チイの武器

「くそーっ!あの女ムカつく!!」


どこかのアジト、リーダーの西村ミサがロッカーに拳を入れる。


「あの山本チイという小娘、何モンでしょうかね?」


「いつも使っていたサンドバッグがいなくなると全然つまんねーよ!新しいサンドバッグ見つけに行こうぜ!!」


ミサが取り巻き達を誘った。


「サンドバッグなら僕が用意しましょう♪」


そんな時、三人しかいないはずのその現場にもう一人の声がした。


黒いタキシード姿のハンサムな青年、よく見ると海豹を擬人化したような姿に似ている。


「何モンだお前?」


「連れないお嬢さん達だね、僕の事はタキシードスィールと呼んでもらいましょう」


ミサの問いにスィールは答えた。


「それと耳寄りな話…貴女がたの言ういつも使っていたサンドバッグが今は山本チイと言う女の子と旅をしているようです」


「何っ!?」


スィールの言葉に一斉に耳を傾け出すミサや取り巻き達。


「今はベールアリの街にて武器を買いに来ています、チイ専用の武器を買いに…ね」


「チイただでさえ強いのに武器なんか持ったらアタイら勝てっこないですぜ!」


ミサの取り巻き達は取り乱しだす。


「臆するんじゃねえ!だったらあのサンドバッグ利用してやるまでだ!」


ミサは取り巻き達に放つ。


「やるう♪流石は女王様…」


「さあいずこかでお会いしましょう…」


それだけを言い残してスィールはテレポートするように消えた。


消えたタキシードスィールは「貴女には人身御供になっていただきます、これも山本チイと言う少女の為…」とチイの身を案じるように呟いた。


ーーー一方その頃、チイとナリスはチイ専用の武具を買いにベールアリという街にやってきていた。


何故チイ専用の武具が必要なのかと言えば、チイ、ナリスという仲間内の中、剣は勇者ナリスしか持っていないが、自身は戦う前にビビってしまい、結局チイが剣を握る事になってしまうからだ。


しかしナリスは能天気にもチイの武具姿を想像してはニマニマしていた。


「ふふふチイの勇ましい武具姿楽しみやね♪今の可愛らしい姿も好きだけど♪」


「ニマニマするのは良えけどアンタも勇者らしく果敢にモンスターやっつけなあかんで?」


ニマニマしているナリスに遊びに来たのでは無いと一喝を入れるチイ。


勇者がこんなでは困るからだ。


当然ナリスは落ち込む。


「冗談やで、焦らんでも良えから少しずつ強くなりや」


その後に優しくチイはナリスにフォローした。


そして武器、防具屋にやってきたチイとナリス。


そこには看板でこう書かれていた。


『この剣、防具屋にはお一人様しか入ることが出来ません』


「一人しか入れないのかあ、じゃあ私は待ってるからね!」


ナリスはしばらくここで待つ事にした。


チイは武具屋の中に入る。


「おや、可愛らしいお客さんだね、お安くしとくよ♪」


親しく話しかける武具屋のおじさん。


「ありがとう、それとこの剣凄いデカイんだけど…サンプルなんですか?」


チイは一際大きな剣に目がつき店主に聞きだした。


「ああ、これはかつてベリアルという勇者が使っていたもんだ、あれは彼にしか扱えないらしくて現代において使えるものは誰もいないんだ」


店主の話を聞いているうちにベリアルという勇者に興味が湧いてきたチイは「ベリアルとはどういう勇者だったんですか?」と店主に聞き出した。


ベリアルとは『偽りの勇者』というノファン作品のキャラである、どんなエピソードがあるかはその作品を読んでもらえればわかる。


(はあ…ウチの仲間がベリアルはんみたいな男やと良かったのに、なんであんなのが仲間になっとるんやろ?)


