第9話 火事場の馬鹿力

真壁兄「それでな、その情報によると鍼治療らしいんだ」


真壁「ほぅ、鍼治療で元気になってメダル総なめしたってこと?でも限界があるでしょ?そもそものその人のポテンシャルっていうか他の選手を上回る実力がなければメダルは獲れないよ」


真壁兄「そう!だからそんなもんじゃない。鍼治療で肉体改造だよ。肉体改造っていうか、リミッター解除って方が適切かな?人間ってとっさの場合はいつも以上のパワーが出るって言うじゃない?」


真壁「リミッター?火事場の馬鹿力ってやつ?」


真壁兄「火事場の馬鹿力!そう!それだな!」


真壁「でもそれって一瞬とか一時的なものじゃないの?」


真壁兄「普通はな。でもその力を持続できるようにする治療法があるらしいんだ」


真壁「嘘ぉ?今回の中国人オリンピック選手達はその特別な鍼治療してメタル総なめにしたって?本当にそんなことできるのかなぁ」


真壁兄「にわかには信じられないよな。でもテレビとかでオリンピック観戦していて何か感じたことなかった?違和感とか」


真壁「うーん、メダル総なめしてポディウムに並んでいる顔が全て中国人だったのは違和感って言えば違和感だったかなぁ」


真壁兄「あはっ、まぁ、そしてその表情とかどうだった?何か思わなかった?」


真壁「あぁ、そー言えば普段から仏頂面が多いと思ってたけどより一層仏頂面っていうか覇気がないというか表情が無いっていうか何となく死人みたいだったっていうか…」


真壁兄「な!そうだろ?やっぱ皆そう感じてたんだよ。競技終了直後のまだ息が上がってハァハァいってるときでさえ無表情に見えたよ。当然メダリストには記者の人がインタビューしたりするでしょ?でも中国人選手達は競技が終わったらさっさと控え室に戻っちゃって一切出て来ないし、よくよく見返してみると開会式や閉会式にも出てないんだよ」


真壁「まさかぁ、開会式も閉会式もテレビで見てたけど中国もちゃんと並んで行進してたよ」


真壁兄「ちゃんと見てないなぁ。確かに大人数が行進してたけど全員揃いのユニフォーム着てしかも何故かテレビカメラで選手達の顔とかアップで一切撮ら無いようにしてたみたいだから無理ないけど、行進してた連中は中国人選手団のスタッフ達だったんだよ。選手達本人は一切出ていなかったんだ」


真壁「マジで?そんなことあんの?全然気付かなかったよ」


真壁兄「何か怪しくない?」


真壁「確かに…で、それと鍼治療と?伊藤先生と?何で?」


真壁兄が入手した情報では、中国の選手達に鍼灸治療を施して肉体的な限界ギリギリまで能力を発揮させたというものであった。

常には身体を保護するためにリミッターがかかっており、いわゆる「脳中枢による抑制」により持ってる能力の80%程度しか使っておらず、それが緊急時にはそのリミッターが外れて火事場の馬鹿力を発揮できると言われている。

それがある方法により肉体的な限界まで能力が発揮できるらしい。オリンピックに出場するくらいに鍛えられている選手ならばその秘めた能力は相当なものであろう。

しかしながらそれは身体を容易に破壊してしまう表裏一体の手段なことは想像できる。

多分、たった一回のオリンピック出場で選手生命は終わってしまうだろう。そこまで人生を賭けられるであろうか?


競技本番以外はなかなか表舞台に姿を現さなかった中国人選手達であったが、よくよく調べてみると、オリンピック出場に本命視されていた選手達よりも、選考で落ちそうな二番手三番手のギリギリな選手達が多かった。

それらギリギリな選手達が見事にオリンピックの出場権を得て見事にメダル獲得していたのであった。


ただし、そのことと関係があるのか明確ではないが、それら選手達を知る家族や友人や後援者などは明らかな異変に気付いていた。ある時期を境に全くの別人と言っていい位に様子が変わっているらしい。

オリンピックの予選が始まる数ヶ月前くらいにそれは始まった。

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