世界観設定

❉ 舞台

 日ノ国は私たちが記憶するものとは違った歴史を歩んできた日本の姿です。元号である慶永けいえいは、日本の大正時代にあたります。文明開化とともに西洋の文化が取り入れられた帝都は、一層華やかな装いとなっていました。

 しかし慶永6年、〈霊境崩壊〉と呼ばれる大災害により、現世うつしよ幽世かくりよの境界が崩壊し、幽世の〈穢れ〉が現世に流れ込むこととなりました。これにより数多の人命が失われ、現世に隠れ棲んでいた妖怪や神霊の類も消息を絶ちました。帝都である夕京が誇った栄華も過去のものとなり、廃墟や瓦礫が目立ちます。

 事態を重く見た時の政府は、全国各地にいる〈花守〉と呼ばれる巫子みこたちを呼び寄せ、幽世から溢れ出した〈霊魔〉を討伐するよう命じたのでした。


❉ 花守

 古くからその土地の霊境界を守ってきた者たちです。その家系には決まって霊力の強い子供が生まれ、物や自然に宿る神気を引き出す力を有し、立場上、土地の守り手として頼りにされてきました。その中でも特に、刀の付喪神である〈刀霊〉と契約してその力を振るう者は珍重されました。

 花守は政府によって管理され、刀は家に伝わるものを用いるか、政府から貸し出されます。花守の系図上にない子供が霊力に覚醒した場合は、一番近い花守の家へと引き取られ養育されます。

 花守という呼び名の由来は、花を人命に、あるいは国に例えたものと言われていますが、諸説あるようです。

〈追記〉魂が穢れを霊魔に堕ちるのを防ぐため、花守は戦いに出る前に自害毒を手渡されています。


❉ 刀霊

 古来より伝わる刀とそれに宿る付喪神のことです。廃刀令以後も、花守の家か政府によって管理され、必要に応じてその力を振るってきました。霊魔は刀霊の神気によって祓うことができるため、神気を引き出せる花守を主として選びます。

 霊体の姿は様々で、獣に似たものもいれば限りなく人に近いものもいます。普通の人間には見ることはできませんが、花守や霊感のあるものは存在を感知することができます。


幽世かくりよ

 天照あまてらすの威光が届かぬ闇の国、死したる者が流れ着く死後の世界です。滅びた魂はここで穢れを帯び、霊魔となります。本来であれば幽世と現世をつなぐ道は閉ざされており、各地の花守や神使がその封印を担ってきました。しかし先の《霊境崩壊》によってふたつの世界がつながってしまい、幽世の穢れとともに霊魔が現世に流れ込むこととなりました。


❉ 霊魔

 穢れを持つ滅びた魂のことです。存在するだけで現世の理を捻じ曲げ、瘴気を振りまきます。

 彼らはふつう、幽世から出てくることはありません。しかし《霊境崩壊》によって現世へと流れ出てしまい、多くの犠牲を出し続けています。彼らを祓うことができるのは、花守と刀霊だけです。


❉ 霊障

 霊魔が振りまく瘴気に侵され、魂にきずを受けることです。


❉ 剥離

 霊障によって受けた疵が癒えず、魂に穢れが溜まり、霊魔と化すことです。霊魔と化してしまったものが助かった例はありません。



❉❈❉❈❉❈❉❈ 夕京市と霊境崩壊について ❉❈❉❈❉❈❉❈


夕京ゆうきょう

 日ノ国の都です。桜路町おうじちょう区、神守かんもり区、柊橋ひいらぎばし区、禾橋のぎばし区、羽柴はしば区、朝霞あさか区、榎坂えのざか区、初谷はつや区、かこい区、欅川けやきがわ区、山郷さんごう区、翁寺おうじ区、迫間はざま区、古谷こたに区、深山みやま区の15区からなります。〔これら15区は、大正12年(1923年)時点の東京市15区(麹町区、神田区、日本橋区、京橋区、芝区、麻布区、赤坂区、四谷区、牛込区、小石川区、本郷区、下谷区、浅草区、本所区、深川区)に対応します。〕

 夕京市の東部は霊境崩壊により甚大な被害を受け、住民のほとんどが周辺地域に避難しています。

 夕京市の霊境は、朝霞、囲、山郷、迫間、深山にあり、うち迫間、深山の霊境は完全に崩壊しています。現在は榎坂に政府機能を移転し、山郷および朝霞の霊境と桜路町の防衛が最優先事項として挙げられています。


❉❈ 桜路町区

 夕京市のほぼ中央にあり、皇居および各種政府機関が存在していた地域にして、対霊魔戦線の最前線です。


❉❈ 神守区

 桜路町の北東にある地域で、霊境崩壊に際して全滅し、放棄されました。夕京復活大聖堂と呼ばれる正教の大聖堂がありましたが、倒壊の憂き目に遭いました。


❉❈ 柊橋区

 桜路町の東にある地域で、霊境崩壊に際して全滅し、放棄されました。


❉❈ 禾橋区

 桜路町の南東にある地域で、霊境崩壊に際して全滅し、放棄されました。


❉❈ 羽柴区

 桜路町の南にある地域で、霊境崩壊に際して北部が被害を受け、復旧が進められています。


❉❈ 朝霞区

 羽柴区の北西にある地域で、朝霞霊境のある花守の地です。霊境崩壊による一般人への被害は軽微だったものの、霊障に対応していた花守たちの多くが命を落としました。現在は朝霞家当主神鷹の指揮のもと、霊境絶対防衛戦線が敷かれています。


❉❈ 榎坂区

 桜路町の南西にあり、臨時政府の拠点となっている地域です。霊境崩壊による被害を免れ、避難民を多数受け入れています。


花霞かすみ邸〉

 花守たちの拠点となっている御用邸です。作戦会議や休息などをここでとっています。


❉❈ 初谷区

 桜路町の西にあり、霊境崩壊による被害を免れた地域です。多数の避難民を受け入れたことで多少の小競り合いはあるものの比較的平和で、日常らしい日常が送れる場所です。


〈八ツ野喫茶〉

 女学生に人気の小洒落たモダン喫茶で、うら若き乙女たちが珈琲や洋菓子をつまみながら秘密の話に花を咲かせます。隠れたデートスポットでもあります。


❉❈ 囲区

 桜路町の北西にある地域で、最高齢の花守である囲麗華が囲霊境防衛線を敷いています。霊境崩壊の被害を免れ、囲の命令で避難民を積極的に受け入れています。


❉❈ 欅川区

 桜路町の北にある地域で、霊境崩壊の被害を免れた地域です。感染症や暴動を恐れて外国人や避難民の受け入れを拒否しており、大霊災の混乱の中で孤立しています。


❉❈ 山郷区

 神守の北にある地域で、山郷霊境を中心に霊魔との水際の戦いを強いられています。花守として覚醒した外国人のみで構成された〈異人隊〉が結成され、訓練を受けています。


❉❈ 翁寺区

 山郷の東にある地域で、霊境崩壊に際して全滅し、放棄されました。


❉❈ 迫間区

 翁寺の東にある地域で、霊境崩壊に際して全滅し、放棄されました。


〈秋橋〉

 丸奈川まながわに架かるレンガ橋です。春には川に沿って植えられた桜が咲き乱れる観光スポットでもありました。現在は焼失しています。


❉❈ 古谷区

 丸奈川を挟んだ東にある地域で、霊境崩壊に際して全滅し、放棄されました。


❉❈ 深山区

 丸奈川を挟んだ東にある地域で、霊境崩壊に際して全滅し、放棄されました。



❉ 霊境崩壊

 慶永6年9月1日、幽世と現世を結ぶ霊境が綻び、霊魔と呼ばれる異形が大量に現世に溢れ出、夕京市および隣接地域に甚大な被害をもたらした大霊災です。霊障による夥しい死者と新たな霊魔を生み出し、彼らの暴走による建築物の倒壊も目立ちました。現在、罹災の混乱により首都機能が麻痺しているため原因の特定は難航していますが、深山市の霊境の崩壊が引き金になったのではないかと言われています。



❉❈❉❈❉❈❉❈ 人名録 ❉❈❉❈❉❈❉❈


朝霞あさか 神鷹じんよう

性別:男 年齢:24歳

 〈夕京五家〉のひとつ、朝霞家の現当主です。霊境崩壊により父・冲鷹ちゅうようと婚約者・深山七香なのかをはじめ多くの血縁と死別しました。朝霞家の生き残りの花守たちを率い、朝霞霊境を防衛するための指揮を執っています。契約中の刀霊は打刀〈無銘〉です。


かこい 麗華れいか

性別:女 年齢:78歳

 〈夕京五家〉のひとつ、囲家の現当主です。奇跡的に霊災の被害が少なかったため、避難民を積極的に受け入れています。女性ながら逞しく、度胸があり皆に頼られる存在です。夕京市の花守のなかでは最高齢で実力もあり、花守たちの長と目されています。契約中の刀霊は薙刀〈金剛〉です。


山郷さんごう 伊之助いのすけ

性別:男 年齢:65歳

 〈夕京五家〉のひとつ、山郷家の現当主です。山郷霊境防衛戦の指揮を執る老獪な人物で、花守として覚醒した外国人を集めた〈異人隊〉の育成に力を注いでいます。語学に長け、西洋の文化にも明るく、霊災の混乱で迫害されている外国人を保護しています。契約中の刀霊は大太刀〈大和〉です。


迫間はざま 賢一郎けんいちろう

性別:男 享年:36歳

 〈夕京五家〉のひとつ、迫間家の当主です。霊境崩壊に巻き込まれ命を落としました。霊魔となることを恐れた彼は契約していた刀霊に介錯を頼み、自刃したと伝えられています。賢一郎には子がなかったため、迫間家の霊脈は途絶え、現在は賢一郎と契約していた刀霊、脇差〈八雲〉が迫間地域の花守たちを支援しています。


深山みやま 影辰かげたつ

性別:男 享年:41歳

 〈夕京五家〉のひとつ、深山家の当主です。霊境崩壊に巻き込まれ命を落としました。深山地域は最も甚大な被害を受け、深山家の花守たちも全員霊魔との戦いの中で斃れています。影辰の娘であり朝霞家に嫁いでいた七香も霊境崩壊で亡くなったため、深山家の霊脈もまた途絶えました。影辰と契約していた刀霊、太刀〈生駒〉は現在も行方が分かっていません。


南条なんじょう 志信しのぶ

性別:男 年齢:55歳

 第22代内閣総理大臣です。霊境崩壊直前に急逝した前大臣の藤森史郎に代わり南条内閣を組閣しました。南条は桜路町を霊魔との戦いにおける最前線に設定し、各種首都機能を榎坂へと移転、「内閣告諭第四號」および緊急勅令「勅令三五六號」によって市内の花守を参集し対霊魔戦線を敷いています。

 南条は花守ではありませんが頭の切れる政治家で、霊災に乗じて主導権を握ろうとする軍部を上手く抑えています。


依花よるか(今上天皇)

性別:女 年齢:12歳

 皇室において最も強い霊力を持つ花守にして日ノ国の神的事象を統べる天皇です。幼いながら慧眼を持ち、治世における最大の困難として霊境崩壊に立ち向かいます。契約中の刀霊は刀剣〈天叢雲〉ですが、神剣ゆえにそれを抜くことはありません。

 年不相応な聡明さを持ちますが、彼女は輪廻より転生した南朝の姫であり、十五歳という若さで自らの子とともに入水を強いられた過去を持ちます。今生では天皇として後悔を清算すべく民を深く愛しながらも、花守たちに死の戦を強いる側となり苦悶します。

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