チイはベリアルとナリスと比べてついため息が出てしまった。


「おやお嬢ちゃん、ため息なんかついてどうしたんだい?」


店主がチイに聞き出す。


「ええ、今ナリスという女勇者と旅をしてるんですがそいつがほんまどうしようもない女で…」


チイは散々に愚痴を店主に聞かせた。


ーーー


「へーくしゅん!」


ナリスは盛大にくしゃみをする。


「誰かがナリスちゃんは可愛くて強い子と噂してるのかな?私もチイに負けないくらいに強くならないと!」


ナリスは意気込んだ。


「それにしてもチイちゃん遅いな…」


そんな時ナリスの肩に何者かの手が置かれた。


その主をガラス越しに見てナリスは凍りついてしまった。


なぜならそこにいたのはナリスをサンドバッグにしていた西村ミサを筆頭とするいじめっ子集団だからだ。


「久しぶりだなあ勇者様♪」


「ひひひ面白い顔、その顔をチイと言う女にも見せてやりたいよな♪」


「あわあわ…」


ミサらはナリスの恐れおののく姿を見て面白がる。


「さあこっち来いよ!たっぷりと可愛がってやる!!」


ナリスは取り巻きらに髪を鷲掴みにされ、ミサのアジトまで連れて行かれた。


ーーー


「お嬢さんも大変だねえ、最近の若いモンは根性無いと言うからねえ、でそいつは不細工なのかい?」


「不細工では無いし性格もそんな悪くは無いんですがなんか受け付けないと言うか…アレンやベリアルの方が良いかなと…」


「蓼食う虫も好き好きだねえ、ま、江戸華喧嘩やドルジが好きなやつもいるからねえ」


チイと店主は作品内のキャラの話で盛り上がり、時間が経っているのを忘れていた。


ーーーミサのアジト


「ぐふうぅ!!」


ナリスはミサの取り巻きらに矢継ぎ早にストレス発散の道具にされる。


「オラオラこの前みたいに勇者の鍵みたいなやつでミサ様やアタイら更生させてみせろよ!!」


「なんでぇこいつ三千円しか持っていやがらねえ」


一方でミサはナリスの財布を奪い取り中身を拝見していた。


「許して…なんでもするから…」


屈辱や苦しみに耐えかねたナリスはミサらに許しを乞う。


「へへへ、だったらその剣でチイをたたっ斬ってこい、そうしたら命だけは助けてやる!」


ナリスの金だけを奪い財布をぽいっと放ったミサはナリスに近づき唾を吐きかける。


(チイ…ごめんね…私は美月ングみたいに耐える能力も無いしアレンやベリアルの方が断然良いよね…貴女は私を嫌ってるだろうけど少なくとも私は貴女をフレンズだと思ってるよ…)


ナリスは剣を握りしめ、チイに謝罪の念を入れた。


ーーー


「すっかり遅くなっちゃったわ、そう言えば誰か待たせてるんだった!」


話し込んで遅くなったがなんとか武具を買ったチイは外に出た。


するとそこにはナリスが剣をチイに向けていた。


「なんのつもりなん?ナリス…」


いつにもない剣幕を見せるナリスにチイはやや戸惑う。


「チイ…私の為に死んで!」


ナリスは突然チイに斬りかかった。


ブォン!


チイはナリスの剣を避ける。


「ナリス!ウチらの話を聞いとったんか!?たしかにウチの言よった事はほんまやけどやからって殺しにかかる事ないやろ!?」


「うるさい!」


ナリスは矢継ぎ早にチイに攻撃を繰り広げ、チイはそれを避ける。


「でやああっ!!」


ナリスの剣がまたチイに振るわれる。


パシッ!


チイはナリスの剣を受け止め、それを奪い取った。


「!!」


チイはナリスの懐に蹴りを入れ、ナリスは腹を抱えて膝をついた。


「何がお前をそうさせたんや?言うてみい」


チイがナリスに聞き出す。


「ごめんなさい…私…」


ナリスは嗚咽をあげだした。


「黙っとったらわからへんやろ?怒らんけん言うてみい!」


チイはねっちりとナリスに聞き出す。


「ごめんなさい…私…ミサりんに脅されて…」


ナリスはそう言って泣き出す。


シクシクと泣くナリスをチイは優しく抱きしめた。


「よう言うた辛かったなあ、お前は立派な勇者じゃ!」


チイはしばらく泣き続けるナリスを宥め、剣を背に負う。


「安心せえ、お前の仇はウチがとったる!」


チイはナリスに力強い言葉を放った。


ミサのアジトーーー


「なんだてめえは!!」


単独でアジトに乗り込んできたチイをミサの取り巻きらが取り囲む。


「西村ミサという女おるやろ?そいつと会わせや」


「にゃにおう!?」


ドカバキ!一階から激しい物音が響き、ミサは駆け込んだ。


「何の騒ぎ…てめえは!」


ミサは大勢の取り巻きが地に伸びている中、返り血を浴びて立っている1人の女を見て動揺を覚える。


「アタイの部下らをこんな風にしやがって!五体満足で帰れると思うな!」


ミサは日本刀をチイに向ける。


ミサを見たチイは彼女を鼻で笑う。


するとチイは手に持っていた剣を床に落とした。


「アンタなんか武器を使うまでもない、ウチの拳で充分や!」


「にゃにおう!?」


ドカッ!


瞬時にチイの拳がミサの顔面に入り、ミサはその場でノックアウトした。


「ナリス、仇はとったで!」


チイは泊まっている宿屋に戻るがチイはそこで奇妙な光景を目で見てしまう。


「ああ、チイちゃん、可愛いよチイちゃん♪」


なんとナリスがチイの部屋にいて、チイの下着を頭に被り1人で踊っていた。


チイはしばらくその出来事が頭にこびりついて離れなかった。

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