勝敗

  銀のナイフで脅したジョシュに兵士は観念した様にわかったと呟いた。


「昨日、拉致された子供は何処に居る?」

腰から抜いた銀のナイフを目の前にチラつかせる。低い声でジョシュが尋問を始めた。


「アンリ様の所に連れて行かれてどこかに移送された」

銀色に光るナイフの刃から目を背け、兵士が答える。


「マジか? ! 何処に移送された?」


「俺らみたいな下っ端では判らんよ」

 吐き棄てるように答える兵士に無表情でジョシュは養成所で教わった簡易拷問兼判定の仕方、銀のナイフの側面で腕に強く当てる。ぐっ、と兵士が鈍い声を上げる。その後には赤い痣の様な跡がついていた。


「マジだよ! お前らにやられた負傷者と一緒に移送された。場所は部隊が違うので判らんのだ!」

 銀のナイフを押し当てられ、恐怖に駆られた兵士が必死で訴える。次は優しくオルトンが尋ねて来た。


「では答えてくれませんか? 君らの全兵力と目的はなんですか? それとアンリ様とは?」

ジョシュが恐怖で恫喝すればより抵抗がある。優しく諭すように話すオルトンに兵士は口を開いた。助けてくれると思えるのだ。


「ここに居るのは武装した兵士105人だ。だが、半数以上お前らが今、ミンチにしちまったがな! 目的は人間狩りだ」

はっとした表情でジョシュとトラビスは顔を見合わせる。推理が見事に当ってしまった。


「アップルドアや他の避難所襲ったのも?」


「外様の部隊だ。俺達はアンリ様直下の兵だ。下賤な人間狩りなどするか!」

 兵士の言葉に侮蔑的臭いを捉えた。目が据わったジョシュは落ちた時に車のガラスで切り、治り掛かった肩の傷口にナイフを当てる。治癒活動が止まり、瞬時に傷の周辺が真っ赤に腫れる。


「今日ここで狩りにしに来て撃退されたのはどこの連中マヌケかなぁ? ア゛ア゛ン?」


「がぁ? ! 済まん、悪かった!」

イラつきが隠し切れなくなったのかジョシュの言動が荒くなる。アレルギー反応の痛みに耐えかねた兵士が詫びる。


「さっきから聞いてるんだけどッ! アンリって誰? !」

ナイフを離してジョシュが話を進める。


「眷属級の我等が首領だ、その御叡智と能力は我等のとは違うぞ!」

兵士が胸を張りながら答える。その態度に興味を持ったトラビスが短く尋ねる。


「何処に居る?」


「それは……」


「奥の車だな? 兵士が囲んで護っている。……判りやすいのは大好きだぜ」

催涙ガスが薄まった頃に奥のバスを護衛する兵士が居た。それをジョシュは見逃さなかった。


「……そうだ」

 場所を特定され、折れた様に兵士がうな垂れる。次にオルトンが兵士の襟首を掴み問い質す。大人しい彼らしくない荒々しさだった。


「お前達は何処から来た? 本拠地はどこだ?」


「俺達は……」

 その言葉を遮るように銃声と銃弾が睨み合うオルトンと兵士の顔の間を貫通していく。その隙を突くと兵士は虚を突かれたオルトンの手を振りほどく。そこへ援護の銃撃が加わり、慌てて味方のほうへ逃走を図る。


