8月25日-9-
扉を開け悠里はこちらを見ている。
なんとなくだが嵐の前の静けさを感じた。
布団の上で二人仲良く座っている僕達。
間一髪といえるのか分からないが、芹香はシャツを着ていたのは助かった。
「もう遅いし寝ようよ芹香ちゃん?」
にこりと微笑み悠里は言った。
入って来てからの第一声がそれか・・・。
なんか違和感というか釈然としない感じ。
芹香は「はい」と言って素直に立ち上がった。
それからすたすたと扉の前に立ち「おやすみなさい」と言ってぺこりと頭を下げた。
思わず、目をぱちくりとしてしまった。
つい先ほどまでは、やる気満々だったよね?と聞きたくなる程の変わり身。
芹香はそのまま、僕の返事を待たずに寝室の方へ向かっていった。
なし崩しに悠里と二人の空間となる。
居心地は良くない。
僕から何かを言った方が良いのだろうかと思ったが何も浮かばない。
だけど芹香とは違い、悠里から話し掛けてきた。
「二人で何を喋っていたのさ?」
喋ってか・・・そう言われたら答えるのも難しいが正直どうとでもなる。
「あいつだけが警官の顔知ってる訳だから特徴とか聞いていたんだ」
言うと「ふ~ん」と露骨に疑った返事をする悠里。
「そ、それと・・・警官以外にも助けてくれそうな人とかいたら良いなぁとか話してた!まぁ、僕から島の人に話しかける勇気なんて無いんだけどな・・・ははっ」
やや緊張気味の笑顔で答えた。
「いたらいいね!」
短く返す悠里に何を言っても無駄に感じる。
信じないなら信じないで別に構わないが、やり取りが面倒だしそろそろ風呂に入って眠りにつきたい。
「だな!まぁ、そうゆう訳でまた明日な!」
切り上げようとして言った矢先、
「正護君ってさぁ~私と芹香ちゃんだったらどっちがタイプ?」
不意に脈絡も無い質問が飛んできた。
「はぁ?何いきなり?」
乾いた声で僕は聞いた。
突然そんな事を聞かれても返答に困る。
「性格とか関係無く、顔だけだったらどっちがタイプかな?」
そんな事を聞いてくる悠里。
本音で言えば・・・
性格はまぁ・・どっちもどっちな気がする。
悠里は明るくて馬鹿っぽいところが長所であり短所にも感じる。
芹香の方は礼儀正しくてさっぱりした性格に思うが、どうも無表情で事務的な事しか喋らない印象が強い。
容姿は正直に言えば僕は芹香がタイプだ。
悠里が駄目とかでは決して無い。二人の内、どちらかと言われたら芹香の方がタイプなだけだ。
悠里は黙ってさえいたら優れた容姿で美しい女性だとは思う。
端正な顔立ちで綺麗なストレートの黒髪が良く似合っている。
だからというか残念美人って言葉がしっくりくる。
言ってしまえばどっちも可愛いが正解な訳だが、どちらか一人と言われたら僕は芹香と答えるだけだ。
まぁ単純に・・・彼女である夏海も美人か可愛いかで聞かれたら可愛いのカテゴリーに入る訳で、付き合っている内にそっち寄りになっただけだ。
結論から言うと、悠里と芹香の中に夏海が加われば夏海が一番だ。
「答えて?」
声をなくした僕の目の前で、じっと見てくる悠里。
とりあえず僕はこう答えた、
「夏海だな!」
僕の返答に悠里は何も言って来ない。
・・・なんだろう、このスベった感じ。
居た堪れない空間に逃げ出したくなる。
我ながら上手くかわしたつもりだったんだけどな。
しかしながら、そんな質問をしてくる悠里の自信家ぶりには呆れそうになる。
単純に僕が自分の容姿も性格も自信が無いからってのも有るが、おめでたい思考ですね!どうしたらそんな脳みそお花畑になれるんですか~?って嫌味ったらしく言いたくなる。
とにかく、明日は多少は気合いを入れなきゃならん訳で、さっさと風呂に入って眠りにつきたいんだがな。
「まぁ・・・そうゆう訳で風呂入ってくるよ」
言いながら僕は立ち上がる。
「ふ~ん」
納得していないかのような口振りで悠里は言った。
かなり面倒くさい。
「はぁ・・・また明日な」
僕がため息交じりに漏らした呟きに悠里は低いトーンで返した。
「おやすみ」
微笑で一言告げてから扉をぱたんと閉めた。
今から風呂に入るから開けといてくれても構わないんだけどね?
芹香も意味が分からない人間だが、悠里も大概訳が分からない奴だ。
ようやく一人になれて弛緩した空気が流れていく。
なんにせよ安堵したのは、芹香に手を出さないで良かった~って事だ。
あのまま欲望の赴くままに、草食系の極みである僕が一匹の狼へと変貌していたらどうなっていたことか・・・。
悠里は止めに入るのだろうか?
それとも見て見ぬ振りをするのだろうか?
どっちに転んでも、明日からの僕達の関係性がギクシャクする事は明白だ。
変な空気になるのは息苦しい・・・。
そんな事に気を使わないといけない事が面倒くさい。
そう考えると、やはり一人でいる方が幾分マシに思った。
そもそもあいつら二人と暮らしていなければ、黒田のアジトにカチコミじゃぁ!そいやー!!なんて事は考えもしていないだろう。
人と人とが関われば、やっぱり何かしらが起こってしまうものなんだなとつくづく感じる。
今更ながら後悔してくる。
明日、警官を探す作業が面倒くさい。
沸々と沸き上がるこの感覚。
考えれば考えるほど面倒くさくなっていく。
それからどうやって瑠菜達を救出するのか考えるのも面倒くさい。
それを実行するのは一番面倒くさい。
気持ちが沈んでくる・・・・・。
仮病で誤魔化してもバレるだろうし、先延ばしに出来た所で数日が限界だろう。
黒田に一泡吹かせたいとか思っていたけど、正直どうでも良くなってきた。
むしろ勝手に好き勝手やってくれとさえ思えてくる。
どうせ・・・島から出た時に、レイプされた女性陣から訴えられたりする案件だ。
嫌だなぁ・・憂鬱だなぁ。
このままばっくれて・・・
でも、1ヶ月以上も経過しているし空き家があるとも限らない。
観念するしかないのか。
警官を探そうと悠里達に言った事を死ぬ程後悔しつつ僕は風呂場に向かった。
足取りは凄く重い。
気持ちが沈むと、体の節々も重く感じてしまう。
例えるなら期末テストの一日目の前日の夜だったり、月曜から土曜まで仕事がある日曜日の夜の気分だ。
そんな例え、瑠菜達からしたら低レベルで不謹慎に思われるだろうが、僕の今の気持ちはそれに酷似している。
明日・・・警官が見つかりませんように。
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