成果

 真剣な表情でウォルコットが青い旗を高々と揚げる!

それと同時にローデスがドラムをゆっくり1・2・3とリズムを刻む様に大きく叩く!

一斉に海岸線に居た避難民が胸に手を当て、歌声を上げる。

誇り高い自由の国、そこで生きる生者の歌声を!



 "おお、君にも見えるだろうか? 夜明けの薄明かりに、我々は誇り高く声高に叫ぶ!


 危難きなんの戦いの中、城壁の上に雄々しくひるがえる太き縞に輝く星々を!


 砲弾が赤く光を放ち、そらで爆弾が炸裂する中、我等の旗は夜通しそこに翻っていた!


 ああ星条旗はまだたなびいているか? 自由の地、勇者の故郷の上に! "


  シュテフィンやトラビス、ダン達はトレーラーに乗り込み手を胸に当てる。

……桟橋の上ではアニーやジョシュ、オルトン達も銃を片手に胸に手を当てていた。

JP達でさえ胸に手を当てマンションの屋上で神妙にする。


  国歌が終わると同時にそこら中で大歓声が上がる。

アメリカ国民なら大概テンション上がる鉄板のシチュエーションだ。

連動してトラビス達が大型トレーラーのエンジンを掛け、作戦開始の狼煙を上げた。

一方、傍観者であるJPやホセは光景と次に何が起こるか予想して、顔を見合わせニヤリと笑った。


 ――――そう来たかと――――


  JP達、吸血鬼達でもZ発生当初はパニックに陥った。

だが、Zが何故か吸血鬼を襲う対象として認識しない事が判明する。

その途端に指導階級の眷属達は自分達の生活を守ることに重視し始める。

増え続けるZに対する観察や研究は適当にするのみ部下に丸投げだった。


 そのような状況で、下級の吸血鬼一般階級であるJP達は拉致した避難民を護送し、迫って来るZを駆除していた。

現場での活動でZの知識は培われている。

だが、その習性をこうして応用するとは思ってもみなかった。


「ここの避難所の運営はスゲェな」


 お気楽に双眼鏡片手のホセがソーダを呷りながら感心する。

静かに双眼鏡で観察しながらJPも同意した。


「あぁ、敵に回すと厄介そうな相手だな」


「でも大型トレーラー動かしてどうするんだろ?」

先遣隊を見ていたエディ運転担当が疑問を投げかける。


「まぁお手並み拝見だぁな」

ソーダ片手のホセがニヤニヤと楽しそうに答えた。


 一方、封鎖班はトラビスが乗ったトレーラーを先頭に、島が見える所まで来た。

そこでトレーラー群が連なって待機する。

後ろの撤収用のミニバン2台には援護のメンバーが乗っていた。


 そこにトラビスからメッセージが入る。


 "2度目の国歌が聞こえたらまず、俺とダンで縦に通路を封鎖する。その後、ティムとステで通路を塞ぐ。車から降りたら離れた所でタイヤを狙いバーストさせて固定しろ。。橋を蓋したら皆でとっととずらかるぜ。"


 全員の返信を待たずに国歌が再び歌い始めた。

するとトラビスの車両の助手席から護衛の団員が降りて来る。

次々に後方車両にスタートを告げると後方のミニバンに引き上げられた。

エンジン音が響くとトラビスのトレーラーが発進した。

その後を間髪いれずにダンのトレーラーが続く!


「さて、うまく行けよ……」


トラビスの呟きと車のエンジン音に歌声が被る。

トレーラーを右折させて橋に進入する。

橋の上をみた途端トラビスが舌打ちをした。


「ちっ、なんてこった……」


 侵入した反対車線、ダンの担当車線にはダンボール箱が道路一面に散乱していた。

しかし、もう既にダンは真後ろについている。


「な、なんだこりゃ」


自分のトレーラーが進入し、見えた風景にダンは愕然とする。

それでも最初の2、3箱はステアリングを巧みに操作しスラロームして回避する。

だが、4箱目は右前輪でモロに轢いてしまった。

……中身はベビーローションだった。


「なんだ?! うぉぉっ!」


 質の悪いコメディのようにローションを巻き上げたタイヤが滑る。

コントロールを取り戻すべく、必死でダンはハンドル操作をする。

だが、やはり横転してしまった。

そして運が良いのか悪いのか、車体は歩道も含めた橋を塞ぐ形で横転した。

向こうにはトラビスと横転した車両にダンを残したまま……。


 その後、ティムとシュテフィンは手筈通りに橋を封鎖した……。

車を止めた後、血相を変えたシュテフィンが橋側へ降りて救出するべくベレッタを握りしめて走り出す。


 トレーラーを止めたトラビスが運転席から島側をふっと見る。

そこは亡者が所狭しと蠢めき、飢えや傷みに嘆き叫ぶ冥府の世界だった。

……その一部が生ける者の音を聞きつけ此方に向かって来ていた。


「げっマジか!」


 身の危険を察したトラビスが真っ青な顔で運転席から飛び降りた。

すぐに反対車線に飛び移るとタイヤをバーストさせる。

……しかし、より大きな音が発生し、Zが一斉に振り向き動き出す。


「ダァァァン! 生きてたら返事しろ!」


反対車線に入ったトラビスが叫びながらダンのトレーラーに向かう。

返事はない。代わりに放置してあった車から物音がする。


 ズルリ……ドサッ。


 ――――音が聞こえてゆっくりと立ち上がる影……放置車から2体のZが動き出した!


