漆黒の昔方(むかしべ) ~俺のすべては、此処に在る~

加瀬優妃

プロローグ

 ジャスラの国の南――その地下深くに、フェルティガエと呼ばれる特別な力を持つ者たちがひっそりと暮らしていた。

 ヤハトラと呼ばれるその地の一角に、古い、巨大な神殿がある。


 そして今日も――一人の巫女が神殿に祈りを捧げていた。

 銀色の髪がその背丈よりも長く、ゆるやかに流れている。

 碧の瞳が映すのは、神殿の奥に蠢く黒い闇……。


「……ネイア様」


 一人の女性が音もなく現れ、跪いた。巫女の後ろ姿がぴくりと震えた。


夢鏡ミラーの神官が――もう、間もなくだと」

「……」


 巫女ネイアは黙って目を瞑る。

 そして


「――ついに……か」


と呟き、ゆっくりと振り返った。


「……ミズナの様子はどうだ……」

「……」


 女性は黙ったまま首を横に振った。


「我々には……」

「――そうか」


 ネイアは神殿に向き直ると、再び祈りを捧げた。


「かの者が……このジャスラも、ミズナも……救ってくれればよいのだが……の」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る