報酬はあの子?
「…………なるほど。まあ大体の事情はわかりました」
テーブルに肘をついて、両手を口元にまで持っていき、真面目な様子でフィーリアさんはそう呟く。もう、また笑い出すことはないだろう。……たぶん。
「ですが、まあ……にわかには信じ難い話ですけど……」
「ふむ。私もそれに同じだ」
——まあ、ですよね……。
あの後、必死に涙を堪える先輩をなんとか励まして、先輩の身に起こったことを全て彼女らに説明したのだ。
朝起きたら女の子になっていたことと、それと同時にLv1になっていたことも。
……しかしまあ、フィーリアさんの言う通り、にわかには信じ難い話である。
「けどまあ【リサーチ】で見たところ、本当に『炎鬼神』——ラグナ=アルティ=ブレイズ本人なのは確かなことですしねえ……」
疑い半分、興味半分といった眼差しをフィーリアさんは先輩に向ける。対して先輩は先ほどのこともあるせいか、ぷいっと顔を背けてしまうが。
「………ふーん」
…………気のせいだろうか。フィーリアさんの眼差しの、興味の度合いが濃くなったような気がする。
「元男、か…………いやしかし……それを考慮しなければ…………それに先ほどの
気のせいだろうか。サクラさんが何やら不穏なことをブツブツ言いながら、まるで獲物を狩る獣のような鋭い眼光を先輩に向けている気がする。
……取り敢えず、できるだけあの人には先輩を近づけないようにしよう。じゃないと、何か取り返しのつかないことが先輩の身に起こる気がする。
「それに合点もいきました。だから私と『極剣聖』がこの街に呼ばれたんですね」
うんうんと頷くフィーリアさん。その横で未だに顔を俯かせ、耳を澄ましても聞こえない声量で何かを呟き続けるサクラさん。
——こうして見ると本当に《SS》
そう僕が思った時だった。
「ん……?」
ふと、グィンさんがそんな声を上げたかと思えば、懐に手を突っ込んで、拳大の澄んだ蒼色の魔石を取り出した。
「すまない。私は少し席を外させてもらうよ。冒険者同士、会話を楽しんでてね」
「え?ちょ、グィンさ——」
バタン——僕が呼び止める暇もなく、グィンさんは立ち上がってそそくさと部屋から出て行ってしまった。
「…………ええ……」
僕がそう放心するように呟く最中、二人の《SS》冒険者が口々に言葉を紡ぐ。
「朝起きたら女の子に……Lv1……E-とEXという
「そうか…!いっそのこと女としての悦びを身体に教え込み、心も女にしてしまえば……万事解決か……!」
何やら二人の呟き——主にサクラさんの——がどんどん不穏な響きを伴わせてきている。すると不意にギュッと服の裾を掴まれた——無論、隣に座る先輩にである。
「先輩?」
僕が顔を向けると、若干目元を腫らした先輩が、まるで怯えた小動物のように身体を縮こませていた。
「く、くらはぁ……あいつら、なんか怖いんだけど……」
「………………」
最近ずっと思っていることなのだが、もしかすると先輩は身体だけではなく、精神の方も女の子に染まり切ってしまっているのではないか?
そう、勘繰ってしまうほどに最近の先輩は女の子らしいというか女の子してるというか……。
——って何を考えてるんだ僕は……!
「あ、安心してください先輩……気のせいですよ」
「そ、そうか……?」
「はい。…………たぶん」
と、そこで一旦席を外したグィンさんが戻ってきた。
「いやあすまなかったね。それでアザミヤ君とクロミア君。こちらが支払う君たちへの報酬なんだけども」
「GM。実はそれについて話があるのだが」
「あ、私も」
「え?うん。何だい?」
《SS》冒険者の二人は揃ってグィンさんの方へ顔を向けて、それからさも当然のように——
「「あの子で」」
——と、先輩を指差すのだった。
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