第65話 ウイルス

 冒険者(サラリーマン)にとって最も怖ろしい敵とは?


 ある冒険者はモンスター(お客様)だという。

 ある冒険者は蟲(プログラムバグ)だという。


 怖ろしいと思う対象は、冒険者によって様々だ。

 だが、これらは予防の対策をすることができる。

 また、万が一、遭遇したとしても、事前の準備より、被害を最小限にすることができる。


 真に怖ろしいのは目に見えない敵だ。

 そう例えば、


 プルルルル・・・がちゃ。


「第一事業部です。・・・・・え?ウイルス感染?」


 非常事態だ。


☆★☆★☆★☆★☆★


 それは見習い魔法使い(プログラマー:女性)からの連絡だった。

 しかし、こちらの部署では、そんな事態が起きている様子はない。

 向こうの部署で封鎖に成功したのだろうか。


「すぐに、そちらに行きます」

「いえ、対策方針が決まるまで来ない方がいいと思います」


 電話を切って、様子に見に行こうとしたのだが、止められた。

 まだ、騒ぎが沈静化していないので、邪魔になるということだろうか。

 仕方がないので、電話で様子を聞くに留める。


「そちらの部署は以前もウイルス騒ぎがありましたよね。対策マニュアルなどは無いのですか?」

「そうじゃないんです」


 どういうことだろう。

 確かにウイルスには色々な種類があるが、対策方法は大きく変わらないはずだ。


 まずは、外部に広がらないように、通り道を遮断する。

 そして、既に外部に広がっていた場合に備え、周りに周知する。


 細かい点は違うだろうが、初期対策で重要なのは、そんなところだろう。

 そのケースに当てはまらない、特殊な状況ということだろうか。


「新型のウイルスということですか?」

「新型かも知れませんが、おそらく想像と違うと思います」


 想像できないほど特殊ということだろうか。

 ウイルスによって被害の内容や感染の方法などは違うだろうが、従来の対策手段が通用しないというのは、思い付かない。

 予想以上に深刻な事態だという予感に、背筋が凍える。


「インフルエンザウイルスに感染したんです」

「・・・・・はあ」


 なるほど、そっちか。


☆★☆★☆★☆★☆★


 詳しく話を聞いたところ、電子の話ではなく物理の話だったようだ。

 思わず気が抜けた。

 だが、話が進むにつれ、そんな気軽な状況ではないことが分かってきた。


「わたしたちも感染している可能性があるので、マスクが配られています」


 どうも、魔法使い(プログラマー:男性)が感染したらしい。

 それで、見習い魔法使いの二人も、感染した可能性があるらしい。

 一応、マスクを装備して、手をアルコール消毒した、完全防御形態であれば接触することはできるらしいが、推奨はされていないようだ。


「お二人の体調は、どうなのですか?」

「わたしたちは何ともありません。ただ、進捗に影響が出る可能性があります」


 問題はそれだ。

 感染した本人は、治ったことが判明するまで、2週間程度は戦力外と考えた方がいいだろう。

 その間、単純に人数だけで考えても戦力は三分の二だ。

 それに、もし残りの二人が感染していたとしたら、さらに戦力ダウンだ。


 くっ。


 こんな事態だというのに、接触が制限されている状況では、作戦会議すらままならない。

 ウイルスに感染したときの被害は甚大だ。


 電子的なウイルスの場合は、武器(パソコン)を使用することができないので、クエスト(お仕事)が止まる。

 物理的なウイルスの場合は、武器を扱う冒険者(サラリーマン)自体が動けなくなるので、クエスト(お仕事)が止まる。


 どちらであったとしても、怖ろしい。

 しかも、事前の予想も困難だ。

 前日にピンピンしていた冒険者が、翌日に戦力外になる。

 そして、潜伏期間を経て、被害が拡大する。

 気づいたときには、全てが手遅れになっていることもある。


☆★☆★☆★☆★☆★


「リリースまでは日数があるので、復帰してからリカバリしてもらうしかないな」

「でも、向こうのグループのリーダーがいないんですよね~。進捗管理とか大丈夫でしょうか~」

「それは、こっちでやるよ。あと、テストとか手伝えそうなところは、手伝おうと思う」

「外に応援を頼む必要があるなら、調整するから言ってくれ」


 課長、後輩と作戦会議中だ。

 自分たちが悪いわけではないのに、誰かに責任転嫁することもできない。

 まさに、神の試練だ。


「みんなも体調には気をつけて。健康第一で頼む」


 どんなに強力な武器(ハイスペックパソコン)を持ち、戦闘能力(ITスキル)を有していたとしても、ウイルスには敵わない。

 まさに、最恐の敵だ。

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