「おぉおう? !」

銃撃と逃走に面食らったジョシュとトラビスが銃撃の方向に銃を向ける。5人程の兵士達が攻撃を加えてきて、そこに逃走した兵士が銃を渡されて加わる。


「ちっ、さっさと拉致るか始末すりゃ良かったか」

 ボヤキながらジョシュは建物を盾にしながら攻撃を避ける。そこに建物から降りてきたアニーとシュテフィンが合流すべく駆けて来た。


「どうなっているの? マーティは? !」

バレットを構え、息を切らせたアニーが聞いて来る。


「マーティは何処かに移送されたらしい。今から行き先を指示した親玉を捕まえに行く」


「えぇぇ~? !」

 途方に暮れた感じでアニーが困惑する。


「移送って囚人じゃあるまいし」

シュテフィンが表現にクレームを付ける。しかし戦闘で興奮状態のジョシュはエスカレートする。


「んなこたー、どうだって良い! とっとと指示したクソ馬鹿ぶっ飛ばしに行くぞ。ステ、予備の弾を寄越せ、どうせ当らん」

そう暴言を吐きながらARに弾を装填し直す。シュテフィンから予備マガジンを2つばかし強奪する。


「アニー、ステ、もう少し頑張ってください。それと私と一緒に上に行きましょう。トラビスとジョシュに突破口を開きます」

オルトンが凹み気味の2人を励ましながら建物内に入っていく。


「連中が3人に気がつく前にちょいと陽動しとくか……」

剣呑な雰囲気でトラビスがバレットを構えて射撃準備に入る。


「旦那、バレットを牽制に使うの勿体無いって、ARコレ使って、俺、グロック使うし」

勢い良く射撃しようとしたトラビスを制止する。グロックに持ち替えたジョシュがARと奪った予備弾倉を渡す。


「意外にセコイなお前……まぁ、バレットの弾も残り少ないから助かるが……」

トラビスが苦笑しつつARと弾倉を受け取る。バレットをたすきがけに背中に背負う。


「まだ11人前後居るからね。それにこんだけドンパチさせてりゃZが寄ってくる」


「あ、それがあったか……」

トラビスはまだZが完全に駆除できていない現実を忘れていた。実際、風が微妙に腐臭を鼻に運んでくる。


「とりあえず……当てていこうか」

ジョシュは銃撃で角が削られていく建物からグロックで反撃を開始する。


ブルズアイ眉間に当てりゃ景品でるのか?」

 軽口叩きながらトラビスが手馴れた感じでジョシュの頭上から射撃を始めた。丁度、飛び出した兵士の防弾チョッキに当り吹っ飛ぶ。そして何事も無い様に立ち上がり、反撃してくる。


「ち、アーマーの上か……」

 建物に隠れて銃撃をやり過ごしながらトラビスが残念がる。そこに上に到達し、狙撃ポジションからオルトンが狙撃を始め出した。


「ぎゃ!」

天からの銃声と共に兵士が頭の中身を弾かせながら倒れる。兵士達は建物の上に向かい銃撃を始める。だが、がら空きになった所にジョシュ達の銃撃が加えられ次々に倒れる。


「旦那‼ 先行くぜ!」

 ジョシュが銃を構えて向かいの建物のドアに走りこみ、援護の合図を送る。


「動きがはえぇなー、さて俺も行くか」

援護のARを乱射しながらぼやくとその後にトラビスが続く。2人が建物に隠れると同時にそこに銃撃が来る。しかし、直ぐに止んだ。上からまたオルトンが狙撃を開始したのだった。


 また、バスの兵士に対して二脚を立てて狙撃ポジションをアニーが取る。周りのコンテナに2名、バスの中に数名、後ろにも居そうな雰囲気だった。一応観測員のシュテフィンが警戒するため遠方に目を凝らす。


「あ、Zが3体、此方に向かって来てる」


「なに、マジ? !」

 アニーはオルトンが倒した6人の兵士の遺体をスコープ越しに確かめた。その後、バスに近づくジョシュとトラビスにゆっくりと確実に向かうZが居た。


「アニー、Zを狙ってください。私は兵士を無力化します。ステ、至急降りてトラビスに状況を知らせてください。くれぐれも相手に見つからないように……それと連中の遺体にも気をつけてください」


「はい~」

シュテフィンは手持ちの装備を点検し、後方の非常階段から速やかに走り去っていった。指示を受けたアニーは無言でスコープを覗きトリガーを引く。Zの頭部が破裂すると同時に糸の切れた人形のように倒れた。……


 隣のオルトンもスコープ越しに兵士を探す。相手も狙撃手が居るのを分かったらしい。中々コンテナから頭を出さない。


(時間も弾も無いのに……だが、焦りは禁物だ)

額に汗を掻きながらオルトンは自分に言い聞かせるように内心呟いた。


――――――――――――――――――――――――


 JP達は大きく迂回し、アニー達の向かいにあるビル4階の会計士オフィスに侵入した。ブラインドの隙間から観戦を続ける。そこならば狙撃手2人の位置も下の突撃チームの2人もアンリの動きも観察できる場所だった。


「バレット持って来てやって正解だったな、下手な銃なら撃ち負けてたぜ」

ホセが興奮気味に呟く。ブラインド越しに道路に転がる同族達の遺体を見たらしい。


「それを扱える人材が揃っていたのが大きい。ひとり凄腕の女の子がいたな」


「さっき近寄ってきてたZを3体処理してたよ。ミス無しで」

 JPの意見にエディも同調し、3人はアニーの腕に舌を巻いた。これほどの狙撃手は同族でもそうは居ないだろう。


「距離を取られたら、正直相手にしたくはないな……」

JPは素直に口に出した。対策を取らねば近づく前に頭か心臓に穴が開く。……


「俺はベットの上ならいつでも相手になるぜ?」

下品な下ネタを言いながらホセは笑った。


「穴に入れる前にホセが穴だらけですよ」

スナック菓子を口に入れたエディが冷静に突っ込む。


「言うねぇ……女と酒とお宝が待ってりゃ俺は無敵だぜ」


「おい、動くぞ」

JPはホセの下ネタをスルーして注目する。下の2人にもう1人、この前見た身体能力が高い奴が合流したのを見たのだ。前回の活躍でJPはコイツの事が妙に引っ掛かっていた。


――――――――――――――――――――――――――


 立ち往生中のジョシュ達に何故かノーマークでシュテフィンが合流する。Zがこちらへ寄ってきてるのを教えた。



「チッ、とっとと雑魚でもいいから生け捕りにして尋問は帰り道の船でやるか……」

 徐にジョシュがグレネードに最後の催涙弾を装填する。コイツで事態を動かしに掛かった。


「旦那、ステ、催涙弾でバスの中の奴ら燻り出すから飛び出したら狙ってくれよ」


「グレネードで打開か……おし、やれ」

 ジョシュの提案に一瞬考えた後に嬉々としてトラビスが賛同する。ARをジョシュに渡し、バレットを取り出し構える。


「上手く行けよ……」


  祈るようにランチャーを水平にしてバスに向けて撃つ。見事に窓を割り、バスの中にガスが充満する。

 同時にバス周囲の兵士達が一斉に反撃を開始した。


 バスの前に立ちはだかった兵士の防弾アーマーにバレットの弾がめり込んで抜ける。だが断末魔の銃撃でトラビスの腕を銃弾が貫く!


「ぐぁっ? !」


「旦那? !」

 シュテフィンがとっさに庇うもそれをコンテナの兵士が狙う! その瞬間に兵士の身体は銃ごと貫通された。オルトンの狙撃であった。


「ステ! 旦那を下がらせろ!」

ARを乱射しながらジョシュが叫ぶ!


「大丈夫だ、弾ぁ貫けてる」

そういって腕に止血帯代わりにタオルを巻き腰溜めでバレットを撃とうとする。


「無茶しない! つーかバレット貸して! 俺が撃つからハンドガンで牽制よろしく」

ジョシュが強引にバレットもぎ取り、グロックを渡す。


「チ、まぁ、これなら楽か」

そういってグロックを連射するも反動が響くらしく、顔をしかめる。


 すると耐え切れなくなったのかバスのドアが開く。兵士2名が先頭になり、銃を乱射し牽制を始め出す。その後ろに目をしばつかせたエミューロとアンリが転がり出てきた。


「あれのどっちかだな? !」

ジョシュがバレットで兵士を排除に掛かる。しかし一発撃った直後、遊底が戻らなくなった。弾切れだ。


「げ、弾切れか」

ジョシュが弾切れのバレットを見たその途端に3人の兵士達が一斉に突撃してきた。


(ヤバイ!)

 ジョシュが脇のホルスターのM945に手を伸ばす。……


 ”ドォン”


 それよりも早く反応したシュテフィンの両手に収まったレイジングブルが轟音を放つ。先頭の兵士の防弾チョッキに当る。余裕の笑みを見せた瞬間にそれが驚愕と絶望の表情に変わった。

最大級の高火力が地上最高クラスの運動エネルギーを生む。その威力を纏った弾頭は防弾チョッキの防護能力を上回る貫通力を発揮する。防弾チョッキごと兵士の心臓を背中まで貫く。……


 その後ろにいた兵士はオルトンの狙撃で頭が吹っ飛ばされた。横っ飛びで避けた兵士もレイジングブルの餌食になった。


「ステ、訓練の成果出てるじゃねぇか!」

トドメを差したトラビスが興奮気味に叫ぶ。だが、シュテフィン本人は信じられない顔をする。


「やっと当った……」

そう呟き、硝煙ガンスモークが銃口から上がるレイジングブルを握り締めた。そして力なくその場でへたり込んだ。……


「ステ! 旦那を頼む! 俺は逃げた2人を追う!」

 ジョシュはARを背負い、M945を構えて走り出す。すぐさま2人の姿は見えたが向こうから黒のSUVが走ってきた。


「アンリ様! こちらに!」

SUVが急制動をかけて2人の前に横付けに止まった。運転席の兵士が叫ぶ。


「早く此方へ!」

エミューロがスライドドアを開けてアンリに入るように急かす。走り込んで来たジョシュのM945がその背中に狙いを定める。威嚇するように叫ぶ!


「動くな! 銀の弾丸でぶち抜くぞ」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

それでもアンリは恐慌状態で車の中に必死で飛び込む!


「がぁぁぁぁっ? !」

M945が火を噴き、アンリの右肩と背中に2発の弾丸を当てた。獣の様な悲鳴を上げてアンリが後部シートに倒れこむ。同時にスライドドアが自動で閉まり始める。


「貴様ぁ‼」

 激高したエミューロが脇のホルスターからワルサーPPKを抜いて応戦する。ジョシュは横っ飛びに転がり回避しながらM945を連射する。ところが2発ほど撃ってまた遊底が元に戻らない!

思わずM945愛銃を見つめる。……弾切れだ。……


「この塵屑ゴミクズがぁ‼」

エミューロの銃口殺意がジョシュに向けられる。……


(ちっ、ここまでか)

銃口を睨みつけながらジュシュは覚悟を決めた。



 ――――パァーン!――――


発砲音と共にエミューロのPPKを持った右腕が肘から吹っ飛ぶ。その弾痕はSUVのドアに食い込む。エミューロは無くなった自分の右腕から噴出す大量の血を呆然と見つめた。


 ジョシュは横を向いた。建物の上で朝日に照らされながらバレットを構えて立つアニーワルキューレの姿を見た。……



 ―――― あぁ、コイツこんなに綺麗でおっかなかったんだな……内心感じた。――――


 気を取り戻したエミューロは失血で顔面蒼白になった。何かを取り出そうと左手を腰に伸ばした。その一瞬の見逃さずジョシュは素早く横っ飛びで転がり、ARを構えると眉間を打ち抜いた。


 エミューロが頭の後ろに脳漿を撒き散らしながら膝を折った。力尽きて倒れると同時にSUVが急発進して蛇行しながら逃亡を始めた。


「ちっ!」

逃亡を阻止すべくタイヤに向かいARを連射するが悉く外れる。


「くそったれがぁ!」

弾切れになったARを片手にジョシュが叫びを上げる。屋上でオルトンとアニーがSUVに追撃を掛ける。回避行動と建物に阻まれ、悉く外れて完全に見えなくなった。……

 

 朝の10時ごろに6人がピースク島の港に帰還する。ウォルコットとガモフ達が港で出迎えた。すぐさま、ダンとハルトマン先生が大丈夫だって! としか言わないトラビスを診療所に強制連行して行った。


 オルトンとジョシュ、アニー、シュテフィンは事務所に行き、情報の整理を始めた。


「目的のマーティの奪還は叶わなかったのですね……」

出迎えたウォルコットが残念そうに呟いた。


「連中の頭と見られる奴を負傷させたものの、取り逃がしたのは痛いな……」

疲労困憊でジョシュが肩を落とした。洗面所で手についた返り血を洗い流す。


「あの土壇場で此方も弾薬が底をついてる状態ですからね。あの戦力差と装備で参加者が揃って戻って来れたのが幸運だったかもしれない」

オルトンは椅子に腰掛けてペットボトルの水を飲み干す。最悪の場面を思い返してぞっとする。……


「皆さんごめんなさい。ウチのマーティの所為で危険にさらしてしまって……」

ソファに腰掛けてアニーは小柄な身体を更に縮こまり、泣きそうになりながら詫びた。


「マーティの件が有っても無くてもあそこで勝負かけなきゃ、今晩にでも襲撃されて何処かの島が落とされてたかもしれない。それに米軍が当てにならない今、俺らで拉致被害者の奪還しないと……」

ジョシュはついでに顔を洗いキッチンペーパーで拭きとる。そして絞り出すようにアニーに声を掛けた。


「ただ、弾薬も少ないままでは防衛もままならないですけどね」

頭を掻きながらウォルコットが困った顔で呟く。思い付いたようにジョシュが尋ねる。


「ウォルさん、市内に貴金属店やアクセサリーショップはどのくらい有ります?」


「さて……個人経営なら2〜3店、モールに5店舗ぐらいでは?」

記憶を辿りながらウォルコットが答えた。


「アニーのバイト先に弾薬充填機有ったな?」

即座にジョシュは沈痛な面持ちのアニーに尋ねる。


「うん、2台有るよ?」


「薬莢と雷管、火薬、弾頭はどの程度有った?」

半ベソ状態ながらアニーは記憶を辿る。


「正確な量は分からないけど、全部5ケースは有ったはず」

アニーの答えを聞いてウォルコットに向かいジョシュが提案する。


「ウォルさん、昼に貴金属店と銃砲店に行って銀製品と弾薬素材、充填機を調達したいのですが?」


「単独でですか?」

単独では厳しい。故に複数と思ったがウォルコットはルール上尋ねた。


「出来れば、中型船でロック爺さん、班長、ステ、ダン兄で回りたいですね」


「承認します。オルトン、如何です?」

即座に承認がでた。申し分のないメンバーだ。そしてオルトンの同意を求めた。


「私はOKですよ? 今すぐ寝かせてくれるならね。ステは?」


「今すぐ寝ます。起こさないでね」

オルトンに振られるとシュテフィンはそう答えた。途端にその場でいびきをかき出した。


「というわけで俺も寝ます」


 そう告げるとジョシュはそのまま机に顔を埋めて眠り出した。


――――――――――――――――――――――――


 ジョシュ達が島へ去った後、JP達が避難所の戦力分析を始めていた。次回に出番があるからしれないのだ。


「とりあえず、あの中に教会員がいる事はまず間違いない」

観戦中我慢してたのか、すっきりした顔でホセがトイレから出てきた。


「多分、エミューロやった若い奴がそうだろう。数人の撃たれた跡が銀の弾頭ぽいからな。ともかく後で近くに行って調査するぞ」

双眼鏡で遺体の銃痕を見ながらJPはそう指示した。


「JPの言ってた教会員だけど思ってたよりも弱いね? もっとこう……アメコミヒーローばりかと思ってた。橋で救助に行った奴が近いと思ってたけど……意外にヘタレだった」

 エディは笑いながらジョシュとシュテフィンを評した。そこでホセにお前も相当ヘタレだけどなと突っ込みいれられた。


「ああ、多分、両方とも新兵か雑兵だろう。装備はバラバラ、動きも射撃も雑だ。これが上級クラスならアンリは逃げ切れなかった。…………下手すれば俺達も見つけられてたかもな……」

JPはそう分析し、自分の脇の甘さを痛感し眉間の皺を深くする。すると、緊急用イリジウム携帯が鳴り出しJPが応対に出る。相手はアンナだった。


「JP? 何、アンリが撃たれてヤバイの? 医者と薬剤を載せた救急車が大急ぎで出てったわ」


「ああ、先程撤退したよ。避難所相手に教会員が紛れ込んでたみたいだ。相手をしたエミューロが戦死、クリスも負傷してマーカス達が移送して行った」


「え、そうなの? あら……惨敗したのね……」

それを聴いたアンナは電話越しに溜息をつく。


「とりあえず、俺達が還るまで内密で頼む」

情報は鮮度が一番、口止めをして帰り支度に入る。だが、次の情報で事情が変わって来た。


「了解、それとアンソニーが動き出しました」


「なに? ! それで?」

アンナの情報にJPは目を剥いて聞いた。


「アンリ管理下の収容所に査察に入りました。査察理由は報告人数と実態が違うと……今、トーマスに張り込んで貰ってます」

報告を聞いたJPは驚愕した。まさかアンリの留守を狙ってたか。……


「了解だ、召集があったら適当に誤魔化してくれ」

ホセ達を急かしてJPは移動を始める。


「畏まり、東海岸の各都市にが出没しているらしいので気をつけてね」


「OK,ありがとう、直ぐ戻る」

電話を切るとホセとエディに内容を伝えた。


「マジか……流石バートリー、やることにそつがねぇ」

ホセが少し驚いたが直ぐに感心する。


「エディ、俺のフォードに乗れ、飛ばして還るぞ」

JPはエディに指示すると困惑した顔でエディが答えた。


「俺のタコマは?」


「置いてゆけ、また新しいの一緒に探すぞ」

エディの残念そうな顔を見てホセが慰める。


「ともかく、勝ち馬に乗り遅れるとまた冷や飯食いだ。急ぐぞ」

 不審な武装集団が教会なら近い内に大規模戦闘が始まる。そこで生き延びて手柄を立てればアンリより上の役職につけられる。さっさと根回しと準備しないとこんなチャンスは早々ない。2人を急かしながら、JPはオフィスを飛び出した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る