第57話

「誰だ」

 声に対する二人の反応は早かった。

 ドーリーは近くに置いていた剣。この暗闇では弓は使えない。Vは手元にあった薪代わりの木の枝を持ち魔法を唱え先端を光らせる。松明の代わりだが、光量はこちらのほうが上なので遠くまで見渡せる。

「人の声、でしたよね」

「だったと思うが、シカやオークの声じゃなかったとは思う」

 Vの白い松明が森を照らすが、何も映らない。

「考えてみると、こんなところに人がいます?」


 ドーリーに近づいて視線の先を移すように松明を持つV。

「やめてくれよ。怪談は嫌いなんだ」

「でもほかになにかいますか?」

「人に聞いてばかりじゃなくてなにか考えろよ」

 そう言われてVは考える。

 人ではないだろう。エルフ、ドワーフなどの異種族、しかしいるとは聞いてない。

 ほかに人語を理解するもの、

「モンスターで人語を理解するものって、いますよね」

「吸血鬼とか巨人とか精霊の類か?」

 モンスターでも上位になると人語を理解するものがいる。代表的なものは吸血鬼。

 そう言ったものは種族によってはエルフなどと同じく帝国に忠誠を誓っていることがあるが

「何がでてもろくなことにはならねぇだろ」

 扱いは超特殊。しかも人との付き合いが大っ嫌いだの変人や奇人が多いならましで、種族としては忠誠を誓っても人間を敵視し隙あれば殺すというような連中も多い。

 そして上位というのは「頭がいい」のほかに「めちゃくちゃつよい」という意味もある。

「じゃぁそれ以外になにかありますか」

「わかりゃ苦労しねぇよ」

ドーリーはそう言って

「おい!誰だ!俺達を取って食うつもりじゃなければとって食わないぞ」

と大声で呼びかけた。どういう呼びかけだ。とVは思ったがそれを口にするより周りに集中したほうがよい。



 ドーリーの呼びかけに反応したのか、獣の鳴き声と羽ばたく音。

「私たち、襲う、つもり?」

「君たちが戦うつもりがないなら戦わない。僕たちは近くの山のダンジョンを見に来ただけだ」

 闇夜の声に対してVはそう返す。そうしながら声の位置を探る。

「なら、帰って、ほしい。おかぁさん、羽、ケガして、機嫌悪い」

「そういうわけにもいかない。近くの村に頼まれたんだ。」

 声の主は子供か、しかし人の声ではない。

「村にモンスターが出てきている。それがなぜかを調べるためにきたんだ。君のおかぁさんの怪我の具合にもよるが、できる範囲で僕が治してあげよう。それで機嫌を治してくれればいいんだが」

 懐柔策。話が通じるなら剣を振り回すよりこちらのほうがいい。

「あなた、お医者さん?」

「お医者さんじゃないが、人の指くらいならちょちょいとつなげられるぞ。俺が証人だ」

 ドーリーはそう叫んだ。ドーリーも懐柔策に賛成。この闇夜でモンスターと戦いたくない。

 声の主は数秒悩んだが

「わかった。絶対、なおして。おかあぁさん、機嫌悪いの、怖い」

そう答えた。

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