 トラビスが手持ちのグロックで先頭の1体は始末する。

もう1体は走りながらでは殆ど当たらずに直ぐに弾が切れた。

トラビスはガードレールを足場にし横転した運転席によじ登って中へ入る。

その中でダンが目立った外傷は見当たらない状態で気絶していた。

すぐさま腰に差したナイフでシートベルトを切り放し、ダンの頬を景気良く張る。ビンタする


「う、旦那ッ?」

「動けるか?」

「いてて……一応は」


痛みを訴えながらダンが返事をする。

その2人の視界にはフロントガラスに突っ込んでくる1体のZの姿があった。

……フロントガラスにその手が伸びる。

トラビスがナイフを構えた直後、真上から天啓の如く銃声が複数回響く。

その連射で頭を粉砕されたZがガラスを割り飛び込んできた。


「うぉぉぉぉおぉ? ステ?! お前!」


 トラビスとダンが銃声の方へ振り仰ぐ。

横転した運転席の上でぜぇぜぇ息を切らすシュテフィンがいた。

その手に握られたベレッタ92Fは遊底をスライドさせて弾切れを起す。

近寄るZを連射で排除したのだった。


「あー、あぶなっ……、僕の任務が終わったのでに移行ってね。射撃は素人なんでとっとと上がって来て下さいよ」


そういいつつベルトに空のベレッタを差して2人に手を伸ばす。


「ダン、先行け」

「うす!」


シュテフィンの華奢な筈の手がダンを軽々引き上げる。

ダンが今度はトラビスに手を伸ばす。


「旦那!」

「‼」


トラビスが手を伸ばし2人が腕を掴んで引き上げる……。


「グヌヌヌ」

「旦那! 明日からダイエットしてくださいよ!」


トラビスは流石に重いのか2人で何とか引き摺り上げた。


「ふぅ」


 危機的状況を脱したと思ったシュテフィンが額の汗をぬぐう。

しかし目前にはZが群れで迫って来る。

その余裕に肝っ玉が据わっているのか現状認識できない単なるバカのかトラビスが困惑した。


「一息ついてる場合か! タイヤバーストさせてばっくれるぞ!」

「う、うす!」


尻を叩くトラビスの激に2人が反応するも、ダンは未だにふらつき気味だった。


「ステ! ダン連れて引き上げろ。俺はタイヤ潰す!」

「はい!」


ダンに肩を貸しながらシュテフィンはトレーラーに向かう。


 バスン! と2回、後ろで破裂音がした。

そしてドタドタと近づくトラビスの足音が聞こえた。

その瞬間、周囲に耳障りな異音が響く!


ガッガガッ――


 何かを引き摺る音が聞こえた。

トラビスは立ち止まり振り向こうとする2人に後ろから一喝する。


「何チンタラしている?! とっとと走れ!」


トラビスの怒号が2人の背中を押す!

シュテフィンが乗ってきた車両に辿り着き、運転席のドアを開く。

その向こう側で銃を構えてフォローに入っていたティムが待っていた。


「待ってたぜ! さっさとずらかろうぜ」


 シュテフィンがふらつくダンをシートに押し上げると、トラビスが追いついてきた。


「お前らの言ってた事、ガチだったんだな……まさかトレーラーをも押してくるとは……」

「信じてなかったんすか?」

「信じてたけれども、目の当たりにするとな……改めて実感する」


トラビスは苦笑しながら後ろの車両の動きを注視する。

まだ数センチ単位で車体が動いていた。


「旦那もステも早く!」


 ティムに急かされて2人は運転席を必死で抜ける。

向こう側に出ると移動用のミニバンが横付けされ、直ぐに移動できるようになっていた。


 シュテフィンは運転席側のドアをロックし、こちら側のタイヤをバーストさせてミニバンに飛び乗る。


「ダン、大丈夫か?」


 トラビスの問いかけに親指上げてダンが笑いながら返事する。


「2度ほど『あ、終わった』と思ったよ。そしたら、1度目は髭面のオヤジに叩き起こされ、2度目はその髭オヤジとセットで喰われる所を優男やさおとこに救われる。……今度は金髪巨乳のホットパンツのおねぇちゃんが来たら打ち止めかな?」

「バカ言ってろ!」


そういいつつトラビスが笑顔で突っ込む。

しかし安堵の息を吐く間も無くシュテフィンから上申があった。


「ウォルコットさんに封鎖成功報告ついでにダメ押しの斉唱して貰いましょう。あれではじきに突破される」

「よしきた」


 直ぐにウォルコットに成功の連絡を入れる。

暫くの後、大歓声と共にトドメの国歌が歌い上げられる。

最後尾の車両で島の状況を見ていたティムからZが島に戻りつつある報告が出た。

封鎖班全員からも歓声が上がる。

トラビスもほっとするが、全員に気合いを入れなおす!


