第22話 バク

 悪夢(ナイトメア)には天敵がいる。


 体長は2m程度。

 ブタのような体つき。

 脚の指の数は、前脚が4本、後脚が3本。

 ゾウの鼻のような口吻。

 鼻先だけ水中から出すことで数時間水中にいることができる。

 食べ物は葉や果実など。


 獏(バク)である。


 人の夢を喰って生きる聖獣で、見た悪夢を喰わせると、その悪夢を二度と見ずにすむという。


☆★☆★☆★☆★☆★


 魔法使い(プログラマー)たちのもとを訪れた。

 先日のパンデミックの被害状況を確認するためだ。


「こちらでも大変でした」


 やはり、被害が広がっていたらしい。

 苦労話を共有したいが、まずは、クエスト(お仕事)への影響を確認しよう。


「開発中のシステムは大丈夫でしたか?」

「はい、ネットワークに繋げる前だったので、開発マシンは大丈夫でした」


 一安心だ。

 ほっと息を吐く。

 悪夢が深まることはなさそうだ。


「それでは、明日以降はスケジュール通りに作業が進められそうですか」

「はい、大丈夫です」


 問題なさそうだ。

 これで後は、自分が武器(次回の会議資料)を準備しなおせばよい。


「そちらは、どうでしたか?」

「いやぁ、それが・・・」


 事情を話す。


「それは、すみませんでした」

「いえ、そちらが悪いわけではないですし、謝っていただくことではないですが

「実は・・・」


 通達では発生原因となった人間の名前は公開されていなかった。

 だが、人の口にとは立てられない。

 実は見習い魔法使い(プログラマー:男性)が原因らしい。


 もともと気が弱そうな人物だが、どうりで今日はいつもより顔色が悪いと思った。

 周りの人間から、散々色々言われただろうし、追い打ちをかけることもないだろう。


「それは災難でしたね」


 過失はあっても故意はないだろうし、事実、彼の被害者だろう。


「すみませんでした!」

「なんとかなりますし、気にしないで下さい」


 発生当日と後戻りの分も含めると、合計2日の遅れだが、最悪でも休出すれば挽回可能だ。

 モンスター(お客様)に弱点を晒す(謝罪に行く)ことを考えれば、被害は小さいと言える。

 懸念が払拭できたところで、早くクエスト(お仕事)に戻ろう。


「あの・・・」


 戻ろうとしたところで、見習い魔法使い(プログラマー:女性)から声をかけられた。


「前に打ち合わせしたときの資料でよかったら、わたしのPCにコピーが残っていますけど必要ですか」


 なにっ!


 それがあれば、かなり助かる。

 魔法使い(プログラマー)たちには、置き場所(サーバのフォルダ名)しか連絡していなかった。

 直接、モンスター(お客様)と戦闘(会議)しないから、ろくに目を通していないだろうと思っていたのだが。


「非常に助かります。よく持っていましたね」

「プログラムを作る作業が多いので、お客様向けの資料の作り方も勉強しようと思って」


 向上心があるのは、いいことだ。

 今回は、それに助けられた。


 情けは人のためならず。

 読まないだろうと思いつつも、置き場所を連絡していたことが、ぐるっと回って自分の助けになった。


 見習い魔法使い(プログラマー:男性)の顔色も少しはよくなったようだ。


「それでは、わたしのメールに送ってください。本当にありがとうございます」

「わかりました」


 最後に改めて例を伝えて、戻った。


☆★☆★☆★☆★☆★


 悪夢を見たが、獏に喰ってもらえたようだ。


 ・・・・・


 女性を獏に例えるのは失礼かな。


 捨てる神あれば拾う神あり。


 こんなところで、どうだろう。

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