指令
夜のメジャーディーガンエクスプレスにて偵察ついでの夜間狙撃の訓練をしていたトーレスとリックは総司令部として始動し始めたヤンキーススタジアムをビルの上で偵察していた連中を見つけ狩る事にした。
「よーし、リック、あの4人をどんだけ仕留めるか競争するぞ」
「了解です。負けませんよ」
トーレスとリックは並んで狙撃態勢に入る。 強皇を出迎える前のちょっとした息抜きと適正を伸ばすための訓練だった
(渡河作戦なら遠距離攻撃の射手が他にいれば重宝するしな……しかし今はドワイトの気持ちがよくわかる気がする)
副官か後輩のように後を付いて来ては様々な質問や興味を示すリックに邪険にしながらも丁寧に教えるトーレスはふと、今の自分達は養成所で見たドワイトとジョシュの姿ではないのかと感じた
短い期間に少しづつ日々成長し、能力や技量が上がっていくリックを見て目を細める。
…………相棒だったパブロとは違う充実さと背中を預けられる安心感があった
「志祭、後から1匹出てきましたよ?」
暗視スコープ越しによたよたと動く
「なら好都合、5人のうち3人仕留めたら勝ちな」
そう言ってスコープを覗き獲物を物色する
その途端にスマホのバイブが鳴って呼び出される
「なんだ?」
「ニールセン志祭、至急帰還しなさい。強皇猊下が到着されますよ」
強皇直属の近衛兵団のヴィンスが早口で無機質にそう告げる
「お? 思ったより早いな……了解した。其方に向かう」
通話を止めた途端にリックが発砲したが、頭上に外した。それを見て注意を与える
「リック、雑念が多いんだよ。相手が殺気を感じてしまってては狙撃は失敗する……ん? そういや、あいつ等の顔どこかで見た気が……まぁいい、帰るぞ」
一瞬、マーカスやトーマス、エリックの顔を見て頭を捻るが、もたもたして遅参すると強皇の御機嫌を損ねる。放って置くことにした……
だが、ここでマーカス達がボストンで対戦した
車でスタジアムに到着するとフィールドに着陸したヘリからちょうどヴォイスラヴが降りる所だった
リックと共に隊列の末席にそれと無く並ぶ
ヴォイスラブは居並ぶ将兵3000人ほどの前に立つと訓示を始めだした
「諸君、よく今日まで俺の課す訓練や任務を良く熟してくれたッ! この未曽有の事態の中でやっと悲願である東海岸の吸血鬼どもの駆逐が今、諸君らの手により打ち立てられようとしているッ! これは我ら教会設立以来の快挙であり、この後、諸君らが進むであろう栄光と勝利の道の最初の一歩であるッ! このために何千何万の教会の我らが戦友や志徒達が傷つき倒れ、役目に殉じて戦場に散り、夢見て逝っただろう……彼らの尊い意志と意地に報いるため、俺と共に戦ってはくれまいかッ! そして共に大勝利を掴み、勝者の美酒に酔おうではないかッ!」
マイクを使わず、気合いの入った大声で3000人を熱を持って威圧、鼓舞し、狂化していく
元々ヴォイスラブに信仰に近い敬愛を抱く能力の高い者を選抜し、
その極限まで鍛え上げられた兵士達にさらに死亡率の高い無理難題ともいえる任務を何度も遂行して、選り抜きされてきたものが近衛兵団に入隊する。その実績と狂信性も相まって強皇の
その為、ワッツのような一般職やトーレス達一般兵はヴォイスラブの事を陛下と敬称を付けるが、近衛兵団の団員は
全員が拍手と歓声を持って答える風景にリックは無反応を示し、トーレスは内心ドン引きした。
(どこぞの新興宗教の教祖の手口だな、自分達が特殊なエリートと誤認させた上で勝利とかの単語を使い兵士達を
そこは所載なく顔に1ミリもそんな事考えているとは思わせない笑顔で見ていると背後に立つ気配を感じ振り向くとそこには迷彩服を着こんだヴィンスが両手を後ろに組み立っていた
その姿はトーレスと同じやせっぽちだが、はっきりとした黄色の瞳の眼光は狂気に浸っていた
「志祭、どうしました? 猊下の熱のこもった素晴らしい演説を聞いて何も感じないのですか?」
「ああ、俺らは此処の皆さんみたいに凄まじい能力と実績を認められて御傍に入るのを許された兵士ではないのでね。正直言って気圧されているし、調子こいて同調するのも憚れる」
半分本音、半分嘘を混ぜ合わせてつ体裁を整える。処世術が成せる技だったが効果は悪い意味で抜群だったようだ
「ほう? 下衆の貴方にもその様な小賢しい知恵があるのですね。まぁ、この前までいたハイデンとかの無能の輩より、グエン志教に近い愚才ですけどね」
偽装された謙虚さの返答に対して慇懃無礼を地で行くヴィンスに対し、トーレスも合わせたやり方でやり返す
「ええ、愚才なのに陛下には初陣から目を掛けていただき、大した実績も無いのに肝煎りの計画を任されて貰いまして………そんな輩は外に居た方がいいのですが、陛下に呼び出されて恐縮ですが罷り越したわけです」
「何か自慢らしきものが聞こえましたが?」
「いえいえ、滅相もない、多忙な序祭にお手間を取らせて申し訳ないと思っておる次第で」
「なんだ貴様、今度は嫌味……ゴホン、他の方々もお見えになる粗相のないように」
怒りのボルテージが上がる直前のヴィンスに他の近衛兵団員や使徒の冷ややかな視線が突き刺さる……それを感じ、そそくさとリックと共にその場を離れる
(
飄々としながらトーレスは更なる無用のトラブルを避けるため後方へ退くと向こうからワッツが走ってきた
「ニールセン! どこにいたの?!」
いきなりの小言に苦笑しながらトーレスはありのままに答える
「近衛兵団の若手に講義を受けてたのさ、そんで俺らの仕事は何だい?」
「重要案件よ、場所変えるわ」
そのまま3人は連なりながら無人の3塁側ロッカールームに向かう。そこにはきれいに掃除されたロッカーにシャワー室、ホワイトボードがあった。
手近な椅子をワッツに勧めるとトーレスも座り話を始める
「新規のS3とS2中隊が今調整が終わってこちらに向かってる。貴方達はその兵力加えた部隊でロングアイランドに上陸進攻して頂戴」
「了解した、期日と目標は?」
「3日後、早朝始動、近衛兵団の上陸支援と火力発電所3か所」
「武装や装備は? 前の兵たちと一緒かい?」
「ええ、前と同じ短機関銃とマークスマンライフル」
そこまで聞くとトーレスは頭を掻いてため息を吐くと
「そんじゃ、ロングアイランドの地下鉄やトンネル、それと上下水道の地図くれ。アプローチは何でもいいんだろ?」
「ええ、任務が遂行できれば無問題よ」
「了解した。出来ればここを俺らの駐屯室にしたい。よろしい?」
「ええ、機密なものもあるし、近衛兵団もあまり
しかめっ面でワッツが同意すると透かさずトーレスが次のお願いをする
「もう、今度は何!?」
「ここに食料とビールや飲み物持って来てくんない? 俺らが出歩くと問題起きそうだから」
それを聞いてヤレヤレと言った顔でワッツが頷き
「分かったわ、持ってきてあげるからさっさと陛下に会って頂戴、オーナー室にいるはずよ」
返事を聞いてにこやかに笑うとトーレスはリックを伴いヴォイスラブが居るオーナー室に向かって部屋を出て行った
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