「おら、次の輸送任務本番が待ってんぜ! 気ぃ入れなおして掛かるぞ!」

「うす!」


疲労も見せずに返事するチームに内心、感謝するトラビスだった。


 その行動をJP達は双眼鏡で一部始終を観察していた。


「へぇ、大型トレーラーで封鎖か……トレーラーごと爆破しちゃえばいいのに」


作戦の疑問をエディが口にした。


「ガソリンは爆破には使いたくないのだろう。貴重な資源ゆえにな」


そう指摘をJPはしつつ、2人を救いに動いた男が気になった。


(身体能力が高そうには見えないのに運転席に一蹴りで飛び乗る。大人の男を片手で引き上げる腕力は我々吸血鬼並みだ。しかし同族にしてはこの日差しでサングラスはしていない。……何者だ?)


考え込むJPの隣でソーダを呑みながらホセは能天気に観戦していた。

見かねたエディが2人突っ込む。


「あのですね。もうそろそろおいとましないと連中が来ちゃうんじゃ?」

「そうだJP! さっさとバックレようぜ!」


ソーダのボトルを投げ捨てたホセが同意する。


「あぁ、そうだな行くか」


 思考をやめて逃亡に取り掛かる。

何れにせよ高い確率で武器は向こうに渡った。

後はどう使うかは相手次第だとJPは切り替えた。


――――――――――――――――――――――――


「ん?! また車のエンジン音が聞こえる」


桟橋の前の交差点で警戒中のジョシュが呟く。


「今度は私も聞こえたけれど……トラビスさん達じゃない?」


同じく隣で警戒中のアニーが答える。

回収班は桟橋付近で待機しつつ周囲を警戒する。


「ん……違うな、音が離れていく」

「それが判るってのが凄いわ」


その聴覚にアニーが呆れたように感心した。


「とにかく、班長が言ってた様に警戒しないと……この状態の街に誰かが居る。若しくは居た事は間違いない」

「了解」


ヤレヤレと言った感でアニーが答える。

桟橋の方からオルトンがAR-15を片手にやってきた。


「トラビス達が成功してトラックに乗り換えて此方に向かっているから……ってどうした?」


ジョシュの報告を聞いたオルトンもまた同じ意見だった。


「確かに、生存者なら此方に接触するのが当然の行動だ。それが立ち去るのは有り得ない」

「ですよね。とりあえずは警戒するのと不審な車を見つけたらボンネットを触って確認しないと……」

「は? なんで?」


アニーはジョシュが言ったボンネットを触る意味が判らなかった。


「移動してきた車なら暫くはエンジンが暖かい。罠で爆発物が積まれてるかもしれんし、近隣に何らかのアジトか何かがあるのかもしれん」

「へぇ……刑事ドラマみたいね」


理由を聞いたアニーはまともに感心する。


「とりあえず各班に情報共有して片っ端から調査させよう。二人はもうしばらく見張りを継続してくれ」


オルトンは踵を返し、2人を置いて急いで待機中の班の所に駆け寄る。

数分後、輸送用トラック数台に分乗した封鎖班が戻ってきた。


 笑顔のトラビスがトラックから降りると近くに居たジョシュとアニーが駆け寄ってきた。


「任務成功お疲れ様、トラビスさん」


微笑みながらアニーが声を掛ける。


「おお、お嬢、ありがとよ! ステの奴が居なかったら危なかったぜ」

「マジで?」


まさかのシュテフィンの活躍にアニーが吃驚する。


「おう、まぁ、続きは後でな。お、フランク! 成功したぜ!」


そこに遅れて駆け寄ってきたオルトンとトラビスはガッチリ握手した。


「さて、資源回収するぞー! みんな確実に安全に仕入れていこう!」


 勢いがついたと判断したオルトンが全員に大声で景気良く指示を出す。


「「おーす!」」


 皆、釣られて景気の良い声を出す。

輸送トラックに向かうトラビスにジョシュは近寄り、先程のエンジン音とオルトンの方針について連絡する。


「マジか……了解した。他の奴らにも教えてやってくれ」

「了解、それとビール樽を見つけたら俺にも分けてね」

「アホ、それは皆で分配宴会じゃ!」

「えへへっ、りょーかい」


トラビスのツッコミを背にジョシュは手を振る。

