第81話 獣人

 世界で最も繁栄しているのは人類だろう。

 しかし、世界に存在する知的生命体は人類だけではない。

 それは、神や悪魔、宇宙人といった実在が証明されていない存在のことではない。


「おはようございます~」

「おはよう」


 後輩がギルド(会社)に出勤してきた。

 挨拶を交わす。


「今日は朝からネコミミとウサミミを見かけました~」


 人類以外の知的生命体。

 そう。

 例えば、獣人たちのことだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


「えーっと・・・コスプレ?」

「違いますよ~」


 違うらしい。

 本物がいたようだ。

 まあ、ありえない話ではない。

 この日本においても、東の方にはネズミ型の獣人が支配する魔法王国があるくらいだ。

 そこは、日本国内にありながら、数多くの信者を集めることにより、独立した国家として成り立っている。

 数多くの獣人が闊歩し、そこに足を踏み入れた人間は、夢に入り込んだかのような印象を受けるらしい。

 かなり高度な魔法技術が発展しているのだろう。


 そこで、ふと、思いついた。

 彼女は耳を見たとしか言っていない。


「ペットを連れた人が散歩していたってことじゃないよね?」

「違いますよ~。もこもこして可愛かったです~」


 やはり、獣人のようだ。

 それはそうか。

 こんな寒い中を、ネコやウサギを連れて外を歩き回らせていたら、虐待に近い。

 ネコはコタツで丸くなる季節だ。


 もこもこ。

 体毛が多いタイプの獣人ということだろうか。


「まだ、寒いですからね~」


 動物は冬になると体温を保つために冬用の毛に生え変わることがある。

 獣人も同じ生態なのだろう。


「ああいう耳って、どこで売っているんでしょうね~。温かそうで、わたしも欲しくなりました~」


 獣人または動物の耳だけ欲しいということだろうか。

 密猟でもしないと手に入らないのではないだろうか。

 ペットショップで本体ごと手に入れることはできるだろうが、そこから耳を引き抜くのは倫理的に許されないだろう。


「手に入りづらいと思うし、やめておいた方がいいんじゃないかな?」


 そう言っておく。

 知り合いから密猟者を出したくはない。


「やっぱりそうでしょうか~」


 少し残念そうだが、それほど執着はないようだ。


「まあ、会社にしてくるには、デザイン的に向かないですしね~。ああいうイヤーマフラーって~」


 ・・・・・


 なるほど。


☆★☆★☆★☆★☆★


「でも、確かに寒いと耳が痛くなるな」

「女性はイヤーマフラーとかしますけど、男性はあまりしないですよね~。どうしているんですか~?」

「コートの襟を立てたりするかなぁ」

「なるほど~」


 逆に男から見ると、冬にスカートを穿いている女性を寒そうだと思う。

 そういえば、小学校から高校の制服は、女子はスカートだった。

 夏服、冬服の違いはあるが、スカートなのは同じだ。

 あれはなんだろう。

 拷問かなにかとしか思えない。

 男尊女卑の名残だろうか。

 男女平等の現代社会でも、その慣習は残っている。

 その辺りを後輩に聞いてみると、


「女の子は好きでスカートを穿いてるんですよ~」


 とのことだった。

 理由を聞いてみると、


「可愛さは全てに優先されます~」


 だそうだ。


「可愛さのためなら、冬にスカートを穿きますし、夏にネコミミもつけます~」


 奥が深い。


「女の子にとって、志望する学校を選ぶ基準は、制服の可愛さです~。そのためなら、偏差値の10や20は上がります~」


 世界の真理を垣間見た気がした。

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