第18話 想像と違う

西崎「ケツ痛くなってきたんですけどぉ、そろそろ二時間た、なんだよ!これ!凄い都会じゃん!」


真壁「想像と違う」


関守「そ、ですね」


真壁「ミャオ族の自治区っていうからもっと寂れたところだと思ってました。それなりに街ですね」


西崎「空港のあった安順市ならともかくね、ビルも豪華なホテルもあってあまり驚かなかったけど。ここだって負けず劣らずでっけーホテルとかあんじゃん」


真壁「…で、どうするんです?」


関守「ドライバーさんにお願いしてますので…まだ目的地じゃないし」


真壁「もっと奥地ですか?」


関守「格凸河風景区ってとこで、国家的な風景名勝地なんでアクティビティとか一応観光地化してます。その辺りの宿ってことでお願いしてました」


西崎「さっきのでっけーホテルでも良かったんじゃない?」


関守「まぁ、なるべく近くの方が便利なんで」


西崎「そだけど…」


真壁「着いたようですね」


《バタン》


西崎「ビミョー」


真壁「文句言わない!ちょっとした旅館じゃん。ちゃんとベッドだし、それなりのホテルだよ」


関守「思ったより立派ですね。じゃぁ早速…」


西崎「ちょっと休みましょうよぉ」


関守「お茶しながらお話しましょう。空港でお菓子も買ってきてるし」


真壁「流石!で?」


関守「これです。お兄さんからは世界二位のカルスト洞窟のミャオティンに潜入調査するように指示が出ています」


西崎「ミャオちゃん?」


真壁「だから!あれ?以前にテレビで観た気がするんだけど、ミャオティンって場所も秘密にされてて立ち入り禁止なんじゃなかったでしたっけ?外国人はもとより中国人でさえもダメとか?!」


関守「はいぃ、当局からの許可無く立ち入りは禁止です。一応、詳しい場所の公表はされていません。でも観光地の格凸河風景区の中の小穿洞景区エリアにあることは分かってるので可能な場所を観光しながら探しましょう。その後のことは見つけてからってことで…」


西崎「それじゃぁ無理なんじゃないっすか?今日はもう疲れたからゆっくりしていいんでしょ?お腹も空いたし。そーいえばこっちは北京より暖かいっすね」


関守「北京よりはかなり南ですからね。この辺りの気候は一年を通して安定していて過ごしやすいようですよ。今日のところはホテル内のレストラン?で食事しながら話の続きをしましょう」


西崎「やたっ。気候もいいし、ご飯も美味しかったらずっとここで暮らしてもいいな」


真壁「おまえには無理っしょ」


いずれ世界遺産になるかもしれないカルスト地形の格凸河風景名勝区は中国でもA級の景勝地であり苗庁(ミャオティン)はその中に存在する。


空港のある最寄り都市の安順市からは約80kmの山の中。三人は飛行機を降りてからタクシーで約二時間で到着。


南方に位置し年間を通して安定した気温・気候なので山間部が好きな人にはビーチリゾートなんかよりも過ごしやすいかもしれない。


中国の地方都市の近代化も急激に進み、空港のある安順市はもとより、ミャオティンのある紫雲ミャオ族プイ族自治区でもそれなり普通に街の様相で、三人は自治区という響きから寂れた田舎の集落を何となく想像していたから少し肩透かしの感覚だったが、宿がそれなりに立派だったのどうでもよくなった。


ピンスポットでのミャオティン自体は非公開とされているが、カルスト地形の周辺全体としての格凸河風景名勝区は断崖絶壁の山並みと川の山水画のような見事な景観で観光スポットとして大々的にPRされてもいる。船下りなどのアクティビティや現地民が安全器具も使わずに素手だけで断崖絶壁をよじ登っていくスパイダーマンショウなど見事に観光地化していた。

そのため周辺にはそれなりの宿泊施設やお土産物屋などもあったのだった。


三人はとりあえず今日明日のところは普通に観光客として地元の空気に慣れることとし、加えてミャオティンの位置関係をそれとなく探る作戦としていた。そう簡単には特定出来ないということを前提に。

ところが特定のそれはそれ程苦労は無いようだ。


現代の文明の力であるスマホのアプリを使えば衛星画像で正確な地形は丸裸であり、既に真壁は道中検索しまくっていたから何となくの場所の絞り込みが出来ていた。

しかも関守のスマホには真壁兄から決定的なデータが送信されてきていた。例のバスの運転手からミャオティンまでのカーナビのログデータを今先程受信していた。

一方、西崎は古典的な手法で位置を特定していたのだった。宿に着いて間もなく食事をしたあと、宿の周辺を何となくブラブラしていたときに出会った背中に幼子をおんぶして子守りをしている小学生の少女とおしゃべりをしながらそれとなく聞いたらあっさりと教えてくれた。言葉は上手く通じていたのかは定かではないが、アプリで地図を見せたら指差ししてピンを立ててくれたのだった。お礼は日本から持参してきていたキャラクターの形をしたグミ。大層喜んでくれて、良かったら直接道案内してくれるとも言ってくれたが今日は子守りの手伝いがあるので明日以降で。

とりあえずの今日明日の調査は本当に単なる観光となるであろう。


当局はミャオティンの場所は非公開としているが現地の人達には当たり前に知った場所で珍しくも無かったのだ。ただし、ミャオティンのある格凸河風景名勝区の「格凸」とは現地の言葉で「聖地」という意味であり苗庁(ミャオティン)は「龍の巣」という意味であるから場所を知ってる現地民であっても気軽に立ち入る場所ではない。


テレビでも紹介されているのでミャオティンの洞窟の入口がどんな様子なのかは分かっている。洞窟の幅いっぱいの川が流れているので船でなければ洞窟の中には入れない。当局は調査のためと治水のため、ミャオティンの入口にはしっかりとコンクリートで護岸工事がされ、船着き場とダムも整備されている。当然そこまでの道路もしっかり整備されており川沿いの断崖の道路なので道幅こそ狭かったが全線しっかり舗装もされていた。

それならば普通に観光客も車で簡単にミャオティンまで行けそうだが、ミャオティンに伸びる道路の遥か手前にはバリケードのある検問所のような施設で人の出入りを厳重に監視していたのだった。

この先には何か重要なものがあるということが誰の目にも明らかであり、ある意味バレバレなのであった。


三人は、まぁ、とりあえず食後の運動も兼ねて暗くなる前に少し出掛けることとした。

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