第142話 夜明けの秘密結社

 今日は早くに家を出た。

 とはいえ、すでに太陽は出ている。

 少し早いだけだ。


 いつもの道。

 いつもの風景。


 その中を歩いていく。

 普段と違うところはない。

 せいぜい、転移ポータル(電車)に乗り込む顔ぶれが違う程度だ。


「コーヒーでも買っていくかな」


 足を向ける先は、秘密結社(コンビニ)だ。

 知らないうちに増殖し、いつの間にか全国に広がったそれは、恐怖を感じつつも依存してしまう。

 なにせ、5分も歩かないうちに、1軒は存在する。

 あらゆるものが手に入る。

 そして、学生などは、そこで働くことにより、金銭を得ることも可能だ。

 あまりにも便利すぎる。

 もはや社会と切り離すことができない存在になってしまった。


 やつらが、こちらを監視しているのは知っている。

 虎視眈々と世界征服を狙っているのも知っている。


 それでも、依存してしまう。

 こうなってしまっては、もはや手遅れだ。

 共存の道を探すしかない。

 ある意味で負けたということは知りつつも、それを受け入れるしかない。

 試合に負けて勝負に勝つ。

 それを目指すのだ。


 扉の前に立つ。

 扉が自動的に開く。


「イラシャイマセー!」


 普段とは違うイントネーション。

 いつもとは違う店員がいた。


☆★☆★☆★☆★☆★


 店員は外国人だった。

 それは問題ではない。

 ギルド(会社)にも外国から来ている人間はいる。


 恐るべきは秘密結社だ。

 ついに外国の人間も取り込み始めたらしい。

 それが何を意味するのか。

 つまりは彼らが全世界を監視下に置いたということだ。


 ちらっ。


 さりげなく、店内にある監視カメラに目を向ける。

 レンズの向こうで、なにを監視されているのだろう。

 単に万引きを見張っているだけではあるまい。


 ガチャ・・・


 棚から1本の缶コーヒーを手に取る。

 いつも朝はブラックを飲むのだが、今日は妙に甘いものが欲しくなった。

 すでに目は覚めている。

 今欲しいのは思考力だ。

 脳に糖分を送り込みたい。


「ドーゾー!」


 レジの前まで行くと、先ほどの店員が誘導してくる。

 素直にそれに従う。

 あえて逆らうつもりはない。

 ここはアウェイだ。


 ぴっ・・・ぴっ・・・


 手元を観察する。

 いつもはそんなことに興味は持たないのだが、なぜか今日は興味を持った。

 そして気づいた。


「(なんだ?)」


 POSシステムのボタンをいくつか押している。

 なぜ、そんなことをする必要がある?

 バーコードから値段を読み取るだけではないのか。


 ちらっとこちらに視線を向けて、また何かを打ち込む。


 背筋が冷たくなる。

 なんだ?

 どんな情報を抜き取られているというのだ。


「アリガトゴザイマシター!」


 にやり。


 店員がそんな笑みを浮かべた気がした。

 情報はいただいた。

 おまえは用済みだ。

 そんな風に言われた気がした。


「(くっ!)」


 やはり、浅はかだったろうか。

 いつも訪れる秘密結社(コンビニ)だから油断した。

 時間帯が違うだけで、これほど雰囲気が変わるとは。

 だが、時すでに遅し。

 情報は抜き取られた後だ。

 こうなっては、もはや一刻も早く戦線を離脱するしかない。

 振り返ることなく扉から出て、外の世界に戻る。


 ・・・・・


 カシュッ!


 ギルド(会社)へ着いてから飲むつもりだったが、緊張感が解けて気が緩んだのか、ついつい開けてしまう。


 ゴクゴクゴク・・・


 一息に飲み干す。

 ちらっと秘密結社(コンビニ)の中を見ると、先ほどの店員が、自分のときと同じように、客から品物を受け取るたびに、客を見て何かを打ち込んでいる。

 どんな情報を収集しているというのだ。

 気にはなるが、口に出して聞くことはできない。

 どこに構成員がいるか分からないのだ。


 ガコンッ!


 空になった缶を捨てて、ギルド(会社)への道に戻る。

 そして道すがら考えれる。

 そもそも、秘密結社(コンビニ)は、あの行動を知っているのだろうか。

 あるいは、外国からきたスパイではないのか。


 最後に見せた、あの笑顔が忘れられない。


 ここ最近、この近辺でも外国の人間が増えた。

 旅行者を装っている人間もいるが、全員が装いの通りかは、あやしいところだろう。

 この周辺はオフィス街ではあるが、観光地ではない。

 どこを旅行するというのだ。

 それにもかかわらず、予約が取れないほど、ホテルが埋まっているらしい。

 明らかに何かが起こっている。


 今、時代は転換期に来ているのかも知れない。

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