そしてトラックに乗り込むティムを見つけて伝言しに行った。


「しかし、逃げ出すとは気味悪いな……強盗団か拉致襲撃犯か?」


輸送トラックのシートに腰掛けながらトラビスは呟いた……。


「しっかし、まぁ、他の来訪者ねぇ……」


 回収班始動後、アニーの班にやっぱりシュテフィンが合流した。

輸送トラックのステアリングを握りながら助手席のアニーからの連絡に呟く。


「ジョシュだけなら兎も角、私やオルトンさんまで聞こえているし」

「襲撃犯もうろついてるらしいから確かに気をつけたほうがいいよね」


実はシュテフィンも警戒案には賛成だった。

何故ならあの時シュテフィンも船の上でエンジン音が聞こえていたのだ……。


「あ、ここ止まって、」


 大きな交差点まで来るとトラックを停車させてアニーはドアを開けた。

すると後ろについてきたミニバンからジョシュが降りてくる。


「ここか?」

「うん、みんな、ここの十字路の周辺を探すよ!」


ジョシュの問いかけにアニーは返事と指示を出す。

支給されたガバメントを構えたジョシュは後ろの団員に声を掛ける。


「よし、手前のコンビニから調べる。後3名ついて来て」


白人と黒人の中年男性の2人がビビリながら車から出て来る。

その後ろにアニーが加わる。


「了解、後衛は任せて」


ビビる2人は兎も角、アニーが居てくれれば万全だ。


「頼む」

「おい、俺は?」


運転席にシュテフィンが取り残されていた。

周囲を気にしはじめる。


「前半のヒーローはトラックで休憩お留守番だ」


笑顔でジョシュがそう返す。

だが本人は不安らしく運転席の窓から文句をたれた。


「おいー! 襲われたらやべーだろが!」

「しょうがねぇな……すまん、誰か残ってやってくれ」

「あいよ」


その後ろに出てきた太り気味のおっさんがジョシュの頼みに志願してくれた。

銃が2丁あればチームが戻る前に処理できるだろう。


 4人が静かに入るとコンビニ店内には死体が数体、Zが1体立っていた。

見つけ次第アニーが即座にヘッドショットして処置する。

残りの死体も動き出す前に他のメンバーがハンマーで頭を破壊していた。

ジョシュは速やかにレジを乗り越え、裏にある事務所に入る。

パソコン机に山積みの商材とコルトガバメントが置いてあった。


 事務所を調べて脅威が無い事を確認した。

拾ったガバメントを腰のベルトに差し、外に出て回収を指示する。

その間、アニーはシュテフィンと周囲を警戒する。

ジョシュ達は急いで缶類に飲料、スナック類、その場に有ったありったけの品物をトラックに詰め込む。


「おし! 次!」


この行動を繰り返す。

素早く次の店に移動してはまた漁る。

これを数回繰り返してトラックを満載にし、港で船に積み込む。

各コースの集積量はかなりのものになり、港はZ発生以来の大活況でみな大忙しだった。


 そうしてアニー達のルートは最後の目的地、ハロルド銃砲店に到着した。


「ここで止めて……あれ?」


店の前に見慣れない厳つい車両SUVが止まっている。

アニーがトラックから降りるとジョシュが既に降りてきて皆を制止した。


「ジョシュ、なに? どうしたの?」


ここメイン州ポートランド市警のSWATの車、わざわざ遠くのコネティカット州で車両登録してんのか?」


銃を握ったジョシュはその厳ついSUVのナンバープレートを指差す。

その先にはコネティカットの文字があった。


「え、違うと思う。……今、オルトンさんポートランド市警に聞いてみる」


すぐにアニーはスマホを取り出すとオルトンに連絡をしだした。


「みな、車の陰に隠れて周りを警戒してくれ。とりあえず俺が車を調べる」


 ジョシュは連絡中のアニーを車の陰に引き込む。

そして速やかに車両SUVに近づき車体を確認する。


 この厳つい車体はどこかで見たことがある。

だが、今はこの車体の調査に集中する。

……ボンネットは微妙にまだ暖かい。

こいつが此処に来たんだと認識した。

車体の上も下も不審なものは無い。

戻ろうとした途端!


