隠匿
ニューヨークの地下鉄には無数の廃止になった駅が無数にあり、廃線になりそのままの状態で放置されたものから、乗客が少ないため廃止になったものまで無数にある……
手入れもされずに解体されるのを待つ施設であるのでボロボロで無数の落書きが所狭しと書きなぐってある……尤も、現役の駅も同じような状況ではあるのだが……
そのうちの一つ、米軍の避難用に建設中で予算が無くなったため中止になった秘密の駅にアンナ達は隠れていた。
ここはJP隊に配属になり数年後に教えられた
万が一、吸血鬼社会の崩壊、部隊が裏切りにより壊滅した場合に集まり、ほとぼりが冷めるまでのパニックルーム代わりに見つけた場所だった
ほかの駅とは違い、完全に秘匿された建築中の駅ゆえに
防寒用兼調理に使うドラム缶に拾って来た灯油や木材を仲良くくべるブース親子を横目に見つつ、マルティネスはアンナの厳命を受けていた。
「このボロいブランケット50枚を目立たない様に市内のコインランドリーに細かく分割して厳重に洗い、使える様にして!」
「ええ……しゃーない、行ってくる……」
大量の小汚いブランケットをスーパーマーケットのカートに乗せてマルティネスがしょぼくれながら
「ゴルァァァァァ!! 目立たない様にと言ってるでしょ?!
「ええっ! シーマもR33もダメなの? そんなぁぁぁ」
「駄目なの!」
涙目で前が見えない状態のマルティネスに柳眉を逆立てて叱り飛ばすアンナも必死だった
あれから泳いでニューヨーク側に戻り、マルティネスに連絡を入れて微妙な雰囲気のブースとマーティ達、全員を連れてそこから今すぐ指示する場所に逃げる様に伝える
全員を一旦、チームの
その間に以前知り合った警邏隊隊長のジョナに頼み、移動しながら情報収集に当たっていた……猟犬のキリチェックの行動やどこまで捜査をするか? をメッセージで逐一送らせる
案の定、チームのたまり場やオフィス、ブースの役宅からマルティネスの家まで家探ししていたが、何も見つけられずに帰って行ったらしい。
相手は凄腕のガードにして猟犬、何かの情報を掴んだら即座に部隊を率いて動いてくるだろう。此処も何時まで持つか……
その不安や恐怖でアンナもピリピリと苛立つ
だが、そこにムードメーカーとしてマーティの存在は唯一の支えだった
「アンナさん、俺も手伝っていい? あ、それと俺も買い出しに付き合うよ……相手は俺の事知らないだろ?」
事実、ジョナ達警邏隊に下った指令は「アンナ・ブース・マルティネス・ソフィア」の4人の捜索が来たがマーティについては全くのノーマークだった
従って多少の変装してマーティを連れて親子か兄弟として移動するとバレにくい……但しZが居ない所に限るが……
「仕方ないわね……ドミニク、マーティ行くわよ? 代わりの
「え? カートでやれって言わないの?」
半泣きのマルティネスがホッと胸をなでおろす。目立つ車は駄目だが地味な車なら役には立つ……それにGT-Rもシーマも此処から脱出する際の為の切り札になる
「それこそ目立つだろうがッ! それだけじゃない食料と越冬に向けて資源を貯め込まないとね」
地下でもニューヨークは寒く、電源もまだ完全に通ってない為、しっかり準備しないと全員凍死しかねない。
(差しあたっては食料と灯油に木材、それに血液……連絡や情報入手用のネット端末の入手か……)
頼りになるはずの顔の広いホセは現在は音信不通だった
(……自前で調達するか……)
そう腹を括ると2人をお供にしてアンナは薄暗い地下鉄の線路を歩き出した
すると腐臭ともに3体ほどの作業員の成れの果てが近づいてくる
「マーティは下がって!」
指示するとともに
「やれやれ、ちょっとした武器も要るね」
マルティネスが服を汚さない様に横に回りながら蹴り倒す
「んー、マーティ、避難所で銃以外の武器は何があった? 使ったことは?」
倒れたZのヘルメットごと頭部を勢い良く蹴り飛ばしたアンナは後ろに控えるマーティに尋ねる
「避難所ではモップの棒とか手斧で自警団は武装してたよ。俺らは棒しか使わせて貰えなかったけどね。ちなみに飛び道具なら狩猟で弓矢を練習してたよ」
入手可能な物品であることと指導のし易い事に安堵すると最後のZを蹴り飛ばして先に急ぐ
「銃は音が出るので使えないし、弓はZには有効打になりにくい。だから二人とも棒術教えるからしっかり覚える様に……」
「へーい」
Zの起き上がりざまに両足で頭を踏みつぶしマーティが返事をする。
「真面目に返事なさい、命に係わる事だから」
「「了解です」」
マルティネスも返事をすると作業エレベーターに乗り、地上に向かう
エレベーターが建築事務所に着くと、事務所の前には数体のZに現場と道を隔てる柵の向こうにも結構な数のZが屯っていた
それらを一瞥した後、アンナは口を開こうとしたマーティに” 静かに! ” とゼスチャーで合図すると
落ちていた2メートルほどの鉄棒を拾い上げ、真ん中と棒の後ろの端を持つ
そして静かに構えると振り向こうとするZに向かい右足を踏み込む。それと同時に右手を支えにして左手で棒を力強く押し出し眉間を貫通させる
1~2分で処理が終わると現場に止めてあったサパーバンを見つけ、動くのを確認して乗り込む
「ドミニク、柵のゲート開けて、車を出したらゲート閉じて」
「了解」
マルティネスが助手席から降りてゲートを開ける
ゲートを開けると寄って来るZを車で跳ね飛ばしてマルティネスを待つ
「お待たせ~」
「行くわよ、郊外のホームセンターで資材漁るわよ」
車のアクセルを踏みスピードを上げるが、見えて来たニュージャージーに渡る橋の入り口に検問所を見つけアクセルを緩める
(マズいな……)
係員が2人、運転手を確認している
「戻るよ」
「あー、ちょっと待って、俺に任せて‼ 二人は後ろで隠れてて」
アンナが即座にUターンしかがるが、後部座席で顔が知られていないマーティが手を上げて運転手を代わる
「マーティ、危なくなったらアクセル踏んで突破すんのよ。 それとニュージャージに渡るまで私達はしゃべれないからね……」
「了解~」
キリチェックの耳を警戒しながらもマルティネスと後ろのブランケットとブルーシートに隠れ様子を窺う
マーティは鼻歌混じりでマルティネスに教えて貰った運転を堂々と披露しながら検問所に着く
「こんちはー」
「やぁ、若いな? どこ行くね?」
爽やかな笑顔でマーティは挨拶すると無愛想な係員は免許書を見せる様に要求しながら行き先を尋ねる
ポケットから免許書らしきものを見せながらマーティは笑顔で答える
「ああ、このご時世で学校そっちのけで働かないと飯の食い上げだからね。建築用資材拾いに郊外まで出向くのさ……なんだい? この物々しさは?」
免許書を返してもらいながら尋ねると係員が困った顔をして
「執政官を暗殺しようとした輩が出たそうな……」
「へぇ、物騒な話だね。オジサンたちも大変だね」
「ちげぇねな、よし、坊や頑張れよ! 気をつけてな」
「ありがとー、オジサンたちもね」
アクセルを踏み車を発進させると、マーティに誘われてきたZを跳ね飛ばして進む
「ふぃぃぃ、あっぶね」
寄って来るZを巧みに避けながら橋を渡りニュージャージーに着く
その途端、ブルーシートから後方を確認するとアンナやマルティスが出て来てマーティは助手席に座る
「よくやったわ……っていうか、免許持ってたの?」
「んーん、フェイクID,友達と作って置いたんだ」
一瞬、ん? とした顔をアンナはするが直ぐに納得した
フェイクアイディーとはアメリカの写真館や印刷サービス店が行うプチ非合法の偽造サービスで、自動車免許や身分証明書の年齢等を偽って偽造したものである。
何らかのケースで身分を証明、年齢を証明する際にそれを出すが、当然バレたら逮捕される。……ただ、州が違う場合や、本物を知らなければ判別は難しい
「まぁ、これで資源収集も楽になる……油断せずにやるわよ」
アンナは警戒しながらホームセンターに車を走らせるのだった……
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