第5話 真夏の “落ちる” 三連発② ハンドドライヤー

 コンビニおにぎり事件から二週間くらい経った日曜日の夜のことです。

 私は仲間とお酒を飲みながらカラオケ屋で歌っていました。

 22時過ぎにお開きになって支払いを済ませた後、私はトイレに行きました。用を済ませて手を洗い、タイルの壁に備え付けられていたハンドドライヤーに手をかざしました。

 普通なら機械の上部から送風されますが、この時は反応がなく、風が吹き出しません。

 私は、かざした手が機械に検知されていないと思って、手をこすり合わせます。

 しかし、それでも風が吹き出しません。

 私は、なんとか検知されるように、今度は、激しく手をこすり合わせました。

 その時です。タイルの壁に備え付けられていたハンドドライヤーが床に落下し、タイル壁のコンセントにつないであった電源コードも一緒に抜け落ちました。

 唖然として床に落ちたハンドドライヤーを上から見つめていると、こともあろうに、コードが抜け落ちて電源を持たないハンドドライヤーがブオオオオと激しい音を出しながら送風し始め、その風のせいなのか床の上でくるくると回り始めました。

 けたたましい音を出しながら床の上で10秒ほど回ったハンドドライヤーは、やがて動きをやめて沈黙しました。

 それは、もう、恐怖のシーンである以外、なにものでもありませんでした。


 トイレには私一人しかいないので、今起こった出来事を証明したり、口添えしたりしてくれる人はいません。しかし、このことを知らぬ振りをしてお店を出ることもできないと思った私は、カラオケ屋のカウンターに行って勇気を出して報告しました。

 全くもって怪訝な表情を隠せないカラオケ屋の店員さんと一緒に男子トイレに行きました。ハンドドライヤーは間抜けな格好で床に転がったままでいました。私は身振り手振りを入れながら状況を店員さんに説明しました。ポイントは、私がハンドドライヤーに全く手を触れずに、激しく手をこすり合わせただけでタイルの壁から落下したことにあります。

 タイルの壁をよく見てみると、ネジ穴が4か所ありました。ハンドドライヤーには、ねじり回しながら取り付けるタイプのネジが3本ついたままになっていて、1本は少し離れたところに落ちていました。

 何も触れることなくネジが4本とも抜け落ちて壁から落下し、電源コードも同時に抜け落ちているというのに、その後に送風しながら床をくるくる回ったあげくその動きを停めた。

 誰が、そんなことを信じてくれるでしょう。私だったらまずは信じません。

 でも、残念なことに、ほんのさっき、その信じられないことが私の目の前で起こったのです。


 私がどんなに説明を重ねても怪訝な表情が変わらなかった店員さんでしたが、最後には、どうしようもないという感じで「わかりました」と短く答えて私たちはトイレを離れました。

 私がいつまでたっても店外に出てこないことを心配した仲間が店のロビーに集まっていました。

 帰りの車の中で、再度、私は事の顛末を仲間に話すわけですが、納得した返事をした人は誰もいませんでした。という、本当にあった不思議なお話でした。






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