「ジョシュー、それ、ここのSWATじゃないってー!」


アニーの馬鹿でかい呼び声にずっこける。


「バカ? ねぇ、お前バカなの? これ、今、この状況で誰かが乗って来た疑惑の車なの! 周りにアジトがあったら俺ら狙撃されるだろうが!」


真剣に怒りながらアニーに詰め寄る。

そんなジョシュを軽くいなしながらアニーはあっけらかんと言い返す。


「それなら、とっくにジョシュが最初に撃たれてるって」


そう笑顔で返された。

シュテフィンも大概ならコイツも回路壊れている。ポンコツだ

ジョシュは内心呆れかえった。


「なんにせよ、早く店ン中に入ろう」


焦れたシュテフィンが運転席から顔を出す。


「アニー、さっさと開錠を頼む。日が暮れちまう」

「はいはい、じゃ、ジョシュ付いてきて」


アニーの先導でジョシュは店の裏口に回る。

丈夫な鉄製のドアの横に設置された箱にカードを差込み、暗証番号を入れる。


「いい?」


真剣な顔でアニーはジョシュに合図を送る。

ジョシュはドアを斜めにして立ち、2丁のガバメントを両手に持って肯く。


 アニーが勢い良くドアを開く。

……だが、何もない。

ジョシュの合図でアニーがドアから顔を覗かせる。


「大丈夫そうだね~」

「そだな、表にいる連中呼びいれよう」


店内に入ると狩猟用の装備やボウガン、弓などが展示してあった。

アニーがレジに入ると警報装置のスイッチを切る。


「表のドアを開けて、鍵は上、中、下3つ掛かっているから」


あいよと返事してジョシュがドアの鍵を外して開ける。

そこには驚愕の場面が待っていた。


「おい、ジョシュ! このSUV、メチャメチャ凄いぞ!」


トラックで待機していた筈のシュテフィンが車の窓から顔を出ていた。

止めてあった車両SUVの中を勝手に調べていたのだ。


「アーホー! 爆弾設置してあったらどーすんだ! このドアフォー!」


血相を変えて怒鳴るもシュテフィンが驚きながらドアを指差す。


「え、後部ドア開いてたぜ?!」

「それでスイッチ起爆入るのもあんの!」

「ふーん、でも大丈夫だったし~」

「付き合いきれんわ……こいつら」


アニーとシュテフィンの連続ボケに疲れ果てたジョシュはボヤキながらその中身を見てまた驚く。

ミニガン、バレットM82、ショットガンに自動小銃が数点。……それとみっちり積まれた大量の弾薬……。


「うはぁ……なんじゃこれ」

「どうしたの?」


その騒ぎに気がついて店からアニーが出て車の中を覗く。

その重火器っぷりに目を丸くする……。


「凄い……これ、一体なんなの?」

「積んであった……ん?」


ジョシュは車内ピラー補強柱横のバインダーに目をやり、そのメモを取り読む。


「なんだと……」


内容を一読し一瞬、愕然とした。

即座に胸ポケットへメモを突っ込むと外へ出た。


「乗ってきた車に店の武器弾薬をありったけ積むぞ。アニー、指示してくれ」

「え、いいけど……」


メモが気になり、アニーはそれを聞こうとするが先にジョシュに言われた。


「メモについては班長達と緊急で協議だ。後で緊急召喚してくれ。今は積み込みを急ぐぞ」

「うん、わかった」

「ステ、みんな、手伝ってくれ店の商品根こそぎ持っていくぞ!」


店の中でマチェットとかを弄くるシュテフィン達は慌てて動き出した。


 アニーの言った様にゾンビマニアの店長は伊達ではなかった。

武器は刺又、手斧、ハンマー、大型バールなど多種にわたる。

その殆どをトラックに詰め込んだ。

火薬等の資源を使わず、対象と距離を取って処理可能である。

又、人に対しても有効な共通武器を選択してあり、これにはジョシュも感心した。

銃に居たってはコルトにS&W、シグとワルサー、ライフル系のレミントン、スパス殆どの会社の銃がショーケースに並ぶ。

だが…………例の危ない専用兵器の類は持ち去られていた。


「やっぱりS&W・M945は入荷してなかったぁ……」


事務机のコンピューターで商品目録を検索しながらアニーが不満を漏らす。


「お? SIG シグP210も売ってたんだ。高精度でスゲェ良い銃だよね」


壁に飾ってあったシグを手に取りジョシュが目を輝かせる。


「高いよ?」


それを見たアニーがジト目で言う。


「この状況下で商売バイトかっ!」


銃を即座に置いたジョシュが突っ込む。


「それは冗談だけど、競争率高そうならオルトンさんに言ってみたら?」


笑いながらアニーはそう提案した。


「そうだな、グロックより明らかに精度が違うからな……人気がハンパなさそうだ」


ジョシュは惜しみながら傷がつかないようにネル地の布で包むと袋に入れた。


「じゃ、これは?」


 シュテフィンが店の奥からマホガニー製ケースを持って来る。

ケースを開くと銀色に輝く長銃身ロングバレル回転式銃リボルバーが現れた。


「んぉ? S&WのM29じゃねぇか……ダーティ〇リーの奴だ」


 ケースの中を見てジョシュが噴出して驚く。

あの44マグナム弾をぶっぱなす当時最強の銃だが、その声にアニーが振り向いて指摘する。


「それ、ただのM29じゃなくてM629、銃身がステンレス製だから型式に6が入っているの。ちなみにあんたのM945と同じパフォーマンスセンターの製品でね。高級製品だからマホガニー製の箱に入れられてるのよ」

