第63話 カグヤ
今日はクエスト(プロジェクト)の仲間内で新年会だ。
課長
自分
後輩
魔法使い(プログラマー:男性)
見習い魔法使い(プログラマー:男性)
見習い魔法使い(プログラマー:女性)
参加メンバーは以上だ。
『かんぱい』
宴が始まった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「そういえば、今年の干支はなんでしたっけ~」
がぶり。
鳥の骨付きモモ肉にかぶりつきながら、後輩がそんなことを言う。
「酉ね」
ぷはっ。
見習い魔法使い(プログラマー:女性)がジョッキを一息に飲み干して、それに答える。
子供の頃は年賀状を書くときにイラストで見るので、干支を知らないということはなかった。
しかし、会社では個人情報保護のためなのか、社員の住所を公開しないので、年賀状を書くことも少なくなった。
最近は、メールで新年の挨拶を済ますことも多い。
うっかりしていると、干支を知らないこともあるかも知れないな。
「最近の若者は干支も知らないのか?勉強不足だぞ」
魔法使い(プログラマー:男性)が、そんなことを言う。
それは、自分が若者ではないと認めているようなものなのだが、いいのだろうか。
自分よりは上で課長よりは下の、微妙なお年頃だと思うが、何歳なのだろう。
「それじゃあ、勉強のために、これを頼みましょうか~」
後輩がなにやらメニューを見ながら、店員に注文している。
隣からメニューを覗き見ている。
・・・・・
また、豪快なものを。
値段もそれなりだ。
ふと、視線を感じてそちらを向くと、課長と魔法使い(プログラマー:男性)がこちらを見ていた。
ふいっ。
ジョッキを傾ける振りをして、視線を逸らす。
奢る二人には気の毒だが、巻き込まれるのは御免だ。
ちらり。
見習い魔法使い(プログラマー:男性)の方を見る。
ちまちま。
器用に箸を使って、手羽先の肉を骨から剥がしながら食べている。
付き合っている彼女と泊りがけで旅行に行くくらいなのに、ずいぶんと可愛い食べ方だ。
小食な肉食系。
なんとなく、そんな言葉が頭に浮かんだ。
「お待たせしました」
ドンッ!
店員が持ってきた品をテーブルに置く。
『・・・・・』
「わ~!おいしそうですね~!」
「あ、この銘柄の日本酒お願いします」
こんがりと焼けた肉。
香ばしい香り。
確かに旨そうだ。
問題はボリュームだ。
鳥の丸焼きが鎮座していた。
「干支にちなんだサービスメニューみたいですね」
ゴキュゴキュ・・・ぷはっ。
驚いた様子もなく、のんきにそんなことを言う見習い魔法使い(プログラマー:女性)。
しかし、知っている。
注文と同時に空のジョッキや徳利を渡すから気づきにくいが、もうかなりの本数を呑んでいる。
確実に酔っているだろう。
「みんなで、いただきましょう~」
鳥の色んな部位を楽しめる丸焼きは、想像通り旨かった。
値段に見合った価値はあるだろう。
☆★☆★☆★☆★☆★
『ご馳走様でした』
課長と魔法使い(プログラマー:男性)に、四人で礼を言う。
今日は月が綺麗だ。
財布を見ながらしょんぼりしている二人を視界に入れないようにしながら空を見る。
「鳥の丸焼きなんて初めて食べた~」
「店の日本酒を全種類飲んだのは初めてです」
そんな声が聞こえてくる。
月に照らされているせいだろうか。
貢物をもらう、かぐや姫の姿が頭に浮かぶ。
もっとも二人は、おとぎ話とは違って満足そうだが。
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