CODE89 急襲! アルサシオン部隊!
「もう一度言います。僕を説得するのは、無駄です、よ!」
言葉が終わると同時に、ハムが乗るホバーボードがブォン! と
急発進でまっすぐ
身をひるがえしてかわす折賀。
ホバーも急旋回!
機械音が鳴り、地面の枯葉を巻き上げながら何度も転回しては折賀に体当たりをしかける。そのたびに何度もかわす。
かわしざま、プシュン! と小さな音が鳴って、折賀が目を大きく見開いた。
エルさんが声を上げる。
「
ハムが右手に巻いていた服を投げた。その下から現れた、拳銃の発砲音だったらしい。
パッと見サイレンサーなどはついてないけど、音を抑えられる銃なのか。
ホバーによる体当たりと銃弾を避けて転がる折賀。
まだ当たってはいないけど、おっさんの下手な銃でもこの状況では脅威!
弾が流れるのを気にして、大きく避けることもできない。どうすれば!
突然、けたたましくサイレン音が響き渡った。
何台ものパトカーが現れ、あっという間に公園の周囲の狭い道路を埋め尽くす。
アティースさんが手配した現地警察だ!
「ボス! 付近住民の避難を! 警官も公園内には立ち入らせないでください!」
マイク越しにアティースさんへ呼びかけたのは
ハムと折賀の動きに合わせて、世衣さんとエルさんも距離を取りながら銃を構え、シスターズに狙いを定めている。
シスターズの二人は、まだ武器こそ出さないものの、敵意むき出しの鋭い視線をこちらに投げ返してくる。
俺はタクを引っぱって後ろへ下がらせた。
瞬間、風が大きく動いた。
いくつもの風が公園内に飛び込んでくる!
『色』の見えないそれが人の姿だと気づいて、俺は大きく叫んだ。
「
全部で五人――七人!
ダイナミックなジャンプで次々に着地し、ガーッと音を立てて風のように滑る七つの固まりが公園内を駆ける!
この動きとスピード。全員ローラー履いてやがる!
エルさんと世衣さんが前へ出た。ハムを相手どる折賀には近づかせない構え。
ハムと同じようにスピードを上げて突進してくる
エルさんのロープの分銅と世衣さんの正拳連打がヒットし、あっという間に二人を公園外まで吹っ飛ばした。
タクの後ろに回り込んできたひとりが金属バットを振りかざす。
俺は身を沈めて相手の脚に飛びかかり、一緒に吹っ飛んで地面を数回転したあと、起き上がって腹に膝落としを食らわせてやった。
全員、狙いは折賀なのか?
パーシャだけは俺を殺すようハレドに命じていた。
ハレドがいない今、折賀ばかりが狙われるのは、やっぱり攻撃力が高いから?
ふとシスターズを見ると、突然の
こいつらと
ローラーで目の前を猛スピードで通り過ぎたひとりが、コースを誤ったのか、そのままシスターズの方にツッコもうとした。
「緑」は身をひねったが、「赤」が動けずにいる。ぶつかる!
舗装地面を削りとるような音を響かせて、
その体が、激しい音とともに大きく宙を飛んだ。くるくるとスピンしながら公園の外へ落下し、近くにいた警察官に取り押さえられる。
敵を吹っ飛ばした折賀は、片手で抱えあげた「赤」をそっと地面に下ろした。
ハムの動きが止まる。「赤」も声が出ないまま目をぱちくりさせている。
くそぅ、敵の女の子助けるとか、カッコよすぎ!
「手を離す、アルッ!」
空気読めない女子・「緑」がすかさず折賀に向かって走り出す。
その背後に、またも別の
が、これも折賀が軽く――
――あ、違う。タクだった。
ローラーで突っ込んできた
「フッ、見たかインサイドキック・タクミスペシャル! きみ、大丈夫……ってあれ?」
タクも抱っこ、したかったんだろうな……。
でも「緑」はさっさと離れちゃった。しかも呆れたような目でタクを見てる。
「あんた、誰アル……」
「あ、あのっ、アカウント見ました! あとでフォローさせて!」
「
他の
「これで全部、か?」
風はもう起こらない。ハムもシスターズも動きが止まってる。
俺たちは、再び黙って
俺は、このとき気づけなかった。でも、すぐに気づくべきだったんだ。
別の見えない『色』が、こっちに近づいていることに。
◇ ◇ ◇
異変に気づいたのは、公園を取り囲んでいるはずの警察官の『色』が、次々に消えたときだった。
おかしい。ハムたちに警戒しつつ、俺はみんなに消えた方角を伝えた。
みんなの『色』が動く。ハムたちから視線を外さずに、その方角を意識する。
そのうちに、『色』がないのに何かがこっちへやってくる気配を感じた。
その者は、『色』がないのに圧倒的なオーラのようなものをまとっている。
強者だけが許された、隠しようのないこの闘気。『色』がないのに存在を示す、温度の動き。あるのか、こんなことが?
公園に入ってきた姿に、耐えきれずにみんなの視線が集中する。
長身の折賀よりもさらに背が高い、ガッチリと鍛えられた肉体。
筋骨隆々。ビジネススーツに身を包んでいるのに、「できる」男だということが一瞬で見てとれる。
特別速くはない歩の運びは、一歩一歩が雄々しく力強く。
それなのに、なぜか――マスクにサングラス、おまけに作業用ヘルメットまで装着してる。要するに、『色』だけでなく、顔がまったく見えない。
あえて言うなら、「工事現場に視察に来た、体調不良で目が弱いサラリーマン」みたいだ。
だけど、この空気は。この人は――。
男がゆっくりとこちらに向かって手を伸ばす。
同時に、目には映らぬ衝撃の波を感じた。
この衝撃を知ってる。
かつて、病室の中から漏れ出した色。
あのときは青紫色だった。今は色がない、けど――
背後からただならぬ音が連続して聞こえてきた。
振り返ると、信じられない光景。
エルさんが、世衣さんが。タクに亀山おっさんも。シスターズまで。
みんなが意識を失って倒れている。ハム以外、ひとり残らず。
間を置かず、俺の意識がふっ……と遠くへ飛ぶのを感じた。
体が、材木でも倒したようにドサッと崩れ落ちる。痛みを感じる暇もない。
消えゆく意識のはしで、最後に見たのは。
男が軽々と肩に担ぎ上げた、黒ジャージの体。
そのまま、来たときと同じように、ゆっくりと気配が遠ざかってゆく。
――なんで。なんでだよ。
そいつは、あんたの息子、なんだろ……?
なん、で。
…………。
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