警戒

JP達が車体と素材を確保しコロニーに戻ってきた頃、粗方の情報を探し終わった留守番班のホセ達がバルバロイの奥の間で待っていた


 奥の間に行くとホセやエリック達が待っていた


「おかえり、JP」


「お疲れ、ホセ」


 そう挨拶を交わすと帰還組が椅子に座る


 途端にさっと出てきたビールで乾杯し、喉を鳴らして飲み干す


「ぷはぁ~、ご機嫌だわ~、仕事が趣味の範囲で危なくないって最高~」


 エディが笑顔でビールをおかわりする


「それでホセ、報告を聞こう」


 真顔でJPはホセに尋ねる


「ぜーんぜんわからん」


 お手上げの仕草をした後、呆れたように呟く


「ほんとに……洒落にならん」


 マーカスが同調しながらスマホを何気ない仕草で見せる、そこには


 ”どうやらアンソニー、直々に動いたらしい”


「ほう? それはまた……理由はなんだ?」


 すっとぼけた表情でJPが尋ねてくる


「要らん世話焼きたい奴が居たんでねぇの? めんどクセェ」


 ”これは建前で足止めと監視を潜入させたかったらしい”


「そうか……めんどくさいな確かに……」


 苦笑しながらそう呟くとビールを一口呑む…


 此方の動き方次第でアンソニーは即座に斬りに来るだろう……この8人でどう捌いて咽喉元に喰らいつくか……JPは必死に思考を廻らす……


「JP、事後報告ですが宜しいですか?」


 アンナがソフィア・ブースの件を報告する


「そうか……引き続き……? ボストンはどうする?」


 アンナに予定を尋ねると同時に何かが閃きかけていた


「数日遅れて行く事になります……数年ぶりの里帰りボストンですし」


 そこでJPがニコリと笑う


「そうか……教会も出てきてるから道中、気をつけて来るんだぞ」


 その手元はスマホに素早く入力し


 ”情報と工作を依頼してからのかなり危険な脱出行になる。頼むぞ”


 それを見せるといつもの妖艶な笑みで


「判りましたわ、なるだけ回避して行きますよ」


 その返事を受け取ると明日、正午までに装備を整えるように全員に通達しビールをあおる


「マジかよ、JP、このご時勢に3週も休むんか?」


 マーカスが苦笑しながら小芝居に乗っかる。事実、予定通りなら3週は現場に固定警護する事になる


「休む? 俺達は警護と装備開発に行くんだ、休日など週1日で十分だ。アンソニー様の下知で即始動するぞ」


 同じく苦笑しながらJPは周囲で此方を窺う監視者達を意識する


「了解だ……場所は何処だっけ?」


「バートリー財団直下の遺伝子研究所、ヘイガー通りの1986番地だ……寒くなるから装備は厳重にな」


『了解』


 全員、返事をするとビールをあおった……



 この後、備蓄した武器弾薬とその命を全てを持って研究所死地に行く事になるとはこの時点で誰も予想はしていなかった


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 トンネルを抜けた秋の青い空の下、前に百地やジョシュ達に連れられ、牧歌的な家々が建ち並ぶエリアを見ながらシュテフィンは記憶と乱戦を繰り広げていた


(おかしい……俺はこのエリアに来た覚えは無い、だが、この風景は記憶が有る……)


