8月26日-13-
「いや、まぁ、全然普通に食べ・・れるよ?」
もぐもぐと口を動かしながら僕は答えた。
「嘘ですね。悠里さんの手料理ではなくてすみませんね?」
そして、冗談めかして微笑む芹香。
別に不味いって訳では無い。
かと言って、旨い訳でも無いがな。
お皿にあるおにぎりを僕は口に頬張った。
全部食べ終わると、ひょいと端にある沢庵を手に取り口に入れた。
「ご馳走さまでした」
これで満足だろうと言わんばかりに僕は手を合わせた。
不器用なりにも作ってくれた物をないがしろにするのは少々気が引ける。
だからと言って、もしも真壁が作った物だったら、ないがしろにする気満々だがな。
いや、それ以前に絶対に食べないだろうな。
「無理して食べなくても良かったのですよ?」
「別に無理してないしな」
答えると芹香は、食べ終えたお皿を持って部屋を出ようとしたので慌てて引き止めた。
「あ、あの、ちょっといいか?」
少しの間を置き芹香はその場に正座をした。
「なんですか?」
「もし今日・・その・・・体調が戻らんくて参加出来そうに無いって言ったら・・どうする?」
芹香は、困り半分呆れ半分といった表情で口を開いた。
「悠里さんをあまり困らせないで頂けませんか?」
予想外の返しに僕は首を傾げた。
今、悠里は関係ないだろう。
「なんでそこで悠里が出てくる?」
「悠里さんを困らせているからですわ!」
「いや、だから・・悠里は今、関係ないだろ?」
「そう・・ですね」
「何だそりゃ?答えになってないぞ?」
鼻で笑って僕は言った。
それを不満に思ったのか、芹香は目を細めて睨んできた。
屈しないように僕はまた尋ねる。
「自分ら二人の関係って何なの?」
「・・・私が勝手に悠里さんを慕っているだけの間柄です」
「ふ~ん・・・この短期間でねぇ・・」
「そう・・・です」
いつもは余裕をもってつらつらと喋るのに、釈然としない違和感を感じてしまう。
ばつが悪そうに言葉を詰まらせる芹香を見たのは初めてだ。
「そこまで悠里を気にするのが不自然に思うんだけど?」
「はぁ、そうですか」
ため息混じりに答える芹香。
「いや・・答えてよ?」
芹香はちらっと僕を見る。
「悠里さんには感謝しているからです」
「何に?」
芹香は何も言ってこない。
ただ無表情に目を細めていた。
そこに僕は畳み掛けるように言った。
「悠里と会ったのって無名島の初日か二日目だろ?」
似たような質問を以前、芹香にした事はあったが今一度確かめたい。
僕が黒田に勧誘されたのは無名島に来て二日目の出来事だ。
その日に僕は初めて芹香に会ったが、その時には悠里と一緒にいた。
昨日の夜に芹香が言っていた事を思い返すと不自然な点があった。
悠里に助けられた?
悠里に感謝している?
出会って二日かそこらかでそんな心境になるのだろうか?
聞いても答えてくれないのならば余計に怪しさが膨れ上がる。
僕は不自然に感じていた事を聞いてみた。
「自分ら・・・無名島に来る前から知った仲なんじゃないのか?」
「違います」
即答で答えた芹香に不信感は増す。
「本当か?」
「本当です。また・・来ます」
言って、芹香は立ち上がった。
その行動がこの場から逃げようとしている風に見受けられた。
「待って!まだ話しは終わってない」
僕は咄嗟に芹香の腕を掴んだ。
「止めてくれませんか?」
射るような視線を僕に向ける芹香。
手を離し、若干の気まずさを振り払う為に、一度咳払いをして今度は明確に声に出して問うた。
「君ら二人は・・何で僕にそこまで固執するんだ?」
僕は前から、もしかしたらと考えていた。
「・・はぁ?」
真顔で首を傾げる芹香だが、その見慣れた表情に、ぞくっとするものを感じた。
「聞き方が悪かったな。僕に・・何を求めているんだ?」
「何を言ってるのですか?」
しれっと返す芹香に、僕は視線を外さずに言い放った。
「ふ、二人とも・・・あっち側の奴だろ?」
「あっち側とは?」
ここまで疑った口調で言って分からない奴ではないだろう。
決めつけで語るのは良くないが、かまかけでもある。
平静を保てている自覚もある。
「しゅ、主催者側の人間・・だろ?」
そう言うと、芹香は表情を崩さずにこちらを凝視していた。
睨んでいる訳ではない。
呆れたり怒ったりしている様子でもない。
表情が読めない。
悠里と違って分かりにくいってのもあるが、底が見えない感じに反射的にうつ向いてしまった。
だけど・・この感じは前にもあった。
僕は最初から、多少は疑っていたからだ。
僕が一人で住んでいた時に二人が来て、芹香と二人で話す機会があった時に同じような質問を僕は確かにした。
その時は・・はぐらかされたような記憶がある。
別に言いくるめられた訳じゃないが、その時は今よりも疑いを持っていなかったからだ。
「どうしてそう思われたのですか?」
普段通りの口調で聞いてくる芹香。
息苦しくなってきた。
「ま、前から・・・もしかしてって思ってたから」
強気に前へ出ていたつもりだったが、臆病な僕の性格がじわじわと露になっていく。
「前からとは、いつ頃からですか?」
何でそんな事を聞いてくる?
僕の問いに否定も肯定もしないのは主催者側だからなのか?
「結構・・最初から?かな・・」
曖昧に返す僕だが、いつからとかそんな事は思い出せないし、そこはどうでも良いだろうと思う。
「では、どのような場面で私達があちら側だと感じたのでしょうか?」
「な、なんとなく・・不自然だし」
「それは答えになっていませんわ?」
いつの間にか立場は変わって、芹香が僕に質問責めをしている。
「つまり・・・直感的にそう感じただけだよ」
答えると、口に手を置き芹香はくすくすと笑い出した。
「同じ事ですわ。質問の答えになっていません!」
笑って場が和む訳ではない。
小馬鹿にして笑った芹香に訝しむ視線を向けていると、芹香は小さくため息を吐いて言った。
「主催者側じゃないですわ」
そうなんだって納得出来る理由が欲しい。
「しょ、証拠は?」
「有る訳ないじゃないですか?」
そう言われると確かにとしか出てこない。
「逆に正護さんが主催者側の可能性も有るのではないですか?」
聞かれて即座に否定をする。
「ち、違うわ!仕事終わりにアパートの前で拉致られたんだよ!」
「では証拠は?」
それを言われると返答に困る。
暫くの沈黙の後、
「そういう事です」
と告げる芹香に、僕は何も反論出来なかった。
釈然としないけど論破出来る決定的な証拠も無い。
かといって、疑ってしまって申し訳ないと謝りたくもない。
不出来な夕食を持ってきただけの芹香に、そんな風に疑ってしまった訳だけど、払拭出来ないものがある。
停滞した現状で沈黙が続くのがどうも耐えられそうにない。
思い出したかのように僕は呟いた。
「おにぎり・・・」
「はい?」
「しよっぱかった」
言うと、芹香はきょとんとして首を傾げた。
「また作って欲しいですか?」
少しだけ穏やかな声音で芹香は言った。
僕は困ったように微苦笑を浮かべた。
「怒らないのか?」
「何故怒るのですか?」
本当に分からん奴だ。
喜怒哀楽が読めない・・・・・・。
感受性が欠落しているのではと疑ってしまう。
表情は真顔で真っ直ぐな視線をこちらに向けてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます