騒乱
玄関先に放置されたブローニングの傍らに立つとオーウェンは興味深そうに室内を観察し始めた
「おやおや、まだ熱々だねぇ……
ブローニングのバレルに触れて熱を感じ、スタン達の苦戦をシュミレートする。
そして廊下まで来ると何の苦も無く、スタスタとデッキシューズで歩いて行く、壁に付いたワックスや床の銃痕をみて全てを察する
「一度もろに引っかかって
何かに気が付いたように手すりに指を擦り付けるとその臭いを嗅ぎ、皺だらけの顔をしわくちゃに顰める
「こいつが本命か……どうやら誰も気が付かずに掴んで進んでいったか……ここが敵地だと認識しとらんな」
顰めた好々爺の目に鋭い眼光が灯る……
そしてそのまま歩いて行く……その黒一色のいでたちが周囲の闇を取り込むかのように影になって行く
発令室のモニター要員達さえ
そしてオーウェンは階段に到着すると、どちらに行こうか一瞬逡巡する……
耳を澄ますと上からエンジン音がする……そしてより凄みを増す眼光を隠す様にレイバンのサングラスをかけるとそのまま2階へ階段を昇って行った……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そのエンジンを吹かしながらエメの乗るヴァイパーが離陸直前に同じ屋上にいるマローンから連絡が入る
「所長! すんません! 機関砲で前の森を斉射お願いします!」
そう言い終わる直前に数メートルだけ離陸すると機首のM197機関砲が火を噴き、前方の森を万遍なく掃射する
その時、一瞬、下に落下する
「これで良いか?」
「あざーす、行ってらっしゃい!」
「それじゃ、速やかにここを爆破して、皆ご安全に撤収して!! 合流地点はフレディに話してあるから!」
ゲオルグの答えにマローンが感謝しつつ、ヘリに敬礼をして見送るとエメからの最後の指令が降りる
先程のエディ達の様にならない様に敢えて上昇し、北側のエリアから回り込むようにして避難船へ向かう
「さて、頭ぁ、どうするね?」
「とりあえずは膠着状態のバリケード戦線の打破と例の排除した狙撃手の動向確認して!」
「了解」
予備の双眼鏡を取り出し、バリケードの戦況を見る
相手側のスレイヤー達は必死に戦いっているがそん疲労の色は濃かった……、司令塔であるトーレスは消え、リックでは指令は覆せないのだった
焦るリックに後方から求めていた声が掛かる
「スレイヤー隊、後方へ撤収せよ」
後方の樹木の陰でライフルを構えつつトーレスが指示をする
「了解!」
待ってましたと言わんばかりにもう残り4人になったスレイヤー達が撤退に入り出す
リックの他の3人が奥に下がり、最後の殿が威嚇射撃を行い後ろに下がり出すとその横からZになり果てたスレイヤーが襲い掛かる
「うわぁぁぁぁぁッ!」
思わず叫び声と共に腰だめのライフルをZに放つが、その身体には自分と同じ高性能防弾アーマーに包まれている為、難なく接近を許し喉元に噛み付かれる
「ごっぐふ、」
喉を食い千切られ、声にならないがZを突き飛ばして立ち上がる……
彼が幸運だったのはその側頭部に銃弾が撃ち込まれ……Zになる恐怖と呼吸困難にならずに苦しまずに逝けた事だった
そしてZになったスレイヤーもその頭部に銃弾で爆ぜさせられる
「待てや! パイセン!」
硝煙が銃口から出る扱いなれたM945を腰のベルトに挟むとジョシュが肩にぶら下げたM107CQを両手で構えると逃げるスレイヤーに向かい引き金を引く……
だが、間髪いれずにその足元に煙幕弾が転がされると、ジョシュは後方に飛びながら牽制弾を放ち樹の後ろに隠れる
「ジョシュア! 勝負は預けたぞ、NYに来い! そこで決着つけてやらぁ!」
研究所の戦闘員達にジョシュ、それに正体不明の部隊まで襲来した戦況ではかなり不利と見たトーレスは損耗の激しいスレイヤーを庇い、撤退を決め込む
「ゲロトーレス! その頃までにゲロ癖なおしといてねん!」
「ああ、てめぇの死に顔に反吐はいて終わりにしてやんよ!」
悪ふざけの弄りを軽く返してトーレスは外にいる運転手に連絡を取り、脱出を図る
心残りはカペロの隊の状態だった……
生き残っていれば丁度良い殿になってくれる筈と期待したのだ。
しかし、その希望も淡く潰えた……
Zとなったカペロを先頭に100体程のZが研究所に迫って来ていた
「さて、一斉射撃行くぞ! とっとと頭潰して処理してあの連中に備えるぞ!」
北欧達はもやは楽勝になったものの、人間のスタッフに被害が出ない様に徹底処理を始めた
「うぃ~」
他の黒マッチョを始めとした保安部員が緩く返事をし、潰し始める……
動くものが居なくなっても、頭部を一つ一つ潰す……もう二度と起き上がることが無いように
「
呟きながら北欧達が引き金を引いていく……戦士達への敬意をこめて
そこにジュリアから通信が入る
「あんたら始末終わった? 至急補給受けて本命に備えて!」
「了解、頭、
「バーニィを迎えに行くついでに医務室からの怪我人を地下通路に護送……そのまま護衛に……行かずに喧嘩買いに行ったわ」
現場から速足で移動中の北欧達の問いにジュリアは苦笑して答える
ゲオルグを餌にしつつ脱出させ、空になった研究所ごと潰す作戦は理解した……だが、此処を身体を張って守って来た男の気概は全く納得していない
「ちょいと闖入者をボコって来る」