 立て掛けてある農具や乾燥した牧草、家屋の煉瓦に石畳……何処となく記憶が有る


「シュテフィンさん、どうされました? 何か珍しいモノでも?」


 シュテフィンのあまりの挙動不審さに百地が流石に尋ねる


「あ、いや……俺、何故か此処に居た記憶がある……例えばそこの角を曲がると鵞鳥が居る池が有る……」


「おいー、ステ、ネタ振って来るならもちっと……ナっ?!」


 ジョシュはまた面白くも無い冗談をと牽制しつつも角を見ると、言われた通りに鵞鳥が居る池が有り、絶句する


「なんだと?!」


「もうちょい先には一回り大きな家で村長の家がある……その先は……研究員のアパートだろ?」


 シュテフィンは額に手を当ててそう呟く……その表情にあるのは恐怖と驚きだけだった


「あ……アパートはあたりです、僕等が住んでるアパートがあります。村長さんは手前ですよ……先代は亡くなられてますから……あ、あそこの家は確かに大きいや」


 百地も少し驚きながらも情報を照らし合わせる


「ステ、昔からピッツバーグに居たの?」


 不思議そうにアニーがステの肩に触れながら尋ねる


「僕はそう思っていた……だが、事実は違ってるみたいだ……何故だ?」


 そう自問自答するように返事をするとシュテフィンは混乱しだす。両親は一言もボストンについて話しはしなかった。吸血鬼の事も……


「落ち着けよ、ステ、まず、村長や住人から話を聞いてみよう……何か判るかも」


「ああ、実はどこぞの国の王子か大金持ちのご子息だったって事なら喜んで受け入れるよ」


 ジョシュの気遣いにいつもの詰まらないジョークで返すものの、やはり落ち着かない


「ここですね。村長は僕等のアパートの管理人も兼ねてますから宿が同じかもしれませんね」


 集落の端にある大きな家に案内されると百地はドアのチャイムを鳴らし、暫く待つ


「はい、どなた? って甲斐かいか……どうした?」


 デニムの作業服姿の大柄だがスタイルの良い気さくな風貌の中年女性が応対に出た


「ジャニス村長、ボガート先生のお客様を頼まれて連れてきました」


「おー、話は聞いてるよ。あんた達ね。ようこそランバート村へ」


「此方こそ宜しくお世話になります……ももちん、甲斐って?」


 ジョシュが何それと言った顔で百地に尋ねる


「僕の本名……あ、紹介してなかった! すいません、僕の名前は、百地ももち 甲斐かいって言います」


「あー、なるほど、カイ・モモチね」


「そういう事です。それでは皆さんまたお会いしましょう……アニーさんも……」


 別れの挨拶をするとモジモジしながらアニーにも振ると


「ええ、カイ君もね」


 笑顔で答えると顔を真っ赤にしながら


「で、では、し、しつれぃしまつ!」


 そう言い遺しギキシャクした動作で立ち去って行った


「あれで業界期待の若手研究者なんだけど、女が絡むとポンコツになるからねぇ」


 その後ろ姿をジャニスが溜息を吐きながら見送る


「ハグされたら?」


「即死するか暴走するかじゃない?」


 アニーの問に苦笑交じりで答えると


「さっきから気になってるんだけど……後ろの痩せっぽちはブツブツなんか言ってるけど?……大丈夫?」


 ジャニスはキョロキョロ周りを見渡しブツブツ言っているシュテフィンを訝しげに見る


「おい、ステ! すいません。こいつ、此処に来た事があると言ってまして……シュテフィン・マーセアって言うんですが……」


 裏手でしっかりしろと突っ込むと紹介がてらに尋ねてみる……


「マーセアねぇ……私の知る限りでは出てった家族にマーセアの名前は居なかった……アンタ、歳は?」


「22歳です」


「……最低でも20年ぐらい前か……」


 ジャニスはそう呟きながら眉間に眉を寄せると3人に家に入るように指示した


 癒えに招き入れると、リビングのソファーに座らせコーヒーを入れる、すると奥から可愛らしい女の子が飛び出してきた


「ママァ! お客さん?」


「シリル! ご挨拶は?」


 優しくもビシッと窘めるとシリルは手を上げて


「こんにちは、初めまして、私、シリル!」


「こんにちは、シリル、俺はジョシュ」


「俺はシュテフィン、ステって呼んでね」


「私はアニーだよ」


「こんにちは、宜しくね!」


 笑顔で挨拶を交わすとジャニスから小言が飛んで来る


「宿題終ったの? ゲオルグ校長が尋ねてくるわよ!?」


「えー、やだー! 直ぐに終わらせてくる!」


 シリルは踵を返すと奥の自室に帰っていった



「さて……何処から話をしようかねぇ……」


 ジャニスはコーヒーを飲みながら椅子に座るとハンドフォンがいきなり鳴る


「このタイミングはゲオルグか……」


 そう独り言を言うとジャニスは傍らのハンドフォンを取る


「もしもし、あー、やっぱりアンタか……ふむ、あ? え?! アンタが? ありがとう、ご相伴に預かるよ」


 ひとしきり、電話の相手と話し電話を切ると3人に向き合い


「ゴメンねぇ……口止めされちゃった、ただし、今夜、お待ちかねのゲオルグ・ランバートが会って直々に話すそうよ……夕食を食べながらね」


「え?! 会ってくれるんですか?」


 行き成りの登場予告にジョシュ達は驚くとジャニスは笑いながら


「あのマイキーから気難しいって聞いてるんだろ? 大正解、気難しいを通り越して不条理の狂人に近いのよ……あの気紛れにも程があるンだけどね……マイキーの最後とジョニーについて聞きたいらしい」


