異世界へ落ちたらヒロインになっていました。
まあしゃ
序章-1 はじまり-
身体全身が熱い。だと言うのに、手先は冷たく、感覚が無い。
頭は鈍器で殴られたかの様に鈍い痛みを持ち、そのせいか意識もグラグラと揺れている。視界は真っ暗で、瞼を閉じているのか開けているのかすら分からなかった。喉はひり付き、浅く息をするのがやっと。
ああ、死期が近いのか。
直感的にそう思った。そして何故この状況に置かれたのか、未だに揺れる意識の中で考えてみる。
痛みを感じて「今は生きている」と、自覚した中、せめてどうしてこうなったのかそれだけでも把握しておきたい。
幸い、聴覚だけは失っていなかった。寧ろ唯一機能している感覚器官なのでさらに冴えている。……そっと、耳を澄ませてみる。
「いつまで寝ているんだこいつは。全く、酷い有様だな。」
「哀れな。お前は慈悲の欠片も持ち合わせていないのか。」
「はっ、誰がお前に応えてくれと言った?」
「もう、やめてよね。患者の前でまで喧嘩しないでよお。」
「それにしても、こんなに綺麗な女性に傷を付ける者がいるなんて。気が知れないね。」
「……眠い。」
……言い争いをする者が2人、慌てる者が1人、冷静な者が1人、気怠げな者が1人。
計5人の声が聞こえる。声色が低いことから、全員男性だろうか。
予想外の騒がしさに驚いた。そして同時に冷静な者の言葉から、自身が女である事を思い出す。重症で彼等に保護されている状況なのか。
一先ずは安心したものの、けれど「たった今」の状況に一抹の不安を覚える。
女性1人に対し何故5人の男性が側に居るのか。
しかしその不安も一瞬に終わった。
「あら、皆様何処に居るのかと思いましたら。私が看病しますと再三申上げているではありませんか。」
朗らかな女性の声。落ち着いてはいるがたしなめる様なその口振に、彼等よりも立場のある者だと伺える。
「何せ見たことも無い怪我をしているのです。その様に間近に居られましても、直ぐに対処出来るとお思いで?」
「しかし、クレア様。医学の知識はあります。」
「そうだよ。せめて交代制でもいいから、見守らせてくれないかい?」
「だって心配だよお。顔色だってまだ悪いし…。」
5人の内の何人かが抗議するも、クレアと呼ばれた女性は毅然とした態度を崩さない。さあさあ出て行った、と手を打ち鳴らすと彼等は渋々立ち上がる。
布の擦れる音が間近で聞こえたことから、そんなに至近距離で見られていたのかと心の中で苦笑した。
足音が遠ざかり、一時期の静寂が訪れる。そしてそっと静かに近付く足音。
「意識が戻ったのでしょう?」
身体が正常に機能していれば、目を見開いて驚いていただろう。指一つ動かせないのに一体何処で気付いたのか。
「先程はごめんなさいね、悪い子達では無いのだけれど…。」
5人の彼等との会話を思い出したのだろうか。喉を鳴らして、けれどもこちらへの配慮なのか成る可く声を殺して笑う。この瞬間、ああ自分は助かったのだとわかった。
何に対してかはわからないが、少なくとも死期が近いとはもう感じなかった。
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