Ⅱ 「コード・ガンドッグ」、始動!
ミッション:イギリス・ソールズベリ―平原
CODE23 セールスマンのおっさんをストーンヘンジに登らせない方法(1)
1月20日
――
俺は生まれて初めて外国へ来た。
観光したいし、現地のうまい食べ物も食べてみたい――が、残念ながらそんなヒマはない。
俺たちの前で、大勢の人間の好奇の目にさらされながら助けを求めている、ひとりの可哀想な「
一応ここは観光地。
地平線までの視界すべてを覆いつくす、だだっ
どこまでも続く平原のはるか遠くで、のんびり草を
この緑の平原に不釣り合いな、異彩を放つ巨石群。
かの有名な「ストーンヘンジ」。
直径ほぼ百メートルのサークル上に配置された立石群と、その上にところどころに渡されている横石群。
円系と呼ぶにはかなり欠けているけど、昔は神殿のごとく完璧な円形に建てられていたらしい。
建てられた目的は、天体観測だとか祭壇だとか諸説あるらしいが、今はどうでもいい。
今肝心なのは、この遺跡と周辺の構造。地理情報。
そして、なぜこの「
「あーあ、めっちゃ悲嘆にくれてるよ……。やっぱあの人、純粋に困ってるだけみたい」
百メートルほど離れた場所から、俺と
ストーンヘンジ周辺は警察以外近づけないようにしてあるが、
ちなみに「セールスマン」というのが、「オリヅル」がこの人に与えたコードネーム。そのカッコ悪さまでもが気の毒だ。
俺のコードネーム「
甲斐犬自体は別にカッコ悪くないけど、なんというか、ネーミングセンスがね……。
「二日前にいきなり発現して、それ以来一睡もできていないらしい。マスコミにさらされ続けて私生活もほぼ壊滅。泣きたくもなるだろうな」
折賀の声は、こんな気の毒な人を前にしても冷静だ。
俺と違って、やつは突然力を発現してしまった
◇ ◇ ◇
「
上司が「
「じゃあ童貞コンビと呼ぶ」
「もっとヒドイ!!!!」
せめてジャージコンビって呼んで! お笑い芸人みたいだけど!
そう、俺たちは
今の季節はさすがに薄手のロングコートを羽織ってるけど、その下は黒とグレーのいつものジャージ。どんだけジャージ推しなんだよ。
いつもと違う点といえば、折賀の靴。
時速七十七キロ超えでいきなり走り出してしまうこいつのために、CIAの武器研究室がわざわざ「折賀スペシャル」を開発してくれた。
重量と強度を徹底的に折賀向きにカスタマイズされた、軍人が履くような
これを履かないと、たぶんこいつは任務のたびに裸足で帰ることになる。
それからいつもの首輪。勝手に外すと電気が流れる、とかいう設定も変わらず。
これが俺たち二人の出張任務スタイル。
……
◇ ◇ ◇
イギリス・ソールズベリー平原にそびえたつ有名な観光遺跡「ストーンヘンジ」に、勝手に登る不届き者がいる、というニュースが流れたのは昨日のことだ。
日本では夕方のニュースやSNSで軽く扱われた程度だが、現地の国民が受けた衝撃は計り知れない。すぐさま一帯が封鎖され、報道規制の対象となった。
間もなく、「どうやら超常現象がらみの案件らしい」ということが発覚し、調査要請が
イギリスにも、情報組織やオカルト研究機関はあるはずだけど。
そこは
不届き者ことコードネーム「セールスマン」の名前は、チャック・ガーランド。
スマホなんかを売ってるセールスマン、三十一歳。
このチャックさん。
どういうわけか、何度警察が石から下ろしても、パトカーに乗せて連行しようとしても、いつの間にか石の上に戻ってきてしまうらしい。
「
なぜ、よりによってこんな目立つ場所にテレポートを繰り返してしまうのか。
本人がいちばんわけわからず、石の上でやけになって泣き言を言い続けている。早くなんとかしてやらないと。
「もう一度、検証結果を整理すると」
俺たちの背後から、
今回の出張任務には彼女がついてきてくれている。
「遺跡から離しても、本人の前方に向かって移動し続けている間はテレポートしない。本人から見て前方であれば、方角は問わない。一度でも動きが止まると、その瞬間遺跡に戻る――ってことだよね」
「せめてソールズベリーのセーフハウスまで連れていければいいんだけどな。乗り物に乗せて移動するのはダメだ。途中停止しなければならない要因がいくつもある。乗降時、信号、渋滞、歩行者待ち、不意の飛び出し……それから『
「甲斐くん、『
意見を出しあっていた世衣さんと折賀が、いっせいに俺を見る。そんな期待されても。
「見つける努力はするけど。二人とも、今この平原にどんだけの人間が集まってきてると?」
「「がんばれ」」
無責任にハモんな。
ほぼ透明に近い「
「コーディはこんな使い道なさそうな
「私もそう思うけど、警戒は続けてね」
さて、チャックさんをどうするか。
一瞬でも停止・後退をしたら即「ふりだしにもどる」ので、折賀の言うとおり、緊急車両やヘリも含めてすべての乗り物が却下。
ずっと難しい顔をしていた折賀が、意を決したように声を上げた。
「ひとつ、策がある」
嫌な予感しかしない。
「俺が彼の向きを固定したまま投げて、追って、落下前に拾ってまた投げる。それを繰り返す」
俺はすぐさま口をはさむ。
「やめろ。タイミングあわなくて絶対落とす。グロい転落死体を生み出す気か」
折賀、ひるまず続ける。
「甲斐を使った特訓ではほぼ成功するようになった。この平原なら、一投げで百メートルは稼げる」
「二人でそんな楽しい特訓してたわけ? 今度やるとき呼んでよ」
「大学で、地面から甲斐を投げて屋上でキャッチできるようにもなった」
「それまで俺が何回壁に激突したと? それにまたアティースさんに怒られて、帰国後に『
案の定、俺たちの会話を聞いていたらしいアティースさんから通信が入った。
『世衣、甲斐。命に代えても
折賀が背負って、地道に徒歩で運ぶことになった。
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