「マイケルさんの最後ですか……」


 それを聞いてシュテフィンとアニーが凹みだす


「フレッドは兎も角、私らはあのヘタレのマイケルがそこまで成長して、皆を愛し愛され、命懸けでみなを護り、惚れた女の為に命を投げ打つ男になったのは悲しいものあるけどそれ以上に誇らしいのさ」


 そこに少しイラッとしたジョシュが噛み付く


「そうでしょうか? 俺はマイケルやレイアに生きて欲しかった……」


「それは勿論、マイケルにとって私達は幼馴染だ。死んでいるより此処でビール片手に夫婦生活を弄った方が良いに決まっている。同族にさえ虐げられた私らなりの弔いの仕方さ」


「う……」


 その返しを受けジョシュが絶句する


「アンタらがマイケルに哀悼の意とその死を軽んじる相手に怒りを覚えるのは正直嬉しく思う。けどね、私ら穏健派は愛と統合を説いて両方から拒絶と敵対され続けた悲しい経緯があって、友人の死を弔う時はその生き様と死に方を褒めるのが流儀なのさ……よく困難に立ち向かい戦い抜いたってね」


「なるほど……」 


「従って侵入者、来訪者には特に警戒するもんだけど……あのフレッドが簡単に通したのが理解出来たわ……マイケル、最後に戦友達を見つけたんだね」


 そうつぶやくと全員しんみりする……すると玄関からそのフレディが現れた


「迎えに来たよ。どうした? しんみりして?」


 雰囲気を察して少し困惑気味で尋ねる。マイケルの事だとわかるとフレッドもしんみりしながら


「ああ、アイツは最後までイイ奴だった……クラーク・ケントを地で行く奴だった」


「修羅場や火事場で大活躍だったね……だけど|エンジンのかかり踏ん切り》が悪いんだよな」


 ジャニスが苦笑しながら逝ってしまった友人を偲ぶ……そこにシリルの声が飛んで来る


「あ!? パパァ! お帰りなさい!」


「只今、シリル、早速着替えて来て、ジャニスもね……みんなで教授の所だ……」


「え? あの? お二人はもしかして……」


 アニーの問いかけにジャニスは笑いながら


コレフレッドが私の旦那様」


 少し照れた様にフレディが笑いながらも着替えを急かし出していた


「おやまぁ……理想の家族だな……ってジャニスさんは……」


 聞き難そうに尋ねるシュテフィンに対しあっけらかんとジャニスは答える


「人間よ、というかここの住民の半数は人間……といってもその半数は研究員だけどね」


「ここの居住区を作るに当っては君の師匠であるジョニーの尽力が大きいんだよ。教会の良識派や未来・革新志向の人達を糾合してこのエリアを作り上げてしまったのだから」


 かつて、穏健派の虐殺事件の際、キャッスルはスレイヤーを相手に死闘をして当時の指導部の目を轢きつけてる最中、仲間のニコラス・ラヴェル達が昔からの訓練場であったこの土地をゲオルグ達に前代未聞の激安の値段で売却という形で提供し、教会の強皇の私財をちょろまかして匿ったのだ


「さすが、レジェンド! ブチかますなぁ……って一応、メッセージ入れとくか……今から教授に会うって」


 ジョシュはスマホを取り出すと教会サーバー経由でなく、生きている別のサーバーを探して発信した


「これで、何処から出したか判らんからね」


「お気使い感謝する」


 ボガートが微笑を浮かべながら感謝する


「いえいえ、最低でもコレくらいはしなきゃ……出来ればイリジウム電話を持たせたい所ですね」


 そう返すと準備が出来たらしくシリルを伴い小ざっぱりとした服装のジャニスが出てくる


「それじゃ、研究所に向かおう。多分、夕飯を作って待ってるはず」


 フレディ一家の後についてジョシュ達も家を出る……


 そのジョシュのスマホがメールの着信を知らせる点滅がポケットの中で輝いていた



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