このテンプレ世界に紛い者と無力者《テンプレート・イレギュラー》

出無川 でむこ

プロローグ



生臭く、鉄臭く、頭が痛い。


そんな嫌な異臭が鼻につき、意識が戻る。


腕も足も動かなかければ、体も動かない、すごく重く感じる、とても寒い。

目をゆっくりと開くと、意識が朦朧する中で次第に意識がハッキリして視界も見えてくる。

映る光景は、レンガで出来た固い床と何処か分からないが部屋は薄暗かった。


その隣には見知った少女が横たわっている。

燃ゆるような赤髪は変わらず、透き通った白い肌は何時もよりも青白かった。

いつもの無邪気な笑顔の彼女の姿はなく、輝いていた目は光が失っていた。

彼女の顔を手で頬に触れようとして確かめようとするが、力なく自分の手が崩れ落ちる。

そこで生暖かいものに触れる。

再び力を振り絞り、自分の手を見る。

手には赤い液体が付着していた。

そして、再び少女の方をよく見ると


目に映る世界は彼をどん底の淵に落とすのに十分だった。


ああ、なぜこうなってしまったんだ。

どこで間違えたんだ。


―やめてくれ


どうしてこうなった。


―違う、ちがうちがうチガうチガウちガウチガウ!


もし、これが終焉カタストロフィの仕業なら。


―ありえない、ありえないアリエナイアリエナイアリアナイアリエナイ!


俺は■■してでも


―アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


君を――



「あっ・・・あ・・・ア・・・」


この瞬間、認めたくない現実を認識してしまう。

目を離したいのにに離すことは出来なかった。



少女の首から下が無く体が離れていた。



「あ・・・あああああああああああああああ!!?」


ここで意識が完全に覚醒する。

彼は少女のあってはならない姿に悲鳴をあげ、暴れ回ろうとするが、力がなく頭を上げた時に床に顔面をぶつける。

思いっきり顔面をぶつけたせいで鼻が折れ、鼻血が床にボタボタと落ちる。

少女の首から流れて出ている血は、自分の方へとに触れるようと溝に沿って流れ来ている。


「何故、何故だ!何故何故何故何故!!!」


最悪の結末、終末、終焉。


―あっちゃいけない、こんな事はあってはならない!


彼は掠れた声で訴えても、どんなに声を上げても、少女は二度と彼の名前を呼ぶ事はないだろう。そう二度と。

すると足音が聞こえる


コツコツコツ・・・


後ろから人の気配がする。

しかし、その気配は禍々しく感じる。

後ろを振り向こうとしても、体は言うことが利かない。

そして、背中の後ろから男の声が聞こえる。


「哀れだのぉ、何もできない人間たちがこうも足掻くと哀れで仕方ない」


それは聞き覚えがある声だった。

その声を聞いた途端に、感情が高ぶり、かすれた声で顔が見えない相手に向って、ありたっけの憎悪を込めて叫ぶ

今までにない感情が、ドス黒いドロドロした物が、全身を包み込むように感じがした。


「テメェエエエエエエエエ!!!!」

「所詮、無能力者は無能力者、能力が無い者が能力者に勝てるわけが無いだろうに・・・まぁ、流石にお前さんの演技には騙されてしまったがね・・・・ッフ」


殺意を込めて叫んでも男は鼻で笑う。首元に冷たく鋭い物が当たる。

それは首元に当たった瞬間、この後、自分の身に何に起こるかは予想が出来ていた。

そして、男は冷たい声で言う。


「では、さらばよ、哀れな無能力者・・・少女と共にこの時代に消えるが良い」

「ふざけ・・・る・・・な!!!テメェはぜってぇ殺す!!」


必死になって立ち上がろうとした時、突きつけられている鋭い刃が首を上げると同時に外側の皮膚が切れて血が地面に向ってポタポタと流れ落ちる。

それでも止まるわけにはいかなかった。


ふと、少女の死体が視界に入る。

その残酷な姿を見て、どうする事も出来ない自分に、ひたすら心の中で嘆き続ける事しかできなかった。

そして、彼は涙を浮かべながら手を伸ばす。


「ごめん・・・ごめんな・・・シアナ・・・守れなくて・・・力が無くて・・・」

「では、さらばだ」


彼は少女の名前を口にしながら、今まで過ごした時間と思い出が流れるように思い浮かべる。

隣にいた男は、彼に冷たい視線を向けて、剣を振り上げ、そのまま・・・。


―もしチャンスがあれば、シアナを救うチャンスがあれば・・・


「あの笑顔をもう一度・・・!」


その瞬間、視界が宙に浮かび世界が逆転する。

逆転になった世界には男が不気味に笑う姿と少女の顔に触れようとした男の身体が惜しくも触れる事ができず倒れこむ。

倒れた男と少女のお互いの流れ出た血がレンガとレンガの間に出来た溝に沿って血だけが繋がる。


そのまま、徐々に地面が迫る。

激しい衝撃と共に、彼――新垣 寅の意識が途切れる。

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