少女は転生を願った。

弓チョコ

プロローグ

「あら?」

「どうしました? お嬢様」

「やあね、もうお嬢様じゃないってば」


 赤ん坊を抱く、小柄な女性。白い髪の、先端が赤く染まった花のような髪をしている。同じく自分の子を抱く、言わば『ママ友』と一緒に、森へ出掛けていた時だった。


「女性が倒れているわ」

「……本当ですね」


 見るや、安否を確かめに素早く動いた、長身の女性。

 友とは言え、以前は小柄の女性に仕えていた彼女。金髪を腰まで伸ばした、鋭い目付きをしていた。

 倒れている女性は、黒髪で痩身だった。まるで行き倒れたかのようにボロボロで、しかも夏前である今の時期に何故か雪国のような厚着をしていた。


「……なんとも珍しい意匠の服ですね」


 目立った怪我は見られない。気絶しているだけのように見える。金髪長身の女性は自分の子供を付き人に預け、その女性を担ぎ上げた。


「あら」


 その時、小柄の女性があるものに気付く。黒髪の女性の、その頭に。


「素敵な髪飾りね。どこの国の物かしら」


 藍色のリボンにあしらえられているのは光のような白色の珠。宝石のようだ。さらに髪を留められるような止め金が付いている。


「……いや、お嬢……。えー、ファルカ様。この顔は、見覚えがあります」

「え? シャル貴女、お知り合い?」

「いえ。そういう訳ではなく――」


 シャルと呼ばれた金髪の女性は、ある男を思い出していた。すなわち、子供の父親を。


 平たい目と鼻。黒髪。黄色に近い肌。そして、この世界には存在しない製法の服。


「……あっ」


 ファルカと呼ばれた、小柄の女性もそれで気付いて声を挙げた。


「――『日本人』ねっ」

「そうです。あいつと同じ……」


 喜びの声を。

 シャルは、懐かしそうに。


「久々のお客様ね。さあまずは」

「まずは病院ですね。行きましょう。お嬢様」

「もうっ。シャルってば」


 ふたりの貴婦人は、嬉しそうに笑いながら、街へと引き返して行った。


――


――


 母の小説はいつも、笑顔で溢れていた。

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