「俺でも使えるかな?」


シュテフィンはその説明では素人ではなんだかわけわかんねぇと言いたいのを飲み込んで聞いてみた。


 するとジョシュは一瞬言葉に詰まった……。


「やめとけ、意外に腕力あるからそうそう怪我はしないと思うけど、基本技術がないからまず当らん。トラビスの旦那ぐらいだな使えるの」

「そうか……」


ジョシュのM945のようにステンレス製銀色の銃はカッコいいと思っていた。

それだけに少し凹んだ。


 だが、店の奥にあったもう1つの木箱のケースが2つあったのを思い出した。

……やたらゴツイ銀色の銃身で横に”レイジングブル”と印字してある。

あのリボルバーはカッコいい。

しかもデカイから俺でも扱え当りそうだとシュテフィン素人は思い。

また店の奥に戻っていった。


 そうして店に有った銃、弾薬、武器、装備をトラックやミニバンに積みこんだ。

こうしてアニー達は2台とSUVに乗って急いで港に戻ってきた。

もう日が暮れようとする港で中型船と連絡を受けたウォルコット、トラビス、オルトンと搬入作業要員達が待っていた。


「おいおい! おせぇぞ! 心配かけさせやがって」


赤ら顔で腕組して立ってたトラビスの怒声があたりに響く!


「ごめんなさい! 搬入に手間取っちゃって」


アニーがトラックを降りて平謝りで謝罪する。


「みんな、とにかく搬入急いでくれ。武器関係は丁寧に扱って防水には気をつけて」


そこにオルトンが近寄りながら搬入を急かす。


「それでどうしましたか? 緊急性の高い案件とは?」


報告を受けダイアモンド島から急行して来たウォルコットが飄々とした表情で尋ねて来た。

そこでジョシュは例のSUVに3人を案内した。

満載の弾薬と重火器、ボードのメモを見せる。


「これは……?」


動きが止まり、ウォルコットは渡されたメモを真剣に凝視する。


「今回の作戦前に移動してきた車両らしいです。この重火器が満載されてました。そしてここにあったボードのメモに襲撃があったアップルドアの名前と日時、拉致人数とが書かれてまして、近日にここと予定が書かれていました」


車体を調べ、メモを読んだジョシュが報告する。


「マジか……こんな装備でウチをやりにくんのか!」


トラビスも冷や汗が吹き出る程の火力が其処にあった。


「こいつはピットブルVX、ボストン市警のSWAT研修と訓練で乗ったことがあります。輸送車より小型装甲車といった方が良い性能ですよ。これならZの群れの中でも突っ切れる。ステが運転しても良い位だ」