バーニィとベケットは最後の怪我人と医療スタッフが搬送されるのを見届けるとH&K MP7とマガジンを装備してそう言い置いて中に入って行ったらしい
バーニィ達といい、リョーや甲斐といい……何で男達は敢えて戦いを求めるのだろう
ジュリアには理解できなかったし、シュテフィンはどうなのだろうか? と疑問に思うのだった
そのジュリアに要員からの報告が入る
「研究棟にて火災報知器に感あり、そして実験エリアで交戦確認! 居残った研究スタッフと思われます!」
画面が拡大されると自慢の顔が傷だらけのミンホが罵声と共にM-16を乱射するが、
「くそがぁ!? この日本人野郎! ぶっ殺してやる!」
「と、同じ
「まだいるんだねぇ……こんな奴」
激怒したミンホを
スタン達が爆薬設置に研究棟に入った際にわざわざ火災報知器のスプリンクラーを作動させ、相手と発令室に存在を教える
その姿にスタン達は幼稚なニンジャのコスプレと思い、ミンホに至っては舐めきって発砲したが、その前に伏せて避けられ、ペトリ皿を顔面にぶつけられまくっていた
ミンホが訳の分からない叫びを上げながら周囲を滅茶苦茶に乱射する
「ミンホ! 落ち着け! こちらまで跳弾でやられる!」
慌てて叫ぶスタンも最初はヲタクの研究員達が逃げ遅れたと高をくくりミンホに始末を任せ、アリに爆弾設置をさせていたが、その回避予測と素早い動き、的確で変化をつけた投擲術に先程、玄関にてブローニングの死角を礫やナイフを投げて守っていた相手と看破した。
だが、舐め切ったミンホの銃撃を物ともせずに反撃され、現在に至るというオーウェンに見られたら即座に全員絞められる構図になっていた……
「このゴミくずがぁ……」
怒りが心頭の極限まで達したミンホは震える手でマガジンを入れようとするが、もはやまともに動作出来ないほど震えていた
「もうそろそろ鼻血出してブチ切れるんじゃねぇ? マガジンを床に叩き付けて、猿みたいな金切声上げて……」
亮輔がニヤニヤしながらそう指摘するとスタンが流石に止めに入る
「そこの研究員の方々、もう勘弁してやってくれないか、俺らの負けだ! 見逃させて貰うので出て行ってくれないか?」
少々的外れだがギブアップを宣言した事はミンホの誇り高いプライドを爆散させるには十分だった
「「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」」
亮輔の予言通り、猿の様な金切声と共にマガジンを叩き付けて、そのまま亮輔に向かって走り出す……鼻から出血させながら……それを見てスタンが慌てる
「うぁ、超本格的に発狂しよった!!」
ミンホがかなりの距離から亮輔に向かい跳躍すると胴回し蹴りの動作に入る
もろに人間の急所に入れば内臓破裂と脊椎まで破壊する蹴りになるはずだった……
身体を捩り、一瞬だけ背中を向けた時には亮輔はすでにその場に無く、怒りで朱に染まったミンホの顔に驚きの表情が形作られる
「絶対秘儀! 7年ごろぉぉぉぉぉしぃぃぃぃぃい!」
「「おごっぅ!」」
その外力は肛門から脳髄までを貫通する程のうねりを伴った激痛となり、ミンホは言葉にならない一言の断末魔と共に口をパクパクさせつつ目を白黒させながら気絶する
そこに居たスタンも、モニター越しのジュリア達も何をやっているのかさっぱりわからなかったが、極めて悪質な悪ふざけをこの土壇場で決めたのは一目瞭然だった
「貴様らぁ!」
その悪質さにスタンが怒り出してライフルを構えるが、その途端に二人は身を隠しながら口撃にはいる
「他人ン家に乱入し、
「亮、駄目だよ、このお方は白人様だよ? 自分がやるこたぁ全て大正義に決まってんじゃん!」
亮輔が駄目だしすると百地がフォローの様な追撃を見舞う
「ちがう! 命のやり取りをする上での……」
「礼儀作法というのなら丸腰の人間を武器を使って襲うという礼儀など僕は聞いたことがない。自分達の都合の良い事ばっか言ってんじゃないよ兵隊さんよぅ!」
スタンの話の先を読み百地が一喝する。
その言動にスタンは自分たちの甘さを実感し、すぐに切り替える……
「ああ、そうだな……こんな会話も無駄だ……」
そういって手に持ったM-16の引き金を引く、ミンホより正確で技術を伴った攻撃が繰り出される……だが、それでも悪ふざけは終わらない!
「ところがぎっちょん!」
その気絶したミンホを首にコードを巻き付け、百地が盾にして立たせる
「むっ!」
それをみたスタンが引き金から指を外すと右側に現れた亮輔がスタンに向かい何かを投げつける
「俺を舐めるな!」
左手にライフルを持ったまま、右手で腰のグロックを引き抜き、飛来するそれを打ち落とすがそれは消火器で周囲が粉の煙幕に包まれる
「くそっ逃がすか!」
その気配を元にグロックとライフルで銃撃を加える
「がぁぁぁぁぁ!」
その煙幕から消火剤で真っ白になったミンホが飛び出してきた……驚き慌てたスタンが思わず引き金を引き、その足を打ち抜いてしまう
コードを外されて負傷した尻をフルスイングで百地に蹴り飛ばされてきたのだった
「おい、ミンホ!? すまん! 大丈夫か?」
スタンが負傷させてしまったミンホを介抱するその隙に、亮輔と百地の二人は消火剤の煙幕に包まれた実験エリアを抜け出し、音もなく逃げて行った……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます