ! 夢の中では商売繁盛していたが、もしかして正夢になるのかなぁ」
「夢っていいわね。夢の中なら何でもできるものね」
ジュリアがもう一杯ロックでグラスを差し出した。
「夢は何でもできると思われがちだが、意外といろんな縛りに縛られていると思わないかな? あまり夢の中で自由に振舞った記憶がないんだよ」
朧木はジュリアからグラスを受け取った。
「それって、大人になると現実を知るからじゃないかしら? 案外そういうものなのよね」
一日の終わりを酒で潤して、そうしてまた明日頑張ろうという気持ちになる。
朧木はカウンターでゆっくりと酒を愉しんだ。そして夜も静かに更けていく。
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