車体を見て調べ回ったオルトンが車内を覗き込んで言った。


「こういう車は嫌いじゃねぇが……とりあえず、武器を下ろしたらこの近辺に隠しとこう」

「今は車より船ですからね」


車体を頼もしそうに見つめるトラビスの提案をウォルコットが同意した。


「船に積んで場合によっては武器コイツらで撃退しましょう。おーい、ステ!」


シュテフィンは車体にもたれて何かの説明書を熱心に読んでいた。

オルトンがそれに気が付き、武器の搬入を頼んだ。


「ほぼ、私達が狙われているのは間違いなさそうですね。ああっとジョシュ、このトラックを隠してください」


ウォルコットは近くに荷物運んでいたジョシュを呼びかける。

このピットブルを隠すように指示する。


「はい、ってどこに?」

「そこのトラックターミナルの倉庫にカバー被せておいてください。シャッターは手動で動きますから……。開けるときは

「了解です」


 ジョシュは快諾するとピットブルに乗り込む。

ウォルコットは荷物の搬入が終わったら直ちに帰還して各島々に協議に入る旨を各部署に連絡する。

搬入作業に手間取るアニー達に業を煮やしたトラビス達が手伝い始めた。


 しばらくしてピットブルをターミナルに隠したジョシュが戻ってきて搬入に復帰する。やっと搬入が全て終わりを迎えた頃には既に日が暮れていた。


「ウォルコットさん、銃器の搬入終わりました。チームも全員、船に乗りました」


 搬入でヘトヘトになったアニーが報告する。

それを聞いたウォルコットがアニーに乗船を勧めて周囲を確認してから船にスタッと降り立ち皆に宣言する。


「お疲れ様でした。さぁ、皆、還りましょう」


静まり返った人の居ない港に久しぶりの汽笛が鳴り、船が出港する。


「おい、ウォル、ピークス直行でいいか?」


行き先の確認をする為、トラビスが操舵室から顔を出した。

その下に居るウォルコットがいつもと違う不機嫌な声色で変更を告げる。


「いえ、グレートダイアモンドに行きましょう。全島代表がそこで待ってますから」

「了解」


眉間に皺が入ったトラビスは無言で舵を切り、一路グレートダイアモンドに向かった。

ダイアモンド島に着くとダン達が出迎えてくれた。


「お帰り! 無事生還おめでとう!」

「ありがとう! 成功おめでとー!」


 アニー達、参加した団員たちはお祭りムードだった。

しかし幹部3人はそのまま渋い表情で島の小さい湾岸事務所に入っていった。


「あれ? 旦那やオルトンさん達は?」


ダンは一番騒ぎそうな宴会本部長トラビスが居ないのに気がついた。

そこでトラビス達の行方を周囲に尋ねる。


「そのまんま、島々のお偉いさんたちと協議だって」


まだ熟読中の取扱説明書から目を離し、シュテフィンが答えた。


「ふーん、折角、マットにビール冷やして待ってもらってンのに……」


その会話をきいたジョシュはまさか皆で襲撃団の防衛の協議とは思ってはいないだろうな。

内心、そう思いながら不穏な雰囲気だったウォルコット達達を待つ。


 数十分後、事務所のドアを開けて3人が出てきた。


「ダァン! 船出すぞ! みんなぁ! とっととピークス島に帰るぜ!」


仏頂面で怒声を張り上げ、先頭のトラビスが指示する。


「お、おう!」


多分、我慢が限界なんだなと邪推したダンが即座にエンジンの起動準備に入る。


「ジョシュ、ピットブルのはここに置いて行きますよ」


その横でオルトンが疲れた顔でジョシュに指示を出す。


「了解、どこに置いときます?」

「とりあえずはそこの倉庫に、重たいので台車使ってくださいね」


波止場の片隅に放置してある台車を指差し、オルトンが頼む。

ジョシュが2つ返事で作業に入る。


「了解です」

「皆さんお疲れ様です。とりあえず帰りましょう」


 後から来たウォルコットの痩せた顔がよりげっそりして憔悴していた。

ピークス島から来た皆を呼び、苦笑しつつ一団に混ざった。


「ウォルコットさん、大丈夫ですか?」


流石のアニーも心配するほどの姿なのか、他の団員も談笑を控えるほどの状態だった。


「いえいえ、大丈夫ですよ。まだまだやらなきゃ行けない事が山積みですから……」


作り笑顔でウォルコットが心配させないように振る舞う。

元が貧相だけに余計にヤバげにみえた。


「とりあえず帰ったらマニエルおばさんのご飯食べて休まないと……」

「ええ、是非そうしましょうかね」


 言葉の意味とは裏腹に力なくウォルコットが答える。

出航を手伝うジョシュはその姿を見て、船尾に居たオルトンに協議の内容を密かに尋ねた。


「オルトンさん、会議の内容は芳しくないのですか?」

「ああ、武器の配置の扱いでちょっとね……」


真面目なオルトンは嘘が苦手だ。

それ故に直球の質問ほど本音が出る。


「あんだけの武器や食料をがっつり持ってきたのに?」


「それだよ。たった1基のミニガンを何処に置くか? で揉めた。扱えるのはトラビスや数名の軍隊経験者のみ、ところが一部の代表がそれぐらいならうちでも出来ると主張してね」

「最大火力を持てば襲撃されても撃退できると……?」


一般人の考えそうな事をジョシュは指摘してみごとに残念な正鵠を射た。


「そういう事、で、これは共有財産だ! と主張するトラビスが怒っちゃってね。2人私達で取り成したものの今度は拳銃を寄越せと揉めだした」


「いい銃であっても下手糞が撃てば外れるのに……メンテとかやれるのかねぇ」


それもありがちな主張にジョシュが至極真っ当な意見と疑問を呈する。

オルトンもつられて溜息混じりに愚痴をこぼす。


「みな作戦成功して気分が高揚しているから……後日、再度話し合いをするとして急遽打ち切った」


 深いため息でオルトンが首を振る。

ウォルコットも付いていてこの結果だ。

敵はかなりの難物だと推測できた。


「それなら明日にでもしないと……っていうか、足の速い船モーターボートの甲板にミニガン装備して有事の際出動すれば? 相手が海を渡る。まとまっている所船に居る時を撃沈できる……」


 ジョシュが戯言の様に呟いた。

その提案を聞いたオルトンがえっと一瞬、呆然とした後に笑顔になった。


「ジョシュ、それは素晴らしいよ。なんでそんな簡単なアイディアが出なかったんだろう……」


ポンと肩を叩かれ、ジョシュは驚いたようにデメリットを口にする。


「え、命中率かなり落ちますよ?」

「それも想定内だよ! 後でトラビスに持ちかけてみよう」


(お? 何か俺、お手柄?)


空気を察したジョシュがこの機に乗じておねだりを開始した。


「それとなんですが、銃砲店でSIGのP210が有りまして……あれ、俺にくれませんか?」


他の策を考えてたオルトンにそうねだる。

ジョシュも次の手を考える。


「え? グロックがあるでしょ? まぁ後で現物を見てから決めよう。例の件もグロックとか軽量の物が良いとか言ってたしね」


疲れも悩みも解消されたオルトンはご機嫌でおねだりに前向きな返事を返した。


「お願いします。他にもM629とか射手シューターを選ぶ銃がありますよ」


銃に関して興味がありそうと看破したジョシュが他のネタを撒いて揺さぶる。


「手首ホールドのキャラハン警部のアレ?」


ニヤリと笑うオルトンが意味深な言い回しで聞いてきた。


「そそ、Make my dayしちゃうクソShitばかり言う人のやつ」


同じくジョシュも意味深な言い回しで返す。

そして2人ともゲラゲラと笑い出した。


 一行がピークスの港に着くと避難民や居残りの団員達、皆が出迎えてくれていた。

船に積まれていた食料と武器の類は一度倉庫に運こばれる。

幹部3人とジョシュとアニーは其のまま湾岸事務所に戻っていく。


 するとマニエルおばさんがお弁当とミネストローネを作って持って来ていた。


「おやおや、みんな酷い顔して……食べたら歯を磨いてさっさと寝るんだよ!」

「「うーい」」


 皆、白々しい返事をする。

またおばさんもこれからもう一仕事有るのは判るらしかった。


「無理すんじゃないよ! 疲れたらしっかり食べてさっさと寝るんだよ!」


とりあえず苦笑交じりに出て行った。


「さて……」


「まぁ、ウォル、まてや」


ウォルコットが協議を早速始めようとする前にトラビスが止めた。


「暖かい飯食って今日の成果に感謝しようぜ」


トラビスらしくないセリフを聞いてアニーが驚く。


「久しぶりの本土だから途中で変なもの拾って食べたの?」


苦笑しがてら聞いた。

大戦果なのにこの不機嫌さがアニーは気になっていた。


「んなもん喰ってねーよ! 腹ペコなんだよ。先に食わせろや」


バスケットから定番のピーナッツバターサンドと卵焼きが挟んであるサンドウィッチを出す。

迷わずピーナッツバターサンドを頬張る。


 皆、それに習って無言で食べだす。

……香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、舌に染みるように美味い。

シンプルでなけなしの材料での食事だが泣けてくるほど美味い。


「ふぅ……ちろっと足らないけど人心地ついたぜ」

「ですねぇ……」


 哀愁を漂わせながらトラビスとウォルコットはコーヒーを飲みながら一息つく。

そしてウォルコットに懸案について尋ねる。


「さて、ウォル、ミニガンの処遇はどう提案する?」

「それについて私とジョシュから提案があります」


それを遮るように爽やかにオルトンが発言する。


「ほう? なにすんだ?」


 その雰囲気にトラビスが興味深げに聞いて来る。

オルトンは先程のジョシュの案にアイディアを付け加えた。

その船にバレットM82を扱える射手を乗せ、3人体勢で各島を回る……。


「名づけて警邏海兵隊ですね」


オルトンは一通りの説明を終えるとトラビスが質問して来た。


「今、バレット扱えるのは俺とアニーとフランクぐらいか?」


するとジョシュが手を上げる。


M82バレットなら多少は使えるよ。もちろん対人なら練習は必要だけど」

「ホントにどこで覚えたんだ? まぁいいや。船の扱いはダンとキャッスル、それにロック爺さんに任せて、ミニガンは俺とミッキーか……やれないこたーねぇな」


ツッコミついでにジョシュにトラビスが疑問をぶつける。

それも軽くスルーし、算段を整えた。


「その分、この島の警護が手薄になりますが……これは何とかなりますし、他の島々の島民達に拳銃の講習・練習も行わないといけません」


ウォルコットが懸念材料を上げる。

だが、多少は訓練用の弾薬の目途が付いたおかげで余裕もできた。


「決まりだな、明日の協議で強引に纏めてしまおう。もあるしな」

「トラビスはとりあえず冷静に、喧嘩はご法度ですよ」


誤魔化すように冷静にかつ早口のオルトンからの突っ込みにボヤキはじめた。


「しゃーねぇだろが……、俺らが必死でかき集めて来た食料を安全な事務所で酒盛りしてたらそりゃ張り倒したくもなる。これで連中のまっ黒さ加減もわかったしな」

「ちょっと、例の件ってなに?」


 先程から気になっていたアニーが問いただす。

バツの悪そうなトラビスにウォルコットがヤレヤレと言った顔で説明を始める。


「食料や民生品を各島々に人口を把握した上で配給してたのですが、北部域の責任者、幹部達が横領と権力を傘に避難民を搾取したらしいんです。実態はほぼ掴めてますがね」

「それで、毎回、やり込めようとしている訳なんだが、どうにもな……」


なぜかトラビスの歯切れが悪い。


「向こうの方は口が達者弁護士で、なんだかんだと言い包められてしまうんですよ。特にトラビスが……」


これはジョシュもアニーも納得して頷いてしまう。


「旦那、ゴタゴタ言ったら即座に眉間に風穴を開けてやれば良かったのに……」


ジョシュは言いくるめられて真っ赤な達磨状態を想像した。

そのトラビスその達磨を無責任に煽る。


「ジョシュ、洒落にならないのでホントに止めて下さい。実際やろうとして止めるの大変なんですから……」


ウォルコットのげっそりの原因はこれなのかと